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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その2
408/446

予感

物語の中でトばしまくってたらトばされました

ゼン・カラートの処遇に関するプランは二つ。


一つ目、殺すこと。中央拘置所の副所長ギレル・エキスポーズは、このたび新聞発表にて、まだ事件が終わっていないことを明言した。彼の目が光っている拘置所内で殺すことはリスクが高い。ましてや、あちらには予知能力者がついている。ゲームで言うと“詰み”の状態。まさに袋の鼠。


こうなってくると、ストリの他のもう一人も、迂闊には消費できなくなる。当初の予定では、刑務官を自殺させて“囚人殺し”の終わりを告げさせた後、別の刑務官に殺させる予定だったのだが、拘置所内の雰囲気が保たれている今、それをするのは愚行である。


とすると、刑務所の外ではどうか。すなわち、この家である。この家にゼンを誘き出して殺す。あちらもこちらの実力はわかっているだろうから、そうそう簡単に手は出せない。理想はストリに殺させることだが、ガウナが殺してもいい。


そして、二つ目が殺さないこと。ゼン・カラートという凶悪犯罪者を飼い慣らし、こちらの陣営に引き入れることである。

ガウナとしても、警邏、行政共に影響力のあるストリの他に、もう一つ、自分の手足となって動いてくれる純粋な暴力要因が欲しいと常々考えている。


幸い、ゼンは元というか、今も『魔女の信徒』。ストリからの手紙だと、リルウには好意的も好意的で、その炎で焼かれたいなどと、戯言を言っているらしい。

では、その信仰の対象をすり替えてはどうかというのが、もう一つの案。つまり、リルウではなく、本物の『薔薇の魔女』の生まれ変わりであるガウナへと鞍替えさせるわけだ。


ゼンは炎で焼かれたいと思っている。彼は、火刑でそれを実現したいようだが、もしも、何の火種もなく炎を起こせる存在が、目の前に現れたら? 疑いようもなく、魔女だと思うだろう。


殺してもいいし、殺さなくてもいい。ストリを温存する方向にシフトをすればいいだけである。


ーー問題は、どうやってゼンをここに連れてくるかなんだよなあ。


例によって、声に出したら副大統領に観測されてしまうので、ガウナはお気に入りの椅子に座り、眉間に皺を寄せて考える。たしかに、こちらに誘き出してしまえば始末するのは簡単だが、そう簡単に脱獄させてもらえるものだろうか……。




そう考えていた矢先のこと。


ーー向こうも同じことを考えている、と。


ストリからの手紙を読んで、ガウナは唸った。


内容としては、ゼンの脱獄において、拘置所に派遣されてきたドレップ局員の協力を仰ぐことができたと書いてある。ただし、ドレップは確実にあちら側ということを考慮しておかねばならないが、ストリとその仲間の刑務官で、認識が違うのが悩みどころである。


それにしても、まさか、あちら側から提案があるとは。ストリが尻尾を出さずに、事態が膠着していることを考えてのことだろうか? いやいや、あちらには首脳級が二人いる。それに、人員も。拘置所内に留めておいたほうが、袋の鼠にできるはずだ。それなのに、しないわけは。


ーーこっちの考えが読まれてる。


今日の新聞を読む手に、力を込める。王城にいた頃は、主要五紙を買っていたが、今は一紙に絞っている。過激な内容の新聞を買って、ジルトの反応を楽しむ必要もなくなったので、できるだけ満遍なく情報が手に入るものを選んでいる。味気はないが、世の中の動きが一番よくわかった。


ため息を吐く。


わからないように水面下で進めてきたことが、この穏やかな紙面にも出てくるようになってしまった。現王政の転覆、まではいかないが、旧政権の批判が活発化していること、それが現王権まで影響を及ぼすのではないか、と書かれているのみだが……。 


血気盛んな若者を取り入れると、こういう弊害があるから困る。若者は信じているのだ、自分達の掲げる正義が絶対だと。旗を掲げて大手を振って歩けば、自然と人がついてくるものだと思っている。実際は、そんなことないのに。


数は正義だが、悪でもある。何事にも適度というのがあるもので、膨れ上がった組織には、必ずどこかで、壊死(えし)をする部分が出てくるのだ。それが、この若者達である。


ーー困ったな、悪を糾弾する側がこれじゃ、説得力がない。


あくまでも、旧政権批判は、冷静に、理知的に行われなければならない。


「そうだろう、フランド君」

「黙れ、このペテン師が」


お綺麗な顔のどこからそんな毒が排出されるのだろうか。亡くなったフランド警邏官は、憎々しそうに呟いた。


「貴方が裏で糸を引いていると知っていたら、こんな馬鹿なことには参加しませんでした」

「すごい手のひら返しだ」


実は、チェルシーをはじめに召喚したのは、チェルシーの方がましだったからである。フランドを始めとする若者達は、大いなる渦と思っているものが、実は洗濯桶の中で起こされた渦だと知ったら、幻滅も幻滅するのであることが予想できていたのだ。若者特有の万能感を発揮できずに申し訳ない。


「こんなこと言うのもなんだけどさ」


新聞を机に置いて、ガウナは不遜に言う。


「全ての糸を引いてる僕をすごいと思わないわけ?」

「まったく、思いません。貴方は異端です」

「じゃ、正体バラすプランは無しだな」


信用できるのはストリだけである。おかしいな、今動いている若者達のうち、何人かはスピレード事件の時に洗脳したはずなのに。といっても、洗脳は中途半端だったのだが。


「アントニー君の腕が良かったか」

「よくわかりませんが、これはどうやったら帰れるんですか?」

「僕にすべての情報を吐いたら帰れるよ」


嘘である。




結局、死んだことをアドバンテージに考えているフランド警邏官は、何も喋ってくれなかった。ガウナは思う。死者に舐め腐られている。


「ええと、フランド君は、『魔女の信徒』を許せないから、異端だとわかった僕にあんな態度をとったわけだから」


こめかみに人差し指をつけて、またもや唸る。そこから先は、声に出さずに。


ーー逆に『魔女の信徒』であるゼンは、僕にあんな態度を取らないことになる。


つまり、懐柔の目処は立ったわけだ。


「うん、完璧だな!」


呟いて、ガウナは思い立ち、ジルトのいる部屋の鍵を開けて、


「あっ」

「えっ」


自分には決して見せない笑顔を浮かべて、虚空に向かって両手でピースするジルトを見てしまうのだった。

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