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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
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小さな蛇

それは、単なる偶然で、何の意味があるのかもわからなかった。


学園を休み、ロドニーと共に、これからの商会の行く末を話しあおうとしていたその時。ふと、窓から見えた光景が、胸をざわつかせた。


遠く、王都の北西。あれは、小さな教会がある、未開発の地区だろう、細くたなびく煙が上がっていた。


大火の後にはよく見た煙。最近は、行き倒れの人間が、荼毘に付される時に時折見かける。それなのに、その煙は、特別なものに思えた。




学園祭の日、女王陛下の囮を買って出た時。のうのうと生きている銀髪の青年を見て、何日か前に見た煙の意味を、唐突に理解した。


そうか、


「もう、帰ってこないんですね。ミュール様」


そうして私は、アリア・ソリュースは、ミュール様の帰りを待つのをやめたのだ。




転機は、突然訪れた。


「商会を売る?」

「はいなのです。私が好きだった商会は、もう腐り落ちてしまったので」


眠そうな目をしながら、過激なことを言う少女の名前は、クレオ・ラグル。最近羽振りが良いと聞く、ラグル商会の一人娘だという。

そんな少女が、なぜ、単身、敵ともいえるフランベルク商会へと赴いたのかといえば。


「跡形がなくなっても良いと思うのです。けど、名前だけは残しておきたいと思うので」


クレオの瞳は、どこまでも真剣だった。けれど、ラグル商会ほどの大きな商会を潰す話を、私はどう処理していいかわからなかった。


「もちろん、あなた方にもメリットはあるのです」

「メリット、ですか?」


この話を受けるかどうかを見極める要素にはなるだろう。


「そうなのです。認可制の刃物を秘密裏に扱い、ルールを大いに破っている商会という不安要素の塊を買い取っていただくために、とっておきの情報を用意したのです」


私は、思わず苦笑してしまいそうになった。


ルールなら、フランベルクの方が破っている数が多い。ただ、うまくやっているというだけで。今はしていないが、ミュール様が会頭の時は、敵国である帝国に良質な武器を流していたぐらいだ。刃物を秘密裏に扱っているぐらい、不安要素でもなんでもない。


けれど、これは“商談”だ。私は、その情報をクレオに与えなかった。小動物のようで、フランベルク商会から見れば正義感に溢れた彼女が、どんなカードを切ってくるのかを見たかったからだ。


それがくだらないものであれば、可哀想だが、彼女にはおかえり願おう……。


「最近、とある人が、ラグル商会と、グランテの領主様の関係性を探っているのです」 

「とある人?」

「はい。ガウナ・アウグストという人物なのですが」


くだらなかった。

私が抱いていた考えこそが。


クレオが切ってきたカードは、私の首を縦に振らせていた。それくらい、強力なカードだった。


クレオは、小さく小さく笑みを浮かべた。


「気に入っていただけたようで何よりなのです。腐り落ちる船は解体して、焚き木にでも使ってやらないと」


随分と、豪胆な物言いをする。


「ですが、貴方はそれで良いのですか? 商会が潰れれば、貴方は、学園にいられなくなる」

「ご心配、感謝するのです。でも、大丈夫なのです。商会を売っぱらったお金で、新しい商会を興せば良いだけの話なのですから」

「それは、貴方が?」

「はいなのです。ところで、アリア・ソリュース副会頭。私が貴方にこの条件を言うことができたのは、何故だと思いますか?」


こてん、と首を傾げるクレオ。だが、それは、小動物的というより、その小動物を食らう蛇のようだと、私は思った。そうして、小さな蛇は、口を開いた。


「それは、この私が、ラグル商会の実質的会頭であるからに、他ならないのです」


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