反省文
あの日、僕は運命だからという理由ではなく、彼女に見てもらうために殺そうと思ったんだ。
自分で自分を責めるより、他人に責めてもらった方がよっぽど楽だろ? 自分の内にある“良心”が咎めるのなら、“良心”を外側に作ればいい。そんな考えがあったんだけど。
やっぱり、ダメだった。
なにより、ちゃんと見てもらえているかどうかという保証がない。もしかしたら天国で彼女は眠っているのかもしれないし、朝ご飯を食べているのかもしれない。僕のことなんか忘れているのかも。
そう思ったら、いてもたってもいられなくなってね。彼女を生き返らせなきゃと強く思ったんだ。だけど一つ問題があった。君たちだ。
そう、君たち『魔女の信徒』は、血眼になって僕のことを探していたからね、それが本当に邪魔だった。だから、薔薇の魔女の代役を立てた。それがリルウだ。まあ当たり前だけど、彼女はローズに瓜二つだったから、幸いなことに見事に勘違いしてくれたわけだ。
それで昨日、『アッカディヤの魔術儀式』……つまりローズを蘇らせる術だね、に紛れて意気揚々と彼女を生き返らせようとしたんだけど、なんとも驚いたことに彼女は生きているとわかった。こうしちゃいられない、早く探し出して、僕の所業を目の前で見てもらわないと。
という話なんだけど、なんとか美化できないかな?
そんなガウナの長ったらしい言葉を聞かされて、『魔女の信徒』の教祖、シンス・ゲイナーはうんざり以前に「かわいそう」と思った。魔女のストーカーが言うのもなんだが、その彼女とやらがかわいそうだと思った。なんだって、生き延びたのにこんな粘着男の前に姿を表さなくちゃいけないんだ。強く生きるんだぞ……そんなことを考える昼下がり。
ここは、王都にある『魔女の信徒』本部。さきの『アッカディヤの魔術儀式』は失敗に終わったが、かわりになぜか正体を現してくれたガウナ・アウグスト公爵兼宰相をお迎えして、シンスは会合を開こうとしていた。その際になぜ公爵の初恋話(重い)を延々と聞かされているのか、シンスにはわからなかった。
どうせなら、薔薇の魔女の生まれ変わりはリルウ陛下がよかった。
あんなに可愛い子のためだったら、国の一つでも落とし甲斐があるというのに。なんだってこんな糞を煮詰めたような性格をした男が薔薇の魔女の生まれ変わりなんだろう。
「はあ、それで? 公爵様は俺の可愛い信徒たちに何を言いにきたんですか?」
「金髪に、草色の瞳をもつ少女を片っ端から攫ってこい……嘘嘘、そんな犯罪者を見るような目で見ないでくれ」
「いや犯罪ですね。くたばれこの野郎」
「君も言うようになったね。昨日の夜はちらちらとこちらを見るだけだったのに」
「昨日はまだ畏怖の念があったけど、さっきの長話でロリコンクソ野郎ということが判明して軽蔑の念しか湧かないだけです。死ね」
「いいのかなあ? 僕は薔薇の魔女の生まれ変わりなんだけどなあ」
「それで俺は何をしたらいいんですかクソ公爵様死ね」
「語尾が死ねになってるよ」
だめだ。薔薇の魔女を人質に取られたらシンスは従わざるを得ない。『魔女の信徒』を始めたのは金儲けのためだが、薔薇の魔女を復活させるのは一族たっての悲願だからだ。
ーーこの公爵殺して、もう一回生まれ変わりを待てばよくね? いや、人が生まれ変わるのは、アイツによれば大体二百年周期だから、俺の代ではそれが見れないな。
自分で自分の案を却下して、シンスはガウナに向き直った。従順な下僕を手に入れてご機嫌な公爵様は、笑顔で言い放った。
「じゃあ手始めに、『魔女の信徒』を潰そうか」
湧き上がる高揚感が、ジルトを支配していた。
復讐相手が見つかった。
小刀を蹴飛ばす時に、魔法陣の光で柄の模様を確認した。間違いない、あの夜彼が持っていたものだ。四年前の夜に見た銀は、やはりガウナ・アウグスト公爵の銀だったのだ。
それに、“僕”の時は聞き覚えのある声だった。意図的に“私”の時は声を高くしているのかもしれない。
そんなことを考えながら、ジルトは己の業に向き合っていた。すなわち、
「こうして反省文を書くのって、楽しいわね!」
ファニタがにこにこしながら、すらすらとペンを走らせる。
どうしてこうなった。
本当なら、今頃公爵邸に殴り込んで、ガウナを殺すはずだったのに。ジルトとファニタ、それに別のクラスではハルバが反省文を書いていた。その罪、門限破り。
『アッカディヤの魔術儀式』を阻止したのはいいものの、帰りは“抜け穴”のある地下道へと戻れず、結局徒歩で帰ったために夜九時を過ぎてしまったのだ。そして門番のフレッドがブチ切れ、三人は今反省文を書いている。
ーーだが、俺はプロだ。
今まで幾多の反省文を書いてきた。もはや、誦じることも可能ーー!
ジルトはファニタに負けないよう、ペンを走らせ、走らせ、走らせる……
「アドレナは良いけどバルフィンはボツだな。いつも思うけどお前は別の反省をしてんだよな」
結果、ジルトは担任教師に書き直しを命じられ、その日は彼に監視されながら、泣く泣く反省文を書き上げたのであった。




