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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その2
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第二フェーズ

王都は晴天なり。


国民たちは、思い出したかのように洗濯をし、作物を覆っている雨除けを畑に取りに行き、ひさしぶりに顔を出した太陽を享受していた。


「このところの天候不順が嘘みたいね」


王城の窓からその様子を見ながら、リルウは口元を綻ばせた。


雲一つない真夏の空の下、各家の軒下に連ねられた色とりどりの洗濯物が靡く光景は、見ていてなんとも清々しいものである。まるで、今の自分の心情を表しているようだ。


「ふふ、お兄様も帰ってこられたし、ルージュ秘書官の摘発もうまくいったようだしで、良いことづくめだわ」


まるで歌でも歌い出しそうなほどにご機嫌なリルウ。実際歌でも歌いたかったが、歌っている場合でもないのである。


「それで、あの男の行方は?」

「今は、王都の“落下する羽通り”に潜んでいるようです」

「落下する羽通り、ね」


レオンの報告に、リルウは紅色の目を細めた。潜んでいる場所次第では身柄を確保できると思ったが、貴族街でも、貧民街でもないところに身を潜められては、逮捕の口実を作ることができない。


リルウは、窓の桟に肘を置き、頬杖をついた。


「何もしでかさなければ良いのだけれど。そうはいかないのでしょうね」

「今回の『魔女の信徒』の一斉摘発も、くだんの組織と繋がっていないというアピール。尻尾切りではないかという意見が挙がっています。“旧政権おろし”は、まだ収束しそうにありません」

「とんでもないものを置き土産にしてくれたものね、ストリ刑務官も」


逮捕される時にストリ刑務官が言った、“はじまり”という言葉。その言葉のとおり、“囚人殺し”は始まりに過ぎないことを、財務省事務次官ダニエル・グラスと、それを手伝った財務大臣カイリ・マルクスが上げてきた報告書にて、リルウたちは思い知った。


彼らが上げてきた報告書に記されていたのは、ガウナが銀行口座を差し押さえられてからの資金調達網。ストリでさえ把握できなくなったそれは膨大になり、今なお膨れ上がっているという始末。


『国から賜わった貴重な給金を、このようなことに使うとは……』


悩ましげに言ったダニエルだが、給金はどう使おうが自由だ。自分の趣味のためにも、自分の信念のために使っても良い。ただ一つ、責任が取れさえすれば、だが。


未来ある若者を切ることは心が痛むが、彼らは裏にいる異端……ガウナを見ることのできなかった側面もある。そんな若者を、未来あると形容できようはずもないことも、また事実なのだ。


ーーとはいえそれは、私が野放しにしてきた、旧態依然とした体制のせいでもあるわ。


対立していた方が御しやすいと、ついつい野放しにしてしまったが、このような流れが生まれるとわからなかったリルウもまた、未来あると形容できない存在なのだ。


ーーでも、与えられた器に見合う存在になるしかないのよ。私たちは。


ストリに言ったことは、自戒でもある。窓から目を離し、リルウは真っ直ぐにレオンを見た。


財務省が上げてきた報告書にてわかったことは、ガウナが必要以上の金を手に入れていたこと。ジルトが証言した生活と照らし合わせてもなお、有り余る金を手に入れていたことである。

また、その金は複雑な手順を経て各口座に流れていることも、そして、ある一つの口座で合流していることも、二人の尽力でわかった。


その合流先が、グランテ地方を拠点とする、あの商会。


「まさか、ラグル商会が関わってくるとはね」


溜め息と共に、リルウはくだんの商会の名を吐き出した。


ラグル商会。


表向きは普通の商会だが、故・ダグラス外務大臣の葬儀に出席した人間たちは、そのきな臭さを知っている。ブランがライケットに殺されそうになったことは、“殺されそうになったこと”でしかないので、深くは言及できなかったが、この商会、農耕器具とみせかけて、本来ならば認可制の刃物の取引をしている疑いがあるのである。


それが、打倒旧政権を志す若者たち、ひいては、その若者たちを食い物にする裏社会に流れているのではないかと、ネラル家のギャングの青年は言っていた。 


なるほど、王都からかけ離れたラグル商会にて武器を流し、それを王都での旧政権討伐の武器とする。回りくどいやり方だが、気付かれにくい。


ガウナがせせこましく入出金を繰り返していたのは、自分に入ってくる金だけではなく、自分から流れていく金の出どころもわからないようにするためだったのである。


「まったく、よく頭の回る……」

「ですが、関係者の銀行口座は凍結されました。あとは、行政局と警邏局の合同捜査にて、武器の摘発をするだけです」


レオンの言葉に「それもそうね」とリルウは頷く。旧政権おろしがどんな青写真を描いているのかは不明だが、ロクでもないことだけはわかる。今のうちに武器を没収して、芽を摘んでおかなければ。


「旧政権おろしは、ここで終わらせる。あの男が企んでること全部、潰してやるんだから!」

「その意気です、陛下」

「ところでダグラス外務大臣」

「はい」

「その書類は?」


リルウが指すのは、先ほどから、レオンが持っている書類の束である。レオンは、よくぞ聞いてくれましたというふうに、にっこり笑う。


「“囚人殺し”の間中に溜まっていた外交案件です。陛下」

「〜〜っ、だけど、これをあの男は捌いていたのよね」


少しだけくらっと来てしまったが、リルウは気力で持ち堪えた。


「やってみせる、やってみせるわ」


窓際から離れ、休憩は終わり。執務机に向かい、リルウは書類と格闘し始めた……。






異様な目つきをした元宰相は、異様な書類捌きで、決裁を下していく。


「これはダメ。潰される。これも潰されているか。これは、生きてる。でも重要度が低いから囮に使おう。適当な犯罪者のところに振り込んでおいて。こっちを逮捕させている間にこの口座を動かそうか。ああでも、これはマルクス財務大臣に嗅ぎつけられるかもしれないから、こっちも捨てよう。とすると、使えるのはこの金だけか。至急、武器を買うように。ああ、大丈夫。こっちには“支店”を設立しておいたから。会頭の存在しない商会支部をね?」


くるくると頭の回る宰相に、ボンクラの判断を下していたのが恥ずかしくなるほどだ。あっという間に書類の塔を関連付け、片付けたガウナは、ふう、と一息。わざわざ吸い慣れなさそうな煙草を吸って、煙を吐き出し、とんとんと灰皿に灰を落とす。


藍色の瞳が、ぎらぎら光る。


「さあ、やるべきことはやった。第二フェーズの始まりだ」


グレてるけどそうではない

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