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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その2
411/446

囚人殺しの終わり

ゼンは、恭しく膝を折った。


「改めて。助けてくれてありがとうございます、ジルト君。私の名前はゼン・カラート。しがない犯罪者です」


ラテラと、なぜかいる共和国のユバル、ニェルハ、ターゴ。そして厳戒態勢のリルウに囲まれて、それでも自分のペースを崩さないゼンは、なるほど、確かに大物である。だが、確かに、ジルトの恩人なのだ。


「こちらこそ、あの家から出られたのは、貴方のおかげです。ありがとうございます、ゼンさん」


ジルトは笑って、手を差し出してゼンを立たせる。“助けた”と言われたが、実感はなかった。ジルトはただ、これまで通りに、ガウナに殺される人間を作りたくなかっただけである。助けるため、というよりは、殺させないため、と言った方が正しいだろう。


結局、自分は嫌なのだ。ガウナが人を殺すのが。人を殺すぐらいなら、「死ねばいいのに」と思っているし、「殺してやる」とも思っている。


そんな思いを再確認して、ジルトは、ゼンを囲む人々とは遠いところにいる、ハルバ達の方を見た。


「でも、良かったのか? ストリって刑務官を捕まえたかったんだろ? 捕まえるんなら、拘置所から出さないほうが……」

「ああ、それもバッチリだぜ」


ハルバが、若干疲れた顔をして言う。やはり、なぜかいる共和国の副大統領であるレデンと視線を交わし合い、


「ちょうど、終わっただろうから」






ストリがゼンの脱獄計画を進めるのと同時に、あちらも何かを企んでいることは把握していた。


「囚人殺しはおしまい。あと、お前もな」


縄を打たれたストリは、エキスポーズ副所長……かつての同僚であるギレルと、行政局員二人に挟まれて歩いていた。


「そうですね、負けました」

「勝ち負けじゃない」


ぴしゃりと言われて、ストリは肩をすくめた。相変わらずだ。ギレルも、ヴィクテム所長も、相変わらずだった。


「だから私は、あなた方が嫌いなんですよ」

「おう、遂に言っちゃったな。俺もだけど」

「私と貴方達は、法を元にしていても、まったく異なる生き物です。私は、貴方達のようには、なろうとしてもなれない」

「まるで憧れてるみたいな言い方じゃねえか。次期管区長さんよ?」


はっ、と嘲笑われて、ストリは少し考えた。今までは、「そうですね」と、のらりくらりと返事をしてきたが。これも最後だ。少しだけ、素直になっても良いだろうと思ったが、何かが、邪魔をする。

胸の中で焦がれているものを塞ぐように、誰かの言葉が邪魔をする。


だが、これだけは言っておきたかった。


「ヴィクテム所長は、私に何の情報も話してくれませんでしたよ」

「知ってる」

「そういうところも嫌いです。少しは人を疑った方が良い」

「お前のことは疑ってたから良いじゃねえか」

「私は、信じるに足りませんでしたか」

「いいや? こんなことできるのは、優秀なお前しかいないって思ってた」


振り向いたギレルは、笑っていた。


「新聞社、やけに信者情報を掴むの早かっただろ? アレ、俺が垂れ込んだんだぜ」

「やはり、貴方には敵わない」

「何よりもの褒め言葉だよ」


馬車に着いた。ここまで歩かされたのがどうしてなのか、ストリにはわからない。だが、


「……」


向こうのほうが、夜にしては明るく光っていた。


ーー燃えている……。


その方向は、あの方がいる場所である。






馬車は、静かに動き始めた。


ストリは、馬車の天井を見上げた。



ゼンを脱獄させるところまでは、上手くいっていた。見回りは、ストリの仲間の刑務官だったし、それを織り込み済みのギレルも、そうなるように計らってくれていた。


前回、鍵を開けて自殺した刑務官がいたので、それを利用することにした。


筋書きとしては、見回りの刑務官が“囚人殺し”の生き残りで、今度こそゼンを殺そうとしたが、逆に返り討ちに遭い、脱獄されてしまったという設定。

実際は、見回りの刑務官は自分の胸をナイフで刺し、ゼンの脱獄を導いたのはストリである。


別に、ストリが脱獄をさせる必要はなかったのだが、仲間の刑務官を“あの家”に近づかせないためには、ストリが脱獄を手伝う必要があった。


……仲間の刑務官は、ガウナのことを知るや否や、失望してしまうだろうから。


だから、彼を生贄にし、そして、ガウナから遠ざけるために、ストリが脱獄をさせる必要があった。


そして、馬車を回してくれたのが、彼。ドレップ局員というわけである。


まるで、ストリ達の事情をわかっているかのように、彼は空いた役に収まった。


ゼンをガウナのもとに送り届けた後、ストリは、ドレップ局員を殺そうとした。だが、殺せなかった。彼はすでに、勝負を終わらせていたから。


『これ、写しなんすけど。なんの写しかわかりますか?』


ひらひらと振られたのは、一枚の手書きの地図である。


『夜道だし、俺は王城周辺しか行ったことがない。目的地に行くまで不安だ〜って言ったら、作ってくれましたよ。先輩が』


先輩、というのは、おそらく、拘置所に残って工作をしている、仲間の刑務官だ。


彼をたぶらかしたであろう、人好きのする笑みを浮かべて、ドレップ局員は言った。


『建物も具体的な名前が欲しいって言ったら、わざわざ書いてくれました。筆跡を比べれば、言い逃れできないでしょうね。もう、新聞社にたれ込む準備はできてます。俺が殺されても、時間になったら、おっかない眼鏡が、俺の代わりに記者達を引き連れて、あの家に突入します。だから』


笑みを引っ込めて。彼は、官僚の顔になる。


『投降しろ、レードル・ストリ刑務官。お前のしたことは到底許されることではないが、女王陛下直々に、酌量減軽が言い渡されている』



……


「これが、予知というものか」


ストリは、馬車の座席に身を任せた。まだ、目的地には着かない。果たして、自分が連れていかれる留置所は、一体どこなのだろうか。


鉄格子ごしに、ストリは、夜の街を眺めて。




「アンタが、レードル・ストリ刑務官? んじゃ、ちゃっちゃと済ませるぞ」


面倒臭そうな、財務相の御曹司は、赤茶けた髪をボリボリ掻いた。


「救えねえよな、アンタも。これまで真面目にやってきたのに、人生破壊されて。だけど、安心しろよ。これからアンタの人生は、アンタのものになるから。はい、じゃーいくぞ。せーのっ」


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