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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その1
392/446

辻褄合わせ

新聞社にたれ込んだのは、一日置いてから。


それは熟考時間だ。考えに考えた末、ギレルはこう判断した。誰も信用してはならない、と。


万が一、自分が殺された時のために、逐一内務省に報告を入れるようにした。しかし、手紙は見られる可能性がある。だから、誰が怪しいなど、余計なことは書かなかった。ただ、わざわざ外部の者を捜査に加えなければいけないほどの“人手不足”だと伝われば、あとは内務省のキレ者であるルージュ秘書官が、それを察して信頼できる人材を派遣をしてくれるだろう。刑務官とは関わりのない人材を。


その次に、ギレルは新聞社に情報を匿名でタレ込んだ。この事件の被害者は、すべて『魔女の信徒』の信者であると。幸いにも、ギレルはこう見えてエリート街道を進む男である。どの拘置所に、どの死刑囚がいるかは当然把握している。


“犯人”が動きにくくなるよう、ギレルは次の被害者の名前も手紙に記した。その時点で、ギレルは犯人像を、なんとなく思い浮かべていた。


少なくとも、木端な立場にいる奴は、こんな芸当はできない。全拘置所に縁があって、職員と繋がりがあって、影響力の強い人物でなければ……例えば、例えば。


所長が死んだ日に、やってきた男とか。




考えてしまえば、すぐに合点がいった。


「ポンコツって言って、すみません、所長……」


自宅にて。ギレルは、心の底から、あの発言を悔やんでいた。 


所長が殺されたのは、“辻褄が合わなかった”からだ。ギレルが殺されなかったのは、“喋らないだろう”と予測されていたからだ。なにせ、ギレルはストリ刑務官を目の敵にし、それをストリ刑務官もわかっていたから。


ストリ刑務官がここに忍び込むには、ギレルや所長を説得することが必要で、そのためには、『魔女の信徒』の囚人殺しが、内部犯であることを知っている必要がある。


自分は元内部だが、今日まで起こった出来事とはまったく関係ないというアピールをするために。


けれど、その内容はどの拘置所にいても、監獄にいても入ってこない。当の拘置所でも、知っているのは、所長と副所長クラス。では、その情報を、()()()()()()()()()()()()


「情報漏洩……」


ストリ刑務官は、その情報源を、所長だと偽ったのである。そして、当の所長は喋っていなかった。だから、嘘がバレる前に殺した。


所長殺しには、殺された囚人達の共通点を世に晒すことと、口封じの二つの意味があったのだ。


まんまとしてやられた。三十分前に会ったというのも、本当かはわからない。

これからギレルは、ストリ刑務官と、そして、囚人殺しを命じられている刑務官を見極めなければならないわけである。


あのレードル・ストリと対決しなければならない。その思いが、ギレルの気を重くさせたが。


「だが、牽制にはなった」


沈んではいられない。まだ仮定の上だが、弔い合戦を仕掛けなければ。


幸いにも、ルージュ秘書官はこちらの意図を汲んでくれたらしく、二名の行政局員を派遣してくれた。眼鏡の冷静な奴と、慌ただしそうな奴だ。


二人は、わざわざ、「秘書官のご命令により」と、着任の挨拶で言ってくれた。これで、ギレルを入れて、信用出来るのは三人。本音を言えば、行政局から派遣された二人に、ゼン・カラートの監視を願いたいところだが、そんな露骨なことをやったら、こちらが警戒していると、内部犯とストリ刑務官にバレてしまうだろう。


「だから、もうしばらく泳がせる。手を出すのがストリの野郎だったら僥倖、つーか、ゼンを殺れるのはアイツしかいねえ」


ストリ刑務官は、必ずゼンに接触する。だが、こうして世間が中央拘置所はじめ、全拘置所に目を向けている中、迂闊なことはできないはず。


「できないよな? できないと言ってくれ」






明くる日。


今度は、一人の刑務官が、冷たくなって発見された。


彼の死因は、ナイフによる失血死。両手でナイフを逆手に握り、自らの腹を裂いていた。だが、血溜まりのあった場所が問題で、


「これは、困ったことになりましたね」


彼が死んだのは、鍵の開いた独房の前。


穏やかに微笑む狂信者の前で、彼は謎の死を遂げたのである。

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