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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
430/446

禁域調査

“禁域”調査、決行日。


「久しぶりね、アウグスト元宰相。元気そうで何よりだわ」

「そっちこそ。三国協定の締結、おめでとう。私がいなくてもよくやってるようで何よりだよ」


金と銀が並び立ち、冷ややかな会話の応酬をする。内務省から選び出された“禁域”調査隊は、気が気ではなかった。


まさか、この人物がここに来るとは思っていなかったのだ。ガウナ・アウグスト。ソフィア・アルネルト殺害事件の裁判以来、外患誘致の罪で連れていかれ、その後行方不明となっていた元宰相。彼がいない間に、王都では、さまざまなことがあった。


王都中央拘置所の刑務官だったレードル・ストリが、“囚人殺し”を企み、王城関係者である『魔女の信徒』が一斉摘発された。


そのどれもの中心にいた人物はというと、果敢なのか鈍感なのか、彼と彼女のそばに歩み寄った。


「本日は、お越しいただき感謝いたします」

「こちらこそ、急に参加することになってすみません」


和やかな会話が聞こえてきて、調査隊はほっと息を吐いた。ブラン・ルージュ。彼もアウグスト元宰相と同じく、近々内務省を辞職する身であり、この“禁域”調査で最後の花を咲かせようとしている。


その顔色は、憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしている。


「なにか、良いことがあったんですか?」


これには、アウグスト元宰相も疑問に思ったらしい。ルージュ秘書官と握手をしながら、驚いたように言う。それにしては、驚きすぎだと思うのだが。ルージュ秘書官は、首を横に振る。


「なにも。走るのをやめただけですよ」




この“禁域”調査に飛び入りで参加したのは、なにもアウグスト元宰相だけではない。 


調査隊が彼の次に気になるのは、気難しい顔をした、小柄な男である。


彼の名前は、デウレス・ラグルだと、自身で名乗った。故・ダグラス外務大臣の葬儀に参加し、エリオット・ノーワンの言葉を聞いている調査隊員は複数いる。


彼らは、なぜラグル商会の会頭がここにいるのかわからなかった。


あの葬儀での暴露の後、世間は揺れに揺れたが、結局、ダグラスの権益を追及することに収まった。調査隊員は、予知能力は、ただ「ある」としか認識していない。が、それにしても、デウレスと、ルージュ秘書官が同じ場所に立っていることが、不思議でならない。


ルージュ秘書官の暗殺を企んだライケット・オリヴァーと結託していたグランテの領主。その領主子飼いの暗殺者が使っていたナイフが、つまり、ルージュ秘書官の死因になるものの出どころが、ラグル商会であると、エリオットが暴露していたのに。


もちろんこれは、起こっていないことであるから、エリオットのでっちあげである可能性もあるが。


曰くつきの二人がこの場に並んでいることを、調査隊員たちは不思議に思い、不吉に思うわけである。




この日は、雲はあるが、晴天に恵まれた。噂では、女王陛下の機嫌が天候に関わっていると言われていたが、それもあながち間違いではないだろう。


女王陛下が憂いを帯びた表情で公務をしていると王都はどんよりとした雲と、夏にしては冷たい雨に襲われ、女王陛下が、林檎のように紅い瞳を輝かせながら公務をしていると、王都は雲ひとつなく晴れ渡るのである。


この場所は、王都の復興が、最初に叫ばれた場所であり、彼ら二人にとっても、思い出深い地であろう。


瓦礫の中で希望を語り、一葉の絵画にもなろう戴冠式と、爵位授与式を行なった二人は、今や袂をわかつことになってしまった。それがどうしてなのかは、調査隊員にはわからない。


二人は並び立ちながら、ルージュ秘書官が話す“禁域”調査の目的に耳を傾けている。


すべてのものに理由をつける必要はないが、未来のために知っておくべきことがある。旧政権が犯した罪を、いまの政権もなぞることのないよう、悲しみを悲しみで終わらせないために、我々は“禁域”の調査に臨むのである。


これは、新聞で明らかになったことであるが、彼は王総研の所長を祖父に持ち、義父は元内務省のユリズ・クリード内務副大臣である。彼もまた、旧政権側の人物と言えるのだが、はたして、どのような気持ちで調査に臨むのだろうか。




名門、セント・アルバート学園の英雄式典に使われるこの場所で、なにかが始まろうとしていた。

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