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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その2
405/446

そして空席に座る者

警邏局。


かつて、養父殺しの際に引きこもっていたそこに、ブランは足を踏み入れていた。


「お疲れ様です、ルージュ秘書官」


目的は、牢の中にいる、若き警邏官。先日、ストリ刑務官との接触後、すぐに逮捕された警邏官は、目の下に隈を浮かべて、ブランに皮肉ともつかないことを言った。


「ああ、ご苦労様」


用意された椅子に、ブランは足を組んで座った。


「早速、君に聞きたいことがある。君はいったい、どんなことを吹聴されたのか」

「吹聴だなんてとんでもない、これは事実です。旧政権と『魔女の信徒』は密接に結びついている。王都の各地に、戦後秘密裏に作られた『禁域』が、その証拠です」

「勿論『王総研』も?」

「ええ。私達の仲間になりませんか、ルージュ秘書官。いえ、ブロウ・ウェイン秘書官?」


旧い名前を持ち出されることは承知の上だった。ブランは、意図的に息を吸って、心を整える。


「私も、曲がりなりにも旧政権の関係者だ。だから言うが、あれに、トウェル王は関係していない」

「そうですか……失望しましたよ、ルージュ秘書官。所長であるお祖父様の仇を取りたいと思わないのですか? 『魔女の信徒』に、『アッカディヤの魔術儀式』の研究を横取りされたのに」

「何度も言うが、そんな事実はない」

「あの炎は、まさしく、断罪の炎なのです」


話が変わった。興奮したように、若き警邏官は、顔を蒸気させた。


「英雄が王都に放った、断罪の炎。魔女の血筋を断つことはできませんでしたが……もうすぐ、もうすぐです。英雄が、今度こそ、『薔薇の魔女』を討伐する」


ブランの胸がざわめいた。財務省にて、ダニエル・グラス事務次官が言っていたことを思い出した。


「誰が誰を討伐するって?」

「ですから、英雄です。英雄が、『薔薇の魔女』リルウ・ソレイユを討伐し、その首を私達の前に見せてくださるのです」


彼は、畏れ多くも、女王陛下を呼び捨てにした。それだけではない、明確な殺意を持っている。


「つまり君達は」

「ええ、現政権を転覆させ、新たな政権を打ち立てる。欺瞞に塗り込められたこの国から、魔女の血を一滴残らず排除するのが、私達の目的です」

「それなら」


高揚してきた警邏官に合わせるように、ブランは問うた。


「空いた席には、誰を据えるつもりだ?」

「もちろん、英雄を。と、いいたいところですが、無知蒙昧な民に、突然現れた英雄の崇高さは理解できないでしょう。ですから、首を取られても問題ない人物。具体的には……」


思わせぶりに言葉を止め、微笑む。


「現在逃亡している彼は、いかがでしょうか」




それだ、それが狙いだったのだ。


聞きたかったことを聞き出せて、ブランは椅子から腰を上げた。


「おや、もう行ってしまわれるのですか? ご多忙ですね」

「君たちのせいでね。ああ、ひとつ良いことを教えてやるよ」

「何でしょう」


警邏官のことを見もせずに、ブランは吐き捨てた。


「君は、ストリに囮に使われた」

「は?」

「声を出して、紙を渡されただろう。わざと私たちの目につくように。そういうことだ。本命は君じゃない。君は使い捨ての駒だ」

「根拠のないことを……!」

「でなければ、私達が君をすぐに捕まえられるわけないだろう?」


それだけ言って、ブランは警邏局をあとにした。


彼を逮捕した警邏官は言っていた。彼は選民意識に染まっていると。“選ばれた”と思っている彼は、実は“捨てられた”のだ。本命は、先日死亡したフランド警邏官。そして、その標的は、アントニー・マルクス財務大臣子息ではなく、チェルシー・ディーチェル公爵である。


その、本命を巻き込んで殺せたことは僥倖。だが、子供達にとっては、ショッキングな出来事だった。


階段を上がりながら、ブランは軽く頭を振った。


ーー今の問題は。


あの銀髪の青年が、王城に返り咲くプランを練っていること。俗世を捨てたと思わせて、虎視眈々と社会的地位の復活を狙っていることである。


旧政権と『魔女の信徒』を結びつけたのは、ダニエルの言っていた通り、リルウを追い詰める為であるが、自分が傀儡として君臨することを含めての謀略であったのだ。


厄介なことに、地盤は作られている。彼がさきの裁判で持ち出した旧政権の批判。それもまた、ガウナを後押しする追い風になっているのだろう。“真実は何も知らないが、偶然旧政権を批判していたちょうどいい傀儡”として、見られているわけだ。


実際は、裏で全てを操っているのにかかわらず。


ーーだが、彼は知らない。


リルウと旧政権に『禁域』を押し付けたとして、決定的な証拠が握られていることを。王宮の地下に残された、彼の髪が、執行官二人の手に渡っていることを、彼は知らないのである。


『禁域』を使ったのは、彼の失策だ。まったくの無関係だとは言えないのだから。


彼がまた、表舞台に立つのなら、ちょうどいい。今度こそ、裁判の場に引き摺り出して、打ちのめすまでだ。


ーーけれど。


表舞台に立つとして、“彼”の存在はどうするのだろうか。さすがに謎の未成年は、人々の目から見逃されないと思うのだが。


ーー奉仕の精神で孤児院から預かって育てた、とか?


そんな、強引な言い訳しか思いつかない。ガウナにとって、ジルトの存在は枷になるはずなのだ。


ーーその時がチャンスだ。彼が表舞台に立つと同時、ジルト君を救出する。衆人環視の目がある中、下手なことはできないはずだ。


そんな()()()()()をもって、ブランは次なる戦略を練るのであった。


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