分断
ストリ君は苦手なタイプが多い
かちゃりと眼鏡のブリッジを上げて、王城から派遣されてきた行政局員は、苛立ったように言った。
「はぁ、貴方達にも困ったものですね。畏れ多くも、女王陛下のお膝元であるこの中央拘置所において、こんな血生臭い出来事が連続して起こるとは。恥を知りなさい、恥を」
くどくどくど。
突然呼び出され、一列に並べられた中央拘置所の職員一同は、なんとも言えない顔をしていた。少なくとも、彼らが派遣されてきてから、職員の自殺が起きているからだ。
勇敢な刑務官が、手を挙げる。
「お、お言葉ですが、ここが、封鎖されているのが良くないのでは? あなた方のお力があれば、もっと公開的な捜査ができると思うのですが」
「私たちの力だけでは足りないと?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
極寒と傲慢な視線に晒されて、すごすごと手を下げる刑務官。彼は、自殺した刑務官を案内していたうちの一人。ゼンに激昂した方である。
「ルージュ秘書官は、私たちの力だけで事足りると判断してくれたのです。ですから、私たちが派遣されてきた。それが事実です。いいですか、今ある人員だけで、事件を解決しなければなりません。そうだろう、ドレップ君」
「へいっす! おっしゃるとーりでございます!!」
なんにもわかってませんな顔をした、ドレップと呼ばれた、もう一人の行政局員が元気よく返事をするのを、刑務官達は微妙な顔で見た。頼りない。
内務省のキレ者、ブラン・ルージュ秘書官が派遣してくれた人員は、事態を打開どころか、閉塞させるものだった。口を開けば、公開捜査はできない、事件はまだ終わっていない。言葉の端々から感じられるのは、事件がこんな形で終わってしまったことへの不満と焦り。ルージュ秘書官の期待に応えようと、無理に事件を引き伸ばそうとする態度。
はっきり言って、派遣されてきた行政局員は、手柄を立てることに必死な、典型的お役人タイプ。
とっとと公開捜査に踏み切ればいいものを、自分のヘマをわかっているので、できるだけ捜査を引き伸ばそうとする保身の塊である。その行政局員に付き従うドレップ局員も、頭の中に何も入ってなさそうな首振り人形に他ならないので、期待するだけ無駄。
とすると、刑務官達が期待をするのは、アレリア監獄から捜査協力に来てくれているストリと、副所長のギレルである。最初に動いたのは、ギレルだった。
「勝手なことを言いやがって」
彼もまた、“事件は終わっていない”派だが、それは保身の為ではなく、刑務官の自殺に疑問を持っているからだ。目つきの悪い副所長は、もっと目つきを悪くして、ぎろりと部外者二人を睨む。
「アンタらには、言いたいことがあったんだ。俺と一緒に来てもらおうか」
「じょ、上等じゃないか。君の捜査には、ひとこと言いたいと思っていたんだ。ああ、お前は来なくていい」
がたがたと震えながら頷く眼鏡の役人に、刑務官達の胸はすいた。
「副所長、私も……」
「お前はそこのお役人の相手をしといてくれ」
「はい、承知しました」
ギレルが“そこの”扱いしたのは、ドレップと呼ばれたおまけの方。明らかに置いてかれたドレップ局員は、びしっと敬礼。
「よろしくお願いするっす! レードル・ストリ刑務官!」
「……」
副所長室。
ばんっ! と机を叩き、
「現場のこともわからないくせに、ガタガタと吐かすんじゃねえよ、お役人様がよ!!」
びりびりと、ギレルの声が空気を震わせた。
「ひぃっ!」
飛び上がらんばかりに怯えたのは、眼鏡の行政局員。それを無視して、ギレルはつかつかと歩いて行き、
「……お前ら、何してる?」
ドアを開けると、その前に立っていた刑務官達は、「何でもありません!」と、蜘蛛の子を散らすように去っていった。またもやドアをばんっ! と閉め、ギレルは、眉間の皺を取り、帽子を脱いで謝罪する。
「うるさくてすみません。こうでもしないと、アイツらが聞いてしまうので」
「いえ、わかっているので大丈夫ですよ」
怯えた態度はどこへやら、冷徹な雰囲気を取り戻した眼鏡の行政局員は、勧められたソファを断り、「それより」と言った。
「貴方と私の情報を擦り合わせましょう。ああ、ドレップ君には後で話しておくので大丈夫です」
……思った通り。
保身に懸命な、嫌味な役人を演じた局員は、ギレルの意図を汲んでくれていた。こうして二人きりになる時間を作ってくれたのである。
「貴方の新聞のインタビューでの発言で、ストリを疑っていることは我々にも伝わりました。端的に言いましょう、副所長。私たちには、予知能力者がついています。貴方がご自宅にて、“気付いてくれよ”だの、“これで気付かなかったら俺がストリを”だのと呟いていたことも把握済みです」
「……」
ギレルは帽子の庇を下げて赤面した。同時、予知能力者でないと無理な芸当に納得。
「これは、心強いです」
「私たちも、貴方の存在を心強く思っています。ですから、貴方が殺されては困る。エキスポーズ副所長、我々は、ストリの他に、彼の息がかかった人物が、この拘置所にまだ一人いることを把握しています……」
嫌味な眼鏡と違って、ドレップ局員は何も考えていない分、話しやすいのだろう。
「そうなんすよ、俺も首に縄つけられてここに来て、あの人横暴ですよね! でも先輩だから逆らえないし、俺もとっとと公開捜査に踏み切りたいんですけど」
「苦労してるんですね、貴方も」
わいのわいのと盛り上がるそこを他所に、場を離れようとするストリ刑務官に、この人懐っこい局員は、「あっ、どこ行くんですか」と目敏く話しかける。
「貴方がいなくなったら、俺が怒られるんです。どうか、どーか! 俺と話してください!」
「ストリ刑務官」
そばにいた刑務官が、そっと、耳打ちしてくる。
「この男、使えるかもしれません」
「……そうだな」
果たして、何も考えていないのだろうか。いや、あの秘書官が送ってきた人材だ。見事にギレル・眼鏡の局員と、ストリ・ドレップ局員に分断されてしまった今、油断は禁物。
「さて、何から話しましょうか」
「ええっと、そうっすねー」




