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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
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無力化

初めて見た時と変わりない意志の強さで、ファニタ・アドレナは決然と言い切った。


「ジルトの意志は変わりません。だったら、私がすることは一つです。ジルトの復讐を完遂させつつも、あの人を殺させない。それが、最善手だと思いました」

「それが、お兄様を裏切ることだとしても? 貴方は、それに耐えられるのかしら?」

「ええ。お墓までその秘密を持っていきますよ。それに、戻れる道を用意することは、裏切りとは言いません。形は違えど、私は、アイツの味方ですから」

「アイツ、ね」

「あっ、すみません。リルウ陛下の前でっ」


一転、わたわたと両手を振るファニタに、リルウは「違うのよ」と微笑んだ。ただ、羨ましくなっただけだ。“お兄様”ではなく、“アイツ”と呼べるファニタのことが。 


「紅茶を飲みながら話しましょう。きっと、長い話になるだろうから」


ファニタが手に持っている分厚い紙束は、きっと、その計画のことに違いない。リルウがそれに視線を注いでいると、その視線の先に気付いたファニタは苦笑した。


「あ、いえ、話自体は、短いんです。これは、ここに入るために使ったもので……」




そもそも。


元男爵家とはいえ、一般市民のファニタが王城に入るには、よほどの理由が必要である。


シリウス・スピレード元内務大臣の暴走の時は、王城が警備含めてダウンしていたので易々と入れたが、この国の君主のいる建物に入るには、それ相応の理由がいる。


「それで、持ち出してきたのがこれなんです。これだったら、ハルバも迂闊に手を出せないだろうし」


苦笑いするファニタに、リルウは口元を引き攣らせた。なぜならば、ファニタが持ち出してきたものは、異端を受け入れられないこの国において、もっとも異端な研究『アッカディヤの魔術儀式』の論文なのだから。一歩間違えば、逮捕即処刑。そんな劇物である。


「な、なるほど。それなら、ダグラスの彼も手を出せないですね」

「とはいっても、これは新たに書き直した論文なんです。流石に結論は話せないので、途中までわかったって言って入れてもらったんですけど」


でもその結論も、間違ってたみたいですけどね。


あっけらかんと言うファニタに、リルウの中のセレス姫は、『名無し(ネームレス)なんですよね、彼女は』と驚いたように言う。名有りだろうが名無しだろうが、すごいものはすごいのだ。前世で偉かったからといって、今世で偉くなれるわけじゃない。


『女王様が言うと、説得力はありませんよ』


ーー女王様ってだけだもの、私は。


セレス姫との会話を打ち切って、軽々と命の危機を飛び越えてこちらに会いにきたファニタに向き直る。


「これで、私の覚悟は伝わりましたか?」

「ええ、充分すぎるほどに」


むしろ、こちらから会いに行かなかったことに、リルウは恥じていた。この少女は、リルウよりも不利な立場にいながら、どうにかしてジルトを止めようとしているのだから。


同時に、この少女に先んじられたことは、幸いだった。リルウ自身がファニタに会いに行けば、リルウの考えていることを悟られる可能性があるからだ。


「よかったです。リルウ陛下にまで拒まれたら、私はどうしようかと」


ーーあ。


ティーカップを持つ手が震えていた。ファニタは、どよんとした目をしていた。


「そうしたら、私は王城の外に投げ出されて縛り首にでもされていたんでしょうから……本当、良かったです」

「いえ、そんなことはしませんけど……」

「もう、私には貴方しかいないんです。お願いですリルウ陛下、力を貸してください。ジルトを、アイツのことを、助けてください!」


ーー助ける、ね。


もちろん、聡明な彼女は、そのことをわかっているのだろうけれど。わざわざ口に出したのは、巻き込んでしまうリルウを説得するためか。


「こちらこそ、ありがとうファニタ。一緒に、お兄様を助けましょう」




問題は、ファニタがどこまで、リルウのやろうとしていることを知っているか、だ。


ーー私が()()を見せることで、私の考えていることがわかってしまうかしら。


ドレスの中に隠した冷たいそれを、彼女に見せるか否か。否、こんなものを見せたら、リルウが彼の殺害を企てていることが丸わかりだ。


結局、リルウはその身に隠した“聖剣”は見せずに、ファニタの作戦に乗ることにした。


その作戦とは、ガウナを王立裁判所にて有罪とし、極刑にしたことにすること。誤魔化すことは簡単としても、その後の彼の処遇が問題だが……


「おかしいと思いませんか。トウェル王は、あの人を魔女の一族だと知っていたんですよね。当然、魔法を使えるようになることも想定していたはず。それなのに、王宮の地下に閉じ込めるだけで、他には何もしなかった。私は、そのことである仮説を立てていますが……それにしても、時期を指定することはできないんです」


リルウは、顎に手をやった。なんとなく、彼女の言いたいことはわかった。


「魔法や魔術を使えないようにする空間ですか。ですが、ディーチェル公爵が断絶の結界を使えたことを考えると……」

「チェルシーは、相打ちだったんですよね」


ファニタは、それに対しても、答えを得ているようだった。


「フランド警邏官は、確かに強かったでしょう。けれど、チェルシーにはあの結界があります。それなのに、相打ちだった」

「まさか」


リルウは、ファニタを見た。父の影響で、魔法や魔術に遠けれど造詣の深い彼女は、頷いた。


「ええ、そうです。チェルシーが相打ちにしなければいけなかったのは、あの空間が、魔術を使いにくい空間だったからです。たとえば、魔力を中に閉じ込めるとか。だから彼女は、フランド警邏官に傷付けられて血を流すことで、魔力を外に解放した」

「……父なら、やりそうなことですね」


あの荒屋で対敵した父を思い出して、リルウは息を吐いた。


「それならば、貴方の考えはこうですか? もう一度、あの男を、王宮地下に閉じ込める」

「ええ、そうすればもう、あの人は、ただの普通の人です」


少し悲しそうに、ファニタはそう言った。

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