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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
429/446

不利

かち、かち。


何回かライターのヤスリを回して、やっと火がついた。火は、自分の味方のはずなのに。


そこまで考えて、魔術で火をつければ良かったとガウナは思った。つい文明の利器に頼ってしまうくらいに、思考力は衰えている。


それというのも。


「あの、地方上がりの成金が」


タバコは仕方なく吸っている。建物の壁にもたれながら、ガウナは息を吐いた。生ぬるい夜風に、煙が溶け込んでいく。


ラグル商会の会頭、デウレスは、おそらくリルウに籠絡された。ガウナが商会とグランテの癒着を指摘して脅しているのだから、これもおそらく、見逃してやるとかなんとか言って、“禁域”調査に巻き込んだのだろう。そしてこれもおそらく、“禁域”を指定したのは、あの忌々しい王様がつくった結界の存在に気付いたからなのだろう。


()()()()だらけだ。あちらには、()()()()()()()()()()、正確な予知が可能だというのに。


月はまだ、雲に隠れて出てこない。


ーーチェルシーの死に方は良くなかった。


もっと方法はあったはずだ。たとえば、チェルシーが魔術を使おうとしても使えない状況を、ガウナが意図的に作り出すなど。それをしなかったから、リルウに……というか、これもおそらく、あの青色の瞳の少女に、結界に気付かれた。


……王宮の地下は、魔術師を殺すにはうってつけの場所である。


ーーそれにしても、チェルシーはどうやってフランド君を殺したんだ?


それも聞きたかったのに、死者になってしまったフランド警邏官は、ガウナのことを軽蔑の瞳で見てきたので聞けずじまい。


結局、どっちが先に死んだのかはわからない。チェルシーとて、あんな細い身なりをしながらも、ディーチェルの末裔だ。体格差のあるフランド警邏官相手に、大立ち回りをしたのかもしれない。


ーーいや、ないな。


なにせ、フランド警邏官は、ストリ刑務官が選びに選んだ優秀な人材である。どこかの銀髪の自分と同じく、魔術に頼り切りのチェルシーを制圧できないわけがない。


それなのに、警邏官は死んだ。


ーー殺し返した、ということは。


近くに来た時に、差し違えたとか? ニュアンス的には同時だったけれど。


魔術も使えない中で、窮鼠猫を噛むのを発揮したのだろうか。


ガウナには、チェルシーの死に様がわからなかった。無傷で死んだのか、無惨に死んだのか。


それがわからない以上、予想すらできやしない。


ーー僕の時は魔術を使えたけど、それは、つくった本人を呼び出したからなんだろうな。


ガウナの故郷で殺戮をした際、彼は、海軍兵士を深海に一斉投入するために結界……というか、それに見せかけた抜け道を作ったわけだから、ありえない話でもない。


だが。


ーー自分だけが、影響を受けないというのはわかる。


生ぬるい風が、ガウナの髪を浚っていき、なぜか首筋が冷えた。煙草を持っている手は、それこそ氷のように冷たい気がした。


ーーだけど、それをわざわざ、僕を閉じ込めていた地下に設定したってことは。


「地下に……」


声を出しそうになって、ガウナは口を閉じた。


ーーあの性悪は、地下に降りる予定があったってことだ。


ルクレールが善意を発揮して、梯子を垂らしたのは、ほんの偶然。では、その偶然が起きなかったら?


ーー僕は。


ガウナは、地面に視線を落とした。平らなはずの地面は、誰かの手のひらの上のように感じた。


ーー僕は、僕の意志でここに立ってるはずだ。運命とか、あの男の意思とかじゃない。僕の求める良心ただ一人のために。


けれど、ガウナは思うのだ。どうして、魔女の生まれ変わりである自分だけが生かされたのか。どうして、あの男は、ガウナに聖剣を返して、ガウナに殺されたのか。


「……」


強く頭を振る。違う、今考えなければならないのは、抜け道だ。


地下のことに気付いたなら、フェネルのことにも気付いているだろう。これは、おそらくよりももっと確信を持って言えるが、今頃はリルウの手の内だろう。


ーーそれは、僕の考えている通りだ。


煙草を吸い終わり、靴で踏み躙った。それを拾って、ポケットに入れ、ガウナは歩き出した。


ーーラグルは使えない、カルディアスという男も怪しい。


敵も味方も、これではわからない。向こうには予知能力者が二人いる。愛しの良心は、ガウナの声には振り向いてくれないどころか、思考を読む耳を持っている。ならば。


「やることは、ただ一つ」


ーー最後のぎりぎりまで、不利を演じる。











そうして。


「先輩……?」

「ごめんな、クレオ。会頭に、顔見せできなくなった。アントニーさん、クレオを頼みますね」


死の匂い立ち込める地下に、ジルトは足を踏み入れた。

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