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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
419/446

協力者

クレオ・ラグルは、不思議な色合いをした少女である。


彼女は、夕暮れ、燃え尽きる寸前に一際輝く太陽のような橙色の目を持ち、反対に、太陽の恩恵を失った大地のように、限りなく黒に近い茶褐色の髪色をしている。対照的な色合いを持ちながら、彼女自身の落ち着いた雰囲気が、それらの色をうまくまとめていた。


隣に座るジルトを引き立てるように、両手で示す。


「ここにいるのが、私の婚約者。セント・アルバート学園二年一組、ジルト・バルフィン先輩なのです」

「クレオの婚約者であるジルトです。よろしくお願いします」


あからさまな緊張感をともなって、ジルトがガウナ達に頭を下げる。知らないふりなのにぎこちないのが微笑ましい。


「よろしく、ジルト君。私の名前は、わけあって話せないが、“公爵”とでも呼んでくれ」


どうせなら、出会った頃の呼び名で呼ばせても良いだろう。


“公爵は限られてくるだろうが”というジト目を一瞬見せたジルトだが、すぐにぎこちない笑顔に戻って、「よろしくお願いします」と頭を下げた。


「父は、いないのですか?」


クレオが口を開く。彼女の父がここに来なかったことに、然程驚いていないように見えたが、表情がわかりにくいだけで、驚いているのだろうか?


これには、カルディアスが説明をする。


「会頭は、お忙しい身。大変心苦しいのですが、私に婚約者殿を見極めて欲しいと頼まれ、私が名代として参上仕った次第です。会頭は、クレオ様が婚約者をお連れしたことを、たいへん喜ばれておりました」


ガウナでも思う、とってつけたような言葉。クレオは、「そうですか」とだけ言って、納得したようだった。どうにも掴みにくい少女である。 


「父が、商会を大きくしようと激務をこなしていることは知っているのです。私も父には、早く心穏やかに過ごせるようになって欲しいのです」


一見して、父親を労っているような言葉だが。


「だから、ジルト先輩を連れてきたのです。父の仕事を手伝ってもらって、ゆくゆくは、会頭の地位に就けるように」


要は、ジルトを使って、自分の父親を蹴落とそうとしているのである。そうでなくても、自分の息がかかったジルトを商会に潜らせれば、父親とガウナの好きなようにはできないだろうという考え。


もちろんガウナとしては、婚約者という言葉には拒否反応を示さざるを得ないが、一度逃した魚が手元に帰ってくるとあらば、吝かではない。


「とても良いお考えです。その際には、私をそばに置いていただければ幸いです」


ジルトの口の端が、ほんの少しだけ下がった。ジルトもジルトで、あまり感情が出る方ではないが、無感情そうなクレオの隣に座っていると、わかりやすい方だとわかる。


「良かった。実は、少し緊張していたのです。こういうことって、初めてだから」


白い肌にほんの少し朱を乗せて。クレオは、瞳を伏せる。鞄から書類を取り出して、ガウナ、というより、カルディアスの方に向ける。


「これは?」

「私とジルト先輩の婚約を認めると、父の代わりに貴方がサインしてください。名代なのですから」


彼女は理解している。形になるものを残さないと、殺されると。


「ええ、かしこまりました。ですが、その前に」


カルディアスが、紙の上に指を乗せながら、ジルトを見る。


「彼の素行を調査した結果を、言い渡さなければ」






カルディアスが読み上げるジルトの素行は、たった一日で調べたにしては詳しすぎた。


ガウナが情報提供をしたのだろうか。それにしても、彼が知らないはずの情報が多すぎる。


『うまくいってるのです。さすが私』


外見からはわからないが、クレオは、心の中ではほくそ笑んでいる。依然として、カルディアスの行動に驚いていない。


『ジルト先輩を選んだ甲斐があったというものです。情報通り、公爵は、先輩に弱い』


ーー情報通り?


そもそも、クレオは、どこでジルトとガウナの関係を知ったのだろうか。その疑問は、今でも解消されていない。


ーー俺の情報を教えた誰かがクレオの背後にいて、その人間は、コイツを貶めようとしている?


『あとは、レアン氏と協力して、公爵と、父を追い詰めるだけ』


思わず、ジルトは、クレオを見てしまった。


「どうしたのですか? 先輩」 


きょとんとした様子のクレオは、小首をかしげた。その小動物然とした動きに反して、クレオののんびりとした心のつぶやきは、衝撃的なものだった。


ーークレオと、カルディアスって人は繋がっている?


だから、会頭でなく彼が来たことに、驚いた様子がなかった?


だが、クレオがジルトに初めて会った時、彼女はたしかに、縋るような心を抱えていたのである。


商会のことを一番に考える心を。


だが。


もしも。


ーー商会のためならなんでもするって思ってるクレオのなんでもが、商会に向けられていたら?


ジルトの疑問に呼応するように、クレオの静かな声が聞こえた。


『私は、商会を取り戻す。父が見失った商会を、この手に』


静かながら熱い思いが、耳を通して伝わってくる。


『そのためなら、こんな不良債権、売ってやるのです』 


ジルトは、自分が選ばれた意味を理解した。


ガウナと浅からぬ因縁があり、天敵とも言える関係もそうだが、クレオは、“問題児”が欲しかったのだ。今のラグル商会を、クレオは欲していない。


欲しいのは、


『新しいラグル商会。ううん、私は、ラグル商会を、王都一の商会に押し上げるのです。()()に負けないくらい』


……彼ら。それを考えているクレオの目線は、カルディアスに注がれている。


()()()()()()のノウハウを吸収して、必ず、国で一番大きい商会に、なってやるのです』


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