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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
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お人好し

久しぶりに帰ってきた学園で、幾人かのクラスメイトに声をかけられた。大半は、ジルトを気遣うもの。それはそうだ、アントニーが、新聞に行方不明者として届出を出していたのだから。


いつも絡みにくる三人もおろおろとしていたし、トリーなんかは「大丈夫か? なんか困ったことあったら相談に乗るぞ(兄貴が)」などと言ってくれた。クラスメイトからしたら、ジルトは事件に巻き込まれたと思っているらしい。そして自分のクラスから遠くなれば遠くなるほど、噂に尾鰭がついて、廊下を歩くたびにジルトは好奇の目に晒されてしまうのであった。


「なんでも、どこかの貴族に噛み付いたとか。それで警邏に捕まってたらしいぞ」

「アイツならやりそうだよな」

「なにせ問題児だし」

「目つき悪いし」


ご要望にお応えして、そっちの方を睨んでやれば、蜘蛛の子を散らすように逃げていく生徒達。


「こーらっ」


ぽこん、と後ろから頭を叩かれた。振り返ると、そこにはファニタが立っていた。


「そんなふうに誰彼構わず睨んでると、余計に変な噂がつくわよ。実際は、ただの風邪で寝込んでただけだっていうのに」


合わせろ、というようにファニタが目をぱちぱちしてくる。別に、どう噂されようと構わないのだが、ジルトは溜め息を吐いた。 


「それ、言うなよな。カッコ悪いから」

「はいはい」


と。


「アイツ、アドレナさんといちゃついてやがる」

「アドレナさんも優しいよな、あんな落ちこぼれと仲良くしちゃって、さ……すみませんでしたぁあああ!!」


性懲りもなく、ジルトの後ろで陰口を叩いていた生徒が、突然謝罪をして走って行ってしまった。


「? 何があったんだ?」

「さあ? わからないわ。そんなことよりジルト、貴方がいない間に、授業のノートを取ってあるから、放課後二人っきりで、みっちり教えてあげるからね!」

「お、お手柔らかに……」


放課後二人っきり、の甘い響きに反して予想される光景に、ジルトは苦笑いしたのだった。


 


悔しいが、あの男は、料理の腕だけは確かだった。久しぶりの食堂で、しこたま料理をとった後、ジルトはぼうっと考えてしまう。


軟禁生活の中で食べた燻製は、本人が火を自由自在に操れることもあり、完璧な仕上がりだった。淡白な身の魚を燻製にして、パンにつけて食べるのは美味しかった。


別のところに才能があるのにな、というのは、そのことを決めたジルトが言ってはいけないことだが、思わずにはいられない。


「なに黄昏てるんだよ」


ジルトの正面に座るハルバが、少し眉を下げながら言う。


「せっかく風邪が治ったんだから、食堂のメニューを楽しんだらどうだ?」

「それもそうだな」


ジルトはフォークを握り直した。


「ところで、留年は回避できそうか、ジルト君?」

「ああ、なんとか、ギリギリ」

「ギリギリかよ」

「今までサボってたツケが回ってきたからな。お前も確認しといたほうがいいぞ。気付いたら、死神の手がそこに、なーんて」


ぽむ。


小さめの手が肩に乗せられたと思えば、そこには、小さな女の子が立っていた。


少し眠そうな垂れ下がった目で、じっとジルトを見てくる。 


「ええと、誰?」

「お初にお目にかかります、バルフィン先輩。わたし、クレオといいます。お見知り置きを」


どうやら、相手はジルトのことを知っているらしい。制服の中に忍ばせたそれに触りながら、ジルトはあくまでも、「何をしにきたのかわからない」という態度をとった。クレオは、きょろきょろと辺りを見回して、


「貴方が()()()()と戦って、勝ったことは調査済みなのです。なので、婚約者にしてあげるのです」




もちろん、そんなことは嘘。


「それで、本当は?」


人のいない校舎裏。クレオと並んでベンチに座りながら、ジルトは頭の後ろで手を組んだ。クレオがハルバを気にするので、ハルバには予定通り、食堂に残ってもらった。


「俺と結婚したいわけじゃないんだろ? どうしても、俺を引き込まなくちゃいけなくなったわけだ?」

「御明察なのです」


ぎゅっ、と膝の上で拳を握り、クレオは、生徒手帳を取り出した。そこに書いてあったのは、『クレオ・ラグル』の文字。


「まさか」

「結婚したいには結婚したいのです。なぜなら私は、家を悪者から取り戻さなきゃいけないので。私が婚約者を連れ帰ったら、故郷の父から経営権をぶんどって、クリーンな家にするのです」


ジルトは、頭の後ろに回してきた両手を解いた。


『左耳』は言っている。彼女の、縋るような思いを伝えてくれている。眠そうな見た目に反して、彼女は、心の底から救いを求めているのだ。


「でも、それをするには、並大抵の貴族じゃ敵わないのです。なぜなら」

「アイツが背後にいるから。でも、なんで俺なんだ?」

「単純なのです。貴方は、まだ彼に殺されてない。相当悪運が強いと見ました」


なるほど、傍目からはそう見えるらしい。


「巻き込むことはわかっているのです。もしかしたら、死なせてしまうかも。今回ばかりは貴方の悪運は、終わってしまうかもしれないのです。だけど、だけど」 


じ、と見つめられる。


「だけど、お願いなのです。先輩、私を……あと、愚かな父を、助けて欲しいのです」

「大丈夫だよ、クレオ」


安心させるように、ジルトはそう言った。


「俺にとっても、都合が良いことだから」






まさか、ラグル商会の御息女が、自分から死ににきてくれるとは。


「こんなに都合の良いことが起きるとは」


軽く瞠られた目には、少しの歓喜が灯っている。“落下する羽通り”。とある家。そこに集まった男達に、ガウナは問うた。


「君たちは、健気にも婚約者を作って、お父さんの目を覚まさせようとしている女の子を、殺すことはできる?」

「当然、できます。あちらのお嬢様は、私たちの主人ではありませんから」

「良い答えだ」


グランテの“用心棒”の答えに、ガウナは満足げに微笑んだ。


「それにしても、婚約者殿というのはかわいそうな役割だな。いったいどんなお人好しを捕まえたんだか?」


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