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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その1
398/446

予知能力者殺し、そして

ゼン・カラートの始末は難航しているらしい。


ストリの手紙と、新聞を見比べて、ガウナは右手の指に挟んだペンをぶらぶらさせた。


「ふぅむ」


新聞には、中央拘置所の副所長の声明が載っている。『我々は、最後までゼン・カラートを守る』という声明だ。だが、その隣には、大きく『拘置所の“囚人殺し”が自殺した』という内容が載っている。それなのに、副所長はまだ、『ゼンを守る』と発言しているのである。


この食い違いに、副所長はなにかを知っているのではないかという記者の予想が載っていた。それは当たりだと、ガウナは思う。


「こっちの手が読まれてると考えた方がいいかな」


“囚人殺し”を自殺させたのは、拘置所連中のゼンへの非難を集めるためだ。それと、あちらがどの程度介入してくるかを読むため。


結果は、半々。中央拘置所は、ガウナの思惑を外れて、死刑囚擁護に動いた。ストリからの手紙と照らし合わせると、これには、新聞に載っている副所長が噛んでいるに違いない。


ストリをアントニー排除に動かしておいてよかった。まあそもそも、あちらに予知能力者がいる時点で、ストリを直接動かすことはしない。


だから、()()()も拘置所に介入をしなかった。ダグラスの予知は最長でも十二時間後までしかわからない。手紙を出したら時間がかかりすぎるし、かといって早馬を出したら、ストリに逃げられることを、あちらは把握しているのだろう。


それに、予知能力が、どれだけ信用されるかという危惧もある。賢明な副所長は、ハルバの予知を信じてくれるだろうが……たとえば、ストリが“予知で人を殺す場面を視た”という根拠で逮捕されたとして、どれだけの人が、それを純粋に信じるだろうか。


まだ起こってもいないことの犯人を逮捕するのは、現実的には難しい。それこそ、ストリを現行犯で逮捕しなければ。


今回の件で得たことは二つ。


現状、伏兵である副所長は、意図してか意図せずかブラン寄り。ガウナの味方になることはなく、ストリにゼンを殺させる上での一番の障壁。


反対に、ハルバ・ダグラスという予知能力者は脅威だが、ストリを動かさない限り出張ってくることはない。


“囚人殺し”にストリが関わっていると、ブランが把握しているのかはわからない。だが、あちらの注意は確実に、“囚人殺し”に向いているはずだ。なぜなら、それが終わらないと、『魔女の信徒』の摘発はできないのだから。


ーー所長殺し以後、派遣されていた二人の行政局員も引き上げていない。まだ、ルージュ秘書官の目は、中央拘置所に向いている。


そして、ハルバの目も。


その証拠に、アントニー襲撃には対応できなかった。当然だ、ジルトのことを視る(腹立たしいことだが、確実に視ているだろう。親友なのだから)のに加えて、ブランからの“お願い”で、ゼン・カラートも見張らなければいけなくなったのだから。


ーーあと二、三人。追加すれば、ハルバ君も手一杯になるかな。


たしかに。


ハルバの予知能力は厄介だ。だがそこには、確実に、制約が存在するわけで。


エリオット・ノーワンによる、ダグラス一族の予知能力の暴露。それは確かに世間を震撼させたが、世間の目は、予知能力そのものというより、“利権”に向いたようだ。


自分達に未来永劫与えられないものを論ずるより、自分達に与えられるはずだったものを論じる方に向いたのだ。


だから、今の世間は、予知能力があることは把握しているが、それを利用する段階には至っていない。そもそも、予知能力を使うダグラスの人間性は、周知の通り最悪である。言っていることは信じてもらえないだろう。


そんなふうに、予知を信じる土壌が出来上がっていないから、実はハルバの予知は、ガウナの計画にとって、物量的にも、影響的にも、さほど脅威ではない。


上記の理由で、ブランとしても、信じられる予知能力者がハルバしかいない。だからハルバだけを頼りにせざるを得ないわけで、このままガウナがストリを使って、事件を起こし続ければ、倒れるのはハルバの方だ。


一つの事件を切り捨てれば、一つの事件は解決できるだろうが、果たして、あの少年が、そんなに器用なことをできるだろうか。


自分の身ひとつを犠牲にして、儀式に挑もうとしたあの少年が。


くつくつと、ガウナは笑った。この生活を始めてから、悪い笑いが板についていた。


「さーて、どう出る? ブラン君」






どう出るも、なにもなかった。


「今回アントニーさんが殺されそうになったのは、ハルバを疲弊させるためでしょう」


どうして、学園にこの国で一番偉い人が平気でいるのかわからないが、同じ少年を心配するもの同士。ファニタは、強い意志を秘めた瞳で、周りを見渡した。赤茶けた髪の青年と目が合う。


「警邏局と行政局、事態は、内務省全体に及んでいる、というのが、アントニーさんの考えですね?」

「そうそう。前にそこの秘書官が、警邏と行政の若手をまとめ上げてたろ。それを丸々利用されてたってわけよ」


アントニーがブランのことを睨むのを、ラテラが袖をくいくい引っ張って止めている。ブランはしゅんとして「申し訳ない……」と口にした。


「だ、だが、わかったこともある。王都五ヶ所の拘置所すべてに、ストリの息がかかった人物がいる、と」


机の上に、名前と所属の書かれた、写真付きの資料。ハルバの目の色が変わった。


「これがわかれば、あとは予知できます」


ハルバが写真に手を伸ばそうとするのを、ファニタは手を伸ばして止めた。ブランの方を見る。


「先に言った通り、これは、アウグスト元公爵の思う壺です。ハルバを疲弊させたら、こちらの負けです。かといって、逐一監視を送るのも、非効率です」

「だ、だったらどうすれば」

「いらっしゃるでしょう、私たちが信用できて、この国の益・不益に関わらない人間が」

「え、あ、え?」


さーっ、とブランの顔が目に見えて青くなった。


「いや、()は、さすがに」

「……協力を要請しましょう」


言い淀んだブランに対して、すっぱりと決断したのは、やはりこの国で一番偉い人である。


「手紙で要請します。いえ、要請しなくても、彼なら来てくれるかもしれませんね」


その時である。


ばんっ! と応接室の扉が開かれ、元気な声が部屋に響いた。


「そう、なにせコイツは予知能力者だから!」

「コイツって言わない」


ごんっ、と拳骨をお見舞いされるのは、共和国の王族の生き残り、ユバル王子で、拳骨を見舞ったのは、その幼馴染のニェルハ。その二人を引き離す役目が、お付きのターゴ。


そして、


「まさか、ここに帰ってくることになるとは」


賑やかな三人の後を歩くのは、少々不服そうな蒼色の目の、副大統領。レデンは、三人よりも前に出て、懐から、赤い目玉と、そして、ちぎれた左耳を取り出した。


「……(まこと)であれ、偽りであれ。あの少年の言葉は、私の救いとなった」


す、とリルウに手を差し出す。


「女王陛下。あの少年を救い出すことに、私も協力させてはいただけないでしょうか」

「喜んで」


リルウもまた、すぐにレデンの手を取った。


レデンは、驚愕した様子のハルバに向かって、力強く微笑んだ。


「そういうことだ、ダグラスのご子息。露払いは、私に任せてくれ」

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