表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
423/446

中立

燃え盛る帝城。


ある者は、真っ赤な玉と、耳を拾い。

ある者は、肉に穿たれた銀の刃を引き抜いた。






王立セント・アルバート学園は、貴族や有力商家の子供が通う、由緒ただしき学園である。だが、彼らとて思春期の子供。たとえ婚約で自分の運命が決まっていようとも、色恋沙汰には敏感であるわけで。


「四角関係よ四角関係っ、きゃ〜っ!!」

「まさか、ハルバ君まで参戦するなんて! 目が離せなくなってきましたわね!」


きゃぴきゃぴとはしゃぐ女子生徒の横を、すすっと通り抜けて、ジルトとアントニーは顔を見合わせる。


「そういえば、ラテラは?」

「お前、今それ訊く? 気になることがあるとかで、街に出かけてるよ」


茂みに隠れながら、そんな会話をする。中庭の人だかりはだんだん大きくなり、中心に()()がいることがわかる。


「お前を説得できないからって、クレオって子を落とそうとしてるわけだな、ファニタは。で、それを予知したハルバが阻止しようとしてると」

「おっしゃる通りです」

「お前はどっち派なわけ?」

「ハルバが俺の気持ちを尊重してくれてああいう行動に出てるから、ハルバ派ですね」

「じゃ、あの公爵の命を奪うまで、とことん復讐するんだな」


アントニーは容赦ない。だが、事実には事実だ。ジルトは苦笑しながら頷いた。アントニーは、そんなジルトを、感情の読めない目で見て、溜め息を吐く。


「お前、けっこうヤバいやつだよな」

「そうですか?」

「そうだよ。せっかく助かったのに、また危険に飛び込むなんて、正気な奴のすることじゃない」


正気な奴。それがどんな基準かわからないけれど、アントニーの言葉にほっとした。これで正常だと判断されていたら、ジルトは一線を踏み越えられていないことになる。


「あっ、ジルト先輩〜。助けてください〜」


遠目からジルトを見つけたクレオが、よたよたと駆け寄ってくる。ファニタとハルバが、周囲の様子に気付いて手をワタワタと振って弁解しようとしている。


「遠くから見てるなんてひどいですよぅ。先輩たち、本当に怖かったのですから」 

「すまんすまん」 


抱きついてくるクレオの背中をポンポン叩くと、クレオは目を細めたが、少し恨みがましそうにぐりぐりと頭を押し付けてきた。なんだか、猫みたいだ。 


「ファニタ先輩は完璧な商会再建プランを出してくるし、ハルバ先輩は少しだけ予知能力を使って新しく作る商会を軌道に乗せてくれるって言ってくるし。あの人たちは悪魔です。私は堕落の道に誘われていたのです。あと一歩遅ければ、私は地獄に落ちていたのです」 

「なんか、愉快な後輩だな」 


アントニーの素直な感想に、ぱっと顔を上げるクレオ。


「む、誰ですか貴方は。とは言いません。お初にお目にかかるのです。クレオ・ラグルです。カイリ・マルクス財務大臣によろしくお願いするのです」


ぺこりと頭を下げるクレオ。さすがは地方有力商家の娘だ。


「私の商会が大きくなった暁には、ぜひご贔屓に」

「財務省潰れるわ」


堂々と癒着を示してくるクレオに、ジト目のアントニー。クレオは、けろっと(無表情)して、


「冗談なのです。財務省は、ただでさえ危ない立場に置かれているのですから、追い詰めるような真似はしないのです」

「危ない立場? あー、旧政権のなんたらってやつか?」


アントニーが思い出しているのは、おそらく、“囚人殺し”の時に馬車に轢かれかけた時のことだろう。『魔女の信徒』と旧政権が繋がっているという嘘を吹聴して、内務省の若手を動かしていた事件。

だがそれも、ストリ刑務官の逮捕で幕を閉じたはず……


「気をつけてくださいなのです。あの男、ウチだけじゃなくて、他のところにも声掛けしているので」 

「なんでそんなこと知ってるんだよ」

「私は優秀なので。ジルト先輩」


アントニーの質問をするりと躱して、クレオはジルトを見た。不思議な、夕焼け色の瞳で。


「あの時、私を庇ってくれてありがとうございます、なのです。とても嬉しかったのです。今、父が用意した婚約者を軒並み潰している最中なので、安心してほしいのです」

「お、おう?」 

「なので、貴方はいつでも降りられる」

「……お前も、ファニタ派なのか?」

「いいえ。私は商人なので。中立なのです」 


くるっと踵を返して、クレオは振り向いた。


「でも、中立って案外難しいのです。人が増えれば増えるほど、私の中立も変わってくるので。ですから、両先輩方」

「あ」


いつの間にか、ジルトの後ろに、周囲への弁解を終えたファニタとハルバが立っていた。


「お誘いは大変魅力的なのですが、私は辞退させていただくのです。ごきげんよう」


頭を少し下げて一礼。クレオは、校舎の方へと消えて行く。


「もう少し良いプランを提示できていれば……!」

「もう王都一番の商会になるまで予知してやるって言えば良かったかな」

「後輩の方が大人じゃねえか」


アントニーのツッコミが、虚しく中庭に響いて。






『本当にやるの?』

ーーええ、これが、正解なんでしょう?

『そうだけど、貴方、まだ十歳でしょう? これからの人生を歩むには、先が長すぎる』

ーーどうして人生に先がある前提で、私の行動を決めなければいけないの? 私は六歳の時、死んでいたかもしれないのに。

『死ぬつもり?』

ーーあの男を殺したらね。

『代わりに殺すなんて、誰も喜ばないわ』

ーー殺す意味はあるんでしょう。深い結びつきが生まれるんだもの。


運動神経は、残念ながら良いとは言えない。けれど、これなら、小娘の私にも扱える。


「お願い聖剣。魔力を全部あげるから、あの男を殺せる力を、私にちょうだい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ