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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その2
409/446

は?

暗闇の中。ゼンは、目の前の人物を見上げた。


「意外ですね、実はあなた方、仲が良いのでは?」

「反吐が出ることを言うんじゃねえよ」


口の悪い副所長は、ズボンのポケットに両手を突っ込んでいた。今日は、態度も悪い。ゼンは、手を組み合わせた。


「ああ、魔女様。人間の心は、こうも荒廃してしまうものなのでしょうか。彼にも清き頃があったというのに」

「お前は俺の何を知ってんだよ。あー、そういうことね。はいはいはい」


一瞬不機嫌になった副所長は、悪い笑みを浮かべた。


「俺をからかって遊ぼうってことじゃなくて、本気で嘆いてたのか。ありがた迷惑だけど、からかわれるよりかはマシかな」


いつもは無理解に終わるエキスポーズ副所長は、なぜか今日は、ゼンの心に寄り添うようなことを言った。いや、心に寄り添うというよりかは。


「心を直接見られてる感覚。残念、見てはないんだな」

「右のポケット、なにか、ありますね?」

「ああ、あるよ。見るか?」


惜しげもなく、彼は右のポケットから、隠しているものを出してくれた。それは、包み紙に包まれた飴玉だ。勤務中だというのに、コロコロと転がして、さらに態度が悪くなった。


がりっ、と飴を噛んで、目つきの悪い副所長は、左ポケットに手を入れたまま、いつもより、余裕のある態度。ゼンは、小さくため息を吐いた。右ではない、本命は、左だ。だが、自分は右を選ばされた。


「どうして皆さん、私を脱獄させたがるのでしょう。これも、魔女様の加護でしょうか」

「あー、あー、そうかもな」


あまり肯定する気のない副所長は、「それはそうとして」と言って、左ポケットから何かを取り出した。それを見たゼンは、少しだけ、驚いた。


「副所長、貴方は」

「勘違いするなよ。俺は、誰一人として殺したことがない」


殺していた方が納得する容姿である。これが王都の治安を守る拘置所の副所長だというのだから、神様は配役を間違ったに違いない。


「失礼なことを言うんじゃねえよ」

「何も言ってませんが」

「ああ、そうだった」


右手でぼりぼりと髪を掻いて、ゼンに、それを放った。


「今日が決行日なんだろ? だったらさ、それ、持ってってくれよ」


随分前に切り離されたのだろう。血の一滴も出ていないそれを両手で持ち、ゼンは、さすがに副所長を不審な目で見たが、目を、見開いた。


「……これは」

「な、すげえだろ。それ。じゃ、今からお前に指示するからな」


そう言って、副所長は、全く関係のないことを喋り出した……。


 


深夜。


ゼンに憤りを見せていた刑務官が、目の前に現れた。


「出ろ。お前を別の拘置所に移動させる」


刑務官の傍らには、王城から派遣されてきた、たしか。


「ドレップ行政局員でしたね」

「はいっす」


潜めた声で言う彼は、その軽薄でいい加減そうな容姿や佇まいに反して、心の中は凪いでいた。さすがは王城勤め。制服を着崩しているのも、わざとということか。


ーー便利ですね、これは。


服の中に隠したそれを密かに触り、そう思った。


ーーさて、副所長は、私に何をして欲しいのでしょうか。


これを持ったからと言って、ゼンが魔女様に会うことは変わらないというのに。ゼンが、魔女様を裏切ることはないというのに!


甘く見られたものだ、信仰も。


ーー私の魔女様への信仰は揺るぎない。


魔女様が望むことならば、なんでもする。




なんでも…

なんでも……


「やあ、君がゼン・カラート君?」


連れてこられた場所で。わかりやすく、手から炎を出したのは、銀髪の公爵だ。


幸せそうな笑顔を浮かべたガウナは、ゼンを殺すか、懐柔するかを考えていた。だが、そんなのはどうでもいい。火種もなしに炎を出す彼は、まさしく、魔女様の血を引いているのだ。


ひざまずき、ガウナの手をとって、ゼンは目を潤ませた。


「ああ、魔女様。ようやくお会いでき、光栄です」

「うん、僕も光栄だよ。ねえ、ゼン。僕には、どうしても叶えたい夢があるんだ……」 


魔女様は、憂いの顔で、ゼンに言った。心の中では、「なんで僕がこんなことを」と愚痴っていたが、それは別にどうでもよかった。演技をしてまで、ゼンを籠絡しようとするその姿勢に、感動してしまったのである。


だからゼンは、こう答えた。


「ええ、貴方の夢ならば」

「そうかそうか、じゃあ、僕の大切な人の話し相手になってくれる?」

「大切な人ですか?」

「そうだ」


ガウナは、奥にある扉に進んでいき、鍵を回した。


そこにいたのは、英雄と同じ目の色をした少年だった。ゼンには、すぐにわかった。そうか、大切というのは、そういうことか。


「そういうこと、なのですね」


これは、『魔女の信徒』の悲願でもある。ゼンの心は感動に打ち震え、ガウナの心もまた、感動に打ち震えていた。


ゼンは、静かに、魔女様の言葉を待った。


「そうだ。僕はあの子と、幸せになりたい」

「は?」


聞き間違いかと思い、右ポケットに手を入れて、確認する。声はきちんと、二重になって聞こえた。


「僕は、英雄と幸せになりたいんだ」


一言一句、間違っていない。


まったくの、本心から。魔女様は、ガウナは、彼は、こいつは、そう言っている。そうして、ゼンの心に気づくことなく、とどめを刺した。


「君は『魔女の信徒』なんだろう? 僕達の仲を、応援してくれるよね?」

「…………は?」


今度こそ、口から出たのは、とびっきりの低い声。

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