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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
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一騎討ち

とん、とん、という小さな音が、静かな教室に響き渡った。


レネ・フロワージュは、その音の発生源を見て、溜め息を吐く。


「そんなに気になるなら、見てきたらよろしいのではなくて?」


とん、とん。


「婚約者だなんて、突然すぎますわ。きっと何か、事情があるのでしょう」


とんとん、とん。“婚約者”という言葉を出した途端に、彼女が机を指で叩くスピードが速くなる。非常にわかりやすい。なおも机を叩こうとする指、その上から自分の手を重ねて、レネは彼女……ファニタに言う。


「せっかく、バルフィン様がお戻りになったのに、突然婚約者だなんて、貴方も不安でしょう。ですが、不安だからこそ、バルフィン様とお話するべきですわ」


以前、ファニタがジルトと仲違いのようなことに陥った時があった。それは、少しの間だったが……ジルトを遠ざけた時の、ファニタの憔悴ぶりときたら。まるで、心臓に直接影響が出ているかのようで、今にも死んでしまいそうな顔をしていたのである。


あのことがあってから、レネは、ファニタの恋路をいっそう応援することに決めていた。


ーーバルフィン様だって、ファニタのことは意識しているようですし。


ファニタに言えば、「アイツは朴念仁だから」など言われそうだが、レネから見ればそう思う。きっと、腹を割って話せば、突然現れた婚約者の正体とやらも、杞憂なことがわかるだろう。


ーーそれにしても。


「バルフィンの奴、アドレナさんがいながら、婚約者だと!?」

「明日、ご両親に挨拶に行くらしいぜ」

「クレオちゃん可愛いからなぁ」


問題児であるジルトと、小動物的可愛さを持つクレオの噂は、すぐに広がった。まだ、昼休みも終わっていない頃なのに。


ーーああもう、静かにしていただかないと、ファニタが余計に落ち込むじゃありませんの!


せっかく、意中の人が学園に帰ってきたのに。


「どうして、こうもこうも……」

「レネ?」

「いえ、何でもありませんわ。とにかく、バルフィン様と話してごらんなさいな。放課後、お約束しているのでしょう?」

「し、してるけど……」


ファニタは、どこか怯えているようだった。


「お二人で話して、納得できないようだったら、私にまた話してくださいな。このレネ・フロワージュ、常に貴方の味方ですから。いざとなったら、侯爵家の権力を使うことも厭いませんわ!」


胸を張って言えば、ファニタの顔には、笑みが浮かんでいた。


「ありがとう、レネ。でも、権力は使わなくても大丈夫。そうね、私、行ってくる!」

「え?」


がたん、と席を立つファニタ。


「こうなることは、わかっているんだろうけど。でも、精一杯足掻いてみるから」


青色の瞳には、様々な意志が煌めいていた。レネは、ファニタのそんな瞳が好きだ。

こうと決めたらすぐに行動する親友の背中を見送って、レネは微笑んだ。






ハルバは、ジルトのストッパーにはなり得ない。だから、ファニタにそうなってほしいと、思っていた。


「勝負よ、ジルト」


中庭から食堂に戻ってきたジルトは、眠たそうな目をしているクレオと一緒に、あんぐり口を開けていた。


ーーこの光景はわかってたけど、こんなこと言ってたんだな。


ハルバはしみじみ思う。


「勝負って?」


ジルトは半眼でファニタに訊く。ファニタは、こほんと咳払い。


「私は貴方にまた風邪をひいてほしくないの。だから、危ないところには行ってほしくない」


文脈はつながらないが、ジルトや、ハルバにはわかった。クレオは……ハテナマークを浮かべている。


ーーアドレナさんは、俺と違って、別の復讐を提示しようとしてるんだ。


ハルバは、ジルトの復讐を、そのままなぞって、最高の形で叶えてやりたいと思っている。ジルトに言われるがまま、クレオとの出会いを予知した。商会の娘だということも、すでに把握していた。

だが、ファニタは違う。ジルトに、違う復讐の形を提案しようとしている。ジルトがいなくなって、彼女は思ったのだろう。こんなに危ないことはしてほしくない、と。


だから、勝負なのだ。


「前言撤回するようで悪いけど、私は、貴方のことを止めてみせる。貴方のことを、繋ぎ止めてみせるから!」


予知対予測、ふたたび。


不謹慎な話だが、自分の予知が、どの程度ファニタに通用するか。試してみたい気持ちが、ハルバにはあった。


「いいぜ、止めてみせろよ。俺はもう、決めたから」


食堂が、にわかに騒がしくなる。


どうして騒がしくなったかといえば、


「うるさっ」


『神の左耳』を持っていなくてもわかっただろう。いや、ジルトは、わかっているのだろうか。


「これ、実質アドレナさんと後輩ちゃんの一騎打ちなんじゃね?」

「どうする? 賭ける?」


賭けるな。


ハルバは賭けの話をしている生徒をぎろりと睨んだ。


だが、紛らわしい言い方をした二人は、不気味に笑って、がっちり握手を交わしている。


「一年の頃の再来ってやつか」

「懐かしいわね……」


そんな二人を見て、小動物な後輩は、目を細めた。


「仲が良いのです。羨ましい限り」

「いや、君も当事者になってるからね?」


ハルバの頬は引き攣っていた。

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