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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その1
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残りの囚人

今日も今日とて、銀髪の元公爵は、親友に輝かんばかりの、幸せたっぷりの笑みを向けて暗躍している。


それを視ながら、ハルバは唇を噛み締めた。酷使しすぎた目は「休みたい」と訴えるが、そんなの知ったことではない。噛み締めた唇の皮が切れて血が流れても、大したことはないのだ。


なぜなら、ハルバはここで、予知をすることしかできないのだから。


「くそっ、幸せそうな顔しやがって」


思わず悪態が漏れる。


最近は、自分のこの因果な能力も、悪くないんじゃないかと思っていた。ダグラスだけが生き残るための能力ではなくて、誰かを救える能力だと。だが、結果的には、親友の師匠は殺され、その親友は訳の分からない言葉に導かれて、軟禁生活。


ハルバは呆然と、ことの成り行きを視ることしかできなかった。


同じく、悔しい思いをしているだろう金髪の才媛は、何かをグッと我慢している顔で「これでいい」と言っているが、あの時、無理にでも帝国に行っていたら、何かが変わっていたんじゃなかろうかと、ハルバは思うのだ。


人質になってもいいから、そばにいてやりたかったと。


ジルトは、あの家に来てから、目に見えて、ただでさえない元気がなくなった。草色の瞳は諦めに淀んで、日に増して濁っていく。いつも窓際に座って、ぼうっと何かを眺めている。


反対に、銀髪の青年の藍色の瞳は、海底に光が差したように生き生きとしている。生き生きとしながら、今王都を騒がせている“囚人殺し”を操っているのだから、手に負えない。


ハルバには、ガウナ・アウグストという人間がわからない。


彼の過去を鑑みれば、可哀想だと思う。だが、希望を見出すにしたって、そんな不健全な見出し方をしなくても良いじゃないか。言い方は悪いが、別の誰かで良かったじゃないかとも、思うのだ。もっと、自分を殺したいと思っている少年ではなくて、自分を心から好いてくれる存在で。


良かったじゃないかと、思うのだが。


「気持ちはわからなくもないんだよな……」


寮の自室。呟いて、ばたんとベッドに倒れ込む。


「俺だって、そうだし……」


ハルバだって、『やる気なし同盟』を組むのなら、ジルトが良い。あの、死んだ目をして、無謀で、ちょっと捻くれた親友が良いのだ。


つまり、「他のを選べ」とは、倫理観の上でも、自分の気持ちの上でも言えないわけで。


「お目が高いってか、ははは。なんて言うわけねーだろ! 返せ! アイツただでさえ出席日数やばいんだぞ! 俺は公欠だけどな!」


このままでは、ジルトが後輩になってしまう。それだけは阻止せねばと、ハルバは顔を上げた。




「ゼン・カラート?」


未だに足踏み状態のハルバ達の元に届いたのは、少しだけの朗報。


「その男を、視るんですか?」

「ああ、頼む」


学園の応接室にて。ソファに座って力強く頷くのは、ブラン・ルージュ秘書官だ。このところ毎日来ていて、彼もまた、疲れたような顔をしている。が、今日ばかりは違った。


写真をばんっ! と机に置き、同じくだんっ! と一枚の紙を置き。


「この男が、次の被害者なんだ! だから、彼がいつ殺されるかを見てほしい!」

「ちょっと待ってください」


興奮しているところ申し訳ないが、殺される前提とは。 


「ひどくないですか?」

「うぐ、それは……」


ハルバとファニタの非難の目に、ルージュ秘書官は先ほどまでの勢いをなくし、しどろもどろに言う。


「正直言って、殺した現場を押さえられれば、と思っていた。殺そうとする所を押さえるより、殺した後の方が立件しやすい」


死刑囚はどうせ死刑になるのだから、ここで殺されても同じ事だと、心の節で思ってしまったらしい。


「内務省に勤める者として、目が曇っていた。これでは、彼らと変わらない。我々は、罪を償わせるまで、彼を守らなければいけないのに」


しゅんとした様子のブランは、「それでも」と褐色の瞳に光を灯す。


「ゼン・カラートが鍵を握るのは確かなんだ。私たちが目しているとおり、レードル・ストリ刑務官がアウグスト元公爵の手先だったとして、狙われるのは彼だ。レードル・ストリを無効化すれば」

ジルト君の救出に、一歩近づけるかもしれない。




ブラン・ルージュ秘書官は言っていた。


レードル・ストリが、王都中央拘置所における“囚人殺し”で、一人を残したのは、自分が捜査に加わって容疑者から外れる為、そして、古巣を人質にする為かもしれないと。


だが。


ハルバの予知では、もう一つの可能性が浮上してきた。すなわち。


「殺そうと思っても、殺せないんじゃないか?」


と、いうこと。







男は、無言で食事を摂っていた。


敬虔なる信徒に似つかわしく、ここで出される食事は質素だ。だが確かに、魔女様に捧げるに足る血肉を作っている。


それにしても……一人で食事を摂ることを強いられていた、自分がここにいるのは、一体どういうことだろう。


「ねえ、貴方は、どう思いますか?」


穏やかに、男は話しかけた。他の囚人から食事を巻き上げた囚人は、男の手の中で虫の息。その囚人の目に、男は木のスプーンを振り上げて。


「そこまでだ」

「おや、副所長」


腕を掴まれて、男はエキスポーズ副所長を見上げた。


「なぜです、私は、欲深い囚人に裁きをしてさしあげようとしただけなのに」

「裁きをするのは法だよ。離してやれ」


しばらく、二人は無言になって。折れたのは、男の方だった。


「私が裁きをするのはまだ早いということですね」

「そーいうこと。よくわからんけど、いい加減にしないと、また独房で一人寂しく食ってもらうぞ」

「私はそれでもかまわないのですが。かまうのは、あなた方でしょう?」

「ちっ」


舌打ちが降ってくる。がくがくと震える罪人を引き摺りながら、副所長は振り返って、じろりと男を睨んだ。


「いい加減にしろよ。次やったらまた懲罰だぞ、ゼン・カラート」

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