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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その2
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迎合

中央拘置所に遣った二人は、見事、自分の任務を果たしてくれた。


「これは、大きな一歩です」


もはや溜まり場と化した、セント・アルバート学園の応接室で、ブランはぐるりと一同を見回して言った。


机の上に綺麗に並べられたのは、これまで逮捕されてきた“囚人殺し”の刑務官達の写真。それらと少し離れたところに置いてある三枚の写真は、中央拘置所で未だに逮捕されていないストリ刑務官、そしてその部下、自殺した刑務官の分である。


「包囲網は、狭まっています。レードル・ストリ逮捕の時は近い」


ハルバとレデンの予知で、王都で起こっていた囚人殺しは収束しつつあり、残すは王都中央拘置所のみ。これが終われば、ブラン達は当初の予定通り、王城における『魔女の信徒』の一斉摘発に踏み込める。


だが、油断は禁物だ。囚人殺しは、あくまでも『魔女の信徒』一斉摘発への時間稼ぎであり、次の段階……現王家転覆が待っている。


それにおいて重要となるのは、やはりストリ刑務官だ。


囚人殺しは重要だが、ストリ刑務官を失うならと、ガウナがゼン・カラート殺害から手を引かせる可能性は高い。そうなると、せっかく狭めた包囲網から、ストリが逃げてしまう。


ゆえに、重要なのは、ストリではない方の刑務官である。


「彼はいわゆる、“あそび”の部分です。彼がいるからこそ、未だにストリ刑務官は中央拘置所に留まっている」


逆に言えば、彼が逮捕されれば、すぐに囚人殺しから手を引かれてしまうわけだ。


「残る“囚人殺し”を泳がせたまま、ストリ刑務官を誘き出して逮捕する。それが、我々の目指すゴールです。幸いにも、中央拘置所の副所長、ギレル・エキスポーズ氏が我々の側に着いてくれました。我々からは手紙、彼からは定時に“独り言”を言ってもらうことで、連絡を取り合います」


まさに、予知能力者ならではの連絡方法である。“独り言”は、それを言おうとした時点で予知に現れるのだが、その時点ではそう言おうと思っていても、また後で変わるかもしれないので、口に出してもらうことにした。つまり、最終決定として、実際に口に出してもらうのである。


「エキスポーズ副所長には、ストリ刑務官と、その部下の存在を教えています。私が派遣した二名の行政局員と協力して、ストリ刑務官を追い詰めることとなっています。具体的には」


言葉を切って、ブランはもう一度、部屋の中を見回した。困惑の色はなし。話を続ける。


「ゼン・カラートを使います。彼は、ストリ自らが処分に乗り込んできたほどの曲者です。並の人物では彼には敵いません」

「それなんだが」


手を挙げたのは、レデン副大統領だ。彼は、“それ”をこねくり回しながら、何かを考えていたようだった。


「ゼンは、どの程度の“魔女信者”なんだ?」




副大統領が言ったことは、難しいことのように思えたが、ブランが見逃していた可能性を指摘してくれていた。


「私は本来の持ち主ではないので、小さなことしか決められない。“決定権”を行使するのは君だ。やってくれるか、ダグラスのご子息」

「はい!」


どこか吹っ切れたような顔をしたハルバが頷き、副大統領とそのシミュレーションを開始する。それにファニタという頭脳が加わって、ああでもないこうでもないと議論している。


頼もしいことこの上なかった。ゼン・カラートという、何を考えているかわからない魔女信者も、予知能力者の前では思考が丸見えだ。だが、それと理解することとは別のようで、頭を悩ませる三人。


できた構図は、思考回路というものを放棄したものになっていた。その場その場での選択から想像される結果は得られず、代わりに思わぬ結果が得られるようになっている。


「どうなってんだ、ゼンってやつの頭は?」


その図を覗き見たアントニーが、首を傾げる。ラテラも机に手をついてそれを見て、一言。「魔女に、謝りたいと思っている?」


全員の視線が、ラテラに集まった。ラテラは恐縮したようにしていたが、


「私が、チェルシー様に感じていたものと同じです。私の場合は、家族がディーチェル公爵家にしてしまったことですが、彼の場合は、彼自身の謝罪が、根底にあるように思えます」

「彼自身の謝罪?」

「はい、そうです。たとえば、ここ。彼が刑を軽くすると言われても頷かないわけは……」




肉体を持って生まれてしまったことへの謝罪。教祖に出会うまで、魔女様を知らなかったことへの謝罪である。


罪滅ぼしは、ただ一つ。この身を魔女様に捧げること。すなわち、リルウ女王陛下の御意志で断罪をされ、死刑に処されることである。


欲を言えば、御意志ではなく、手ずから炎で焼かれたいと思っているが、それは贅沢な願いだろう。彼女は、自分ごとき羽虫にかかずらっている暇はないのである。


「だから私は、どちらかといえば、火炙りにされることを望んでいるのですが」

「残念だが、お前は絞首刑だ」


不機嫌そうな副所長は、自分に歩み寄ろうとしてくれたらしい。だが、諦めたらしく、さっと踵を返して向こうへ行ってしまう。


「ああ、殉教者である私の気持ちは、同じ者でないと理解できないのですね」


嘆くゼンは、「ねぇ」と、新しく来た者に話しかけた。


「貴方はどのような御用ですか? ストリ刑務官?」

「君の認識を正しに来た。君に、“正しい”ことを教えに来たんだ」

「正しいことを。それは素敵です」


両手を合わせて微笑むゼンに、ストリ刑務官は「そうだろう」と微笑んだ。


「喜べ、ゼン・カラート。君がただしく信仰すべき『薔薇の魔女』は、リルウ女王陛下などではなく……」


“彼”の名前を聞いたゼンは、少し目を見開いたあと、「ああ!」と小さく呟いた。


「私は、とんだ幸せ者です。ありがとうございます、ストリ刑務官。私は、ただしく信ずるべき方を、この目に拝むことができるのですね!」

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