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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その2
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器と価値

埋め立てられていたのは、多くの悲しみや怒り。ストリが見ることを恐れ、誰かが地中深くまで隠してくれたものたちだった。


赤茶けた髪の青年は、やる気のない目をしながら、ストリがそれを掘り起こすのを見守っていた。ただ、何も言わずに。


監視とも言えるが、そうは言いたくなかった。なぜなら、これは、必要な作業だからだ。失ったものを、取り戻す作業。

途中、汚泥に塗れた死体が出てきた。ストリがこれまでに殺し、殺させた死体である。ストリが勤めていた拘置所では、もっと悲惨な死体もあった。だが、その死体達は、これまでに見たどんな死体よりも、惨く見えた。それはきっと、気付いていなかったがために惨く見えるのだ。いま、自覚したからこそ。


穴を掘って、土をかぶせる前の自分は、職務に忠実な、つまらない人間だった。次期管区長との声はあったが、自分の何を評価してくれているのか、ストリにはわからなかった。それを言うなら、同僚のギレルのほうが、よっぽど管区長に向いている。自分のようなマニュアル人間より、よほど、法の下でなお、有情な判断を下せるだろう。


そんな自己評価は、あの元公爵に付け入る隙を与えてしまったが、事実でもあった。


今こうして、ストリは情をかけてもらっている。穴に埋めたものを、一つずつ、取り返させてもらう権利を得ているのだ。その過程で、ずっと言えなかった憧れにも似た嫌悪を、彼に告げることもできた。ああ、できることなら、所長にも伝えていればよかった。


『私は貴方の、まっすぐなところが嫌いです』と。


何も感じないことは、ストリにとって幸福だった。人を殺すことに、自分の人脈、立場を使うことは、ストリにとって幸福だった。彼らと違うところで、自分の力を使うことは。


不満を感じていたわけではない、寧ろ、それ相応の地位をもらって、それ相応ではない地位を与えられる予定で、自分に扱い切れるかどうか、ストリには不安だったのだ。


積んできた研鑽はある。だがどうしても、ストリには欠落があった。その欠落を、あの人は埋めてくれて、そして、目の前の青年は、ストリに見せているのである。


穴に埋めていなければ、それらはもっと“まし”だった。死体から滲み出す血と、汚泥に塗れずに、普通の何かのままだっただろう。こうして、汚くなってしまった今だからこそわかる。それらは、埋めるべきではなかったのだ。痛みや辛さを伴ってもストリが手放さないでいるべきものだったのだ。


それを手放してしまったのは、ひとえに、ストリの欠落のせいだろう。簡単に、怒りや悲しみを埋めることができたのは、最初から、穴が空いていたからだ。


汚泥に塗れたものを地上に出して、ストリは、ほんの少しだけ、穴を埋めて、浅くすることにした。


全てを平らにすることができるほど、自分は器用でないから、せめて、一人分の深さは、埋めておきたい。


「整理はついたか?」


ずっと無言だった青年が問うてくる。ストリは頷いた。






ストリと、赤茶けた髪の青年……アントニーは、一対一で、セント・アルバートの応接室にて向かい合っていた。


「おう、もういいらしいぞ」


アントニーがストリにない気楽さで言い、ぞろぞろと、扉の外にいただろう者たちが入ってくる。


最初に足を踏み入れたのは、紅い目をした女王陛下だ。彼女は、ドレップ局員が言った通り、情をかけてくれた。


「レードル・ストリ。貴方に、酌量減軽を言い渡します。自らの行なったことを反省しーー私の作る未来で、私の役に立ちなさい」


初めて眼前で見た女王陛下は、ストリに、柔らかな声音でそう言った。膝を折って頭を垂れるストリを立たせて、彼女は、


「この酌量軽減は、貴方の能力を買っての処置です。納得できないという顔をしていますね」

「いえ……」

「私は、貴方の積み上げてきたものを評価しているのですが」

「それは、承知しております。光栄に思います」

「なんて。貴方が欲しい言葉は、そうではありませんよね」


リルウ女王陛下は、ころころと笑った。


「ここからは、四年前に突然女王という地位を与えられた小娘の言葉です。その地位にふさわしい器に届いているかどうかを判断するのは、他ならぬ自分自身です。職務にあたる以上、他人からの評価は免れないものですが、それは、貴方の価値を決めるものではありません」


リルウの視線は、机の上に置いてある新聞へと注がれていた。


「もちろん、私の価値もね?」


年相応に、悪戯っぽく笑って、


「ですから、これは期間です。貴方が、器に届いているか否かどうかを見極める。自分の価値を決めるための期間です。そこでうまく、自分の研鑽してきたことと、自分の価値を擦り合わせてください。そうすれば」


貴方は、自分を認めることができるでしょうから。




セント・アルバートの応接室から、今度こそ留置所に連行される時。


ストリは、灰色の髪の少年がいるのを見つけた。少しだけ、胸のどこかが痛んだ。“独り”という言葉が頭の中に閃いて、そして、消えた。


ーーあの人の器は、きっと。


悲しいほどまでに、あの人は自分のことをわかっているのだ。それが、普通の人間なら諦めることを、彼は力を持つが故に、諦められなかった。


幻影の炎を消し、ストリは、赤茶けた髪の恩人を振り向いた。


「我々の本命は、貴方でした」

「え、俺?」

「はい。旧政権に恨みを持つ者の犯行として、財務相のお父上を持つ貴方を、暗殺する予定だったのです。それが、“はじまり”です。どうか、お気をつけて」











視線を下にして、ガウナは、壁に手をつけて、のろのろと歩く。ある地点まで来た時、口の端を、歪に持ち上げた。


「ストリは、いないかぁ」


これも寝取られだ。やっぱり、本命はアイツだ。第一印象が最悪のくせに、友人ポジションに収まっている男。ガウナが洗脳した人間を、正気に戻すことができる存在。


「スピレードの“教え子”達は、もういらないや。だから、アイツもいらない」


目に影をつくり、ガウナは、彼を無価値と断定した。


師匠(スピレード)のところに、送ってやるよ」


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