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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
427/446

死してなお

血は、少しずつ流さないといけない。


今のチェルシーがしなければならないことは、あの紅茶色の髪の警邏官、フランド警邏官を殺すことだ。だがそれには、条件が付属する。


それは、自分も死ぬ覚悟でいなければならない、ということだ。


ーーあの王サマ、馬鹿なんじゃないの。


壁に手をついて、地下の薄い空気を取り込もうとする肺をどうにか沈めて、チェルシーは、今は亡きこの国の君主に、心の中で悪態をつく。


ためしに、ガウナも使っている結界を使ってみる。不発。漏れ出た魔力は、チェルシーの血液の中に戻っていく。これでは、フランド警邏官を殺せない。


この地下には、魔術の発動を阻害する何かがある。具体的には、結界。ディーチェルが使うような結界が、この広い空間に、張り巡らされているのだ。


ーーたぶん、トウェル王が、ここに閉じ込める時、アイツを逃さないために張った結界だな。


荒屋での戦いを思い出す。二人の心臓を内から凍らせたように、あの王様は、外部ではなく、人間の内部に作用する魔術が得意なのだろう。血管のあちこちを塞がれているかのように、魔力の流れが阻害されている。


……気配がした。


チェルシーのことを予め聞いているのだろう、決して近くには来ないフランド警邏官の投げたナイフが、チェルシーの腕を掠めた。


ーー暗闇で、これだけの精度。


この国の警邏官は優秀だ。暗殺者にも向いているなんて。


焼け付くような痛み。だが、チェルシーの口元は笑っていた。


ーーこれでまた、魔力が外に出せる。


自分で自分を傷つけることもできるが、それだとフランド警邏官に目的を知られてしまうかもしれないし、何より、逃げるのに必要な体力を失うかもしれない。彼を殺すために逃げ回ってるのに、それでは意味がない。


ーーあーあ、私がラテラみたいに強かったらな。


本来、こういうことに向いているのは、チェルシーの従者の少女。だがなんとなく、チェルシーはラテラに人を殺させたくなかった。


ーーいまさら、何言ってんだって話だけどね……。


結界でたくさんの人を殺してきた。その時には何も感じなかった。それが、変わったのは。


ーーあ、でも、いーこと思い付いたかも。


チェルシーはほくそ笑む。飛んできたナイフが背中に深々と刺さり、心臓でなくよかったと安堵する。


朦朧とする意識の中で、もう十二時間は経っただろうかと思う。経っていたら、チェルシーの勝利だ。ダグラスの彼は、チェルシーがフランド警邏官と会った段階で、まだチェルシーの結末を知らないわけだから。


ーーそれに、しても。


ルージュ秘書官たちがガウナを追い詰めた時、ガウナは『アッカディヤの魔術儀式』を使ってトウェル王を召喚し、空間魔術で地下を去ったらしい。


ーーどうしてアイツは、魔術を使えたんだろ。


ずる、ずる、チェルシーの歩みは遅くなっていた。反対に、血液から流れ出た魔力は高められ、加速する。


ーーここは、あの男を閉じ込めるための施設なんでしょ? じゃあ意味ないじゃん。


そもそも、トウェル王は、予測しておくべきだった。ガウナが魔法を使えるようになって、牙を剥いてくることを。


聖剣を渡したことから、殺される予定だったことはわかる。けれど、トウェル王の考えているタイミングより前に魔法を手に入れられたら、せっかくの計画も台無しになってしまうのに。


ーーとすると、結界は正常に機能してるって考えた方が自然かな。


さて、チェルシーが結界についての結論に辿り着くのと、フランド警邏官に殺されるのと、彼を殺すのと。どれが一番早いだろうか。

何かを考えていないと、痛みで発狂しそうになる。意識を手放してしまいそうになる。


チェルシーはそれを考えることに集中して、集中して……そして、答えを得た。


ーーそうか。


考えてみれば、簡単なことだ。答えは二つある。






「結界を作った本人が、自分だけが魔術を使えるように対策をしておいた。と考えるのが自然でしょう。もしも想定外のことが起きた時、自分が使えないのでは、意味がありませんから」


暗闇を彷徨った彼女の思考を辿るように、ファニタは言う。


「『アッカディヤの魔術儀式』で召喚したのが、我が父だったから使えたというわけですね」


あの父のやりそうなことだ。リルウは頷いた。自傷を禁じていたのは、血を流させないためでもあったが、万が一を考えていたということか。


「ですがそれ以前に、儀式はなぜ実行できたか、という疑問が残ります。父を呼び出すにしても、そもそも魔術が使えなければ、呼び出せません」

「ええ、その通りです。ですが、陛下もご存知の通り、アウグスト元公爵が使っているのは、改良された儀式ですよね」

「ああ、そういうことですか」


あの荒屋での戦いを思い出して、リルウは得心した。


「あの男の魔力は外部付け。指ひとつ鳴らすだけで、外部から魔力を調達できると」

「ええ、そうです。本来、『アッカディヤの魔術儀式』とは、三人で行なうものです。憑依させる人物、魔力を供給する人物、その人物から魔力を吸い取って与えるために魔力を使う人物。けれど、彼の編み出した儀式では、二人目と三人目が合体しているんです」 


つまり、吸い取るのと供給するのを、二人目の人物に押し付けているわけである。ガウナは指を鳴らして、スイッチを入れるだけ。


そして、それがわかったら、今まで優先度的に低く、困難だと思われていたことにも、着手しなければならないというわけだ。


すなわち。


「あの男を、王宮地下に連れて行き、かつ儀式を使えないように、予め供給要員を潰しておけば」

「あの人は、無力化されて逃げられないということです」


希望が見えてきた一方、リルウは、疑問に思う。


「でも、どうしてディーチェル公爵は、そのことを副大統領に知らせなかったのかしら」


ファニタの推測を疑うわけではないが、実際にチェルシーが口に出してくれていれば、この計画にも確証ができるのに。


「ええ、私もそう思います」


向かいに座るファニタは、苦笑いしていた。当然、その答えにもたどり着いているというわけなのだろうが。


「そのことを知ったら、彼を生かしておく選択肢が生まれてしまうでしょう? チェルシーは、()()()()()の子ですから」

「ああ、そういうことですか」


リルウもまた、苦笑い。


死してなお、厄介な少女である。

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