表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
血と白刃または赤と銀
39/446

契約

ここからです。

魔法陣の回転が止まった。


ファニタは息をついた。思った通り、ハルバは契約の乗っ取りに成功したのだ。


……魔法は、“神”との契約である。


『アッカディヤの魔術儀式』は、魔法の再現であり、薔薇の魔女を蘇らせる契約。その契約を強引に乗っ取り、ハルバは予知の契約へと変えた。


何が見えたのかはわからない。けれど、回転を止めた魔法陣が、ハルバの勝利を物語っていた。


隣で座り込んでいたジルトが立ち上がる。呆然とする公爵の元に行き、地面に取り落とされた小刀を見遣った後に、蹴って遠くへやった。


「覚悟はいいですか、公爵?」


そう言って、公爵の頬に、拳を見舞った。


倒れ伏した公爵は、何も言わなかった。たぶん、敗北を認めたのだろう。


ジルトは彼に一瞥もくれず、ファニタとハルバの顔を見て言う。


「帰るぞ」

「だな!」


ハルバとは違って、ファニタはすぐに返事ができなかった。地に伏す公爵を見てしまう。思ってしまう。


もしも、大切な人が理不尽に奪われたとして。


自分は、公爵と同じようなことをしないでいられるのだろうか? 届かない星を、いつまでも眺めていられるのだろうか?


公爵は、薔薇の魔女に会いたかったのではない。喪った大切な人に会いたかったのだ。


彼は、ジルトやハルバ、そしてファニタと変わらない、遺された者だった。


ファニタの心は晴れない。


これで、本当に良かったのか。なにか、別の方法が無かったのだろうか。既に歩き出したジルトとハルバの後を、のろのろと着いていく。


公爵たちから少し離れた後、ジルトが、小さな声で何かを呟いた。ハルバが何と言ったか聞いても、首を振るだけ。


ファニタは空を仰ぎ見た。あの星々の中に、公爵の大切な人も、ジルトの家族も、もちろん、父もいるのだろう。


優しい星々は、何かを伝えようとするように、懸命に瞬いていた……。








段々と魔法陣が消滅し、ただの地面に戻っていくのを、シンスは呆然と見ていた。


実のところ、この魔法陣は、シンスの大半の魔力を注いで描いたものだった。最高傑作と言っても良いぐらいだ。同じものは、もう描けない。


シンスは、自分の夢が潰えたことを悟った。


同時に、夢が潰えたであろうガウナを見る。


外法に手を出してでも、愛する人を蘇らせようとした、憐れな、男、を……?



彼は、肩を震わせて、笑っていた。



口の端を釣り上げて、藍色の瞳を輝かせ。心底嬉しそうに、狂人のように。いや、実際狂人なのだろう。彼は、頭がおかしくなってしまったのだ。


「……シンス、お前は魔法に関しては及第点だけど、もう少し全体を見たほうがいいね」


馬鹿にするような言い方をされ、シンスは眉を顰める。何もあるわけがない。狂人の戯言だ。そう思うが、彼から目を離せない。


ガウナはやおら立ち上がり、魔法陣のあった地面へと視線を向ける。


指を鳴らす。青い光を帯びた魔法陣が、地面に再度現れる。シンスが自身の魔力をかき集めて、やっと描き出した、あの魔法陣が。


「はあッ!? なんだよそれ!?」


思わず地が出たシンスは、悪くないだろう。それだけ、ガウナのしたことは規格外だったのだから。


「これは、僕がお前の魔法陣の下に隠していた魔法陣だ。僕がした契約の内容は、『アッカディヤの魔術儀式』を書き換えて“彼女”を蘇らせること。これは失敗だな。そもそも、ハルバ君が無反応だった時点で……」


ガウナが魔法陣の端を踏みにじり、魔法陣は呆気なく地面に消えた。


「もったいな!!」


シンスが叫ぶのをうるさそうに見ながら、ガウナは足を使って乱雑に新たな魔法陣を描いていく。子供の落書きのようにめちゃくちゃだが、きちんと青く光る。魔法陣として、機能する証拠だ。


「さて、これから彼女を蘇らせることにしようか」

「“彼女”って、火事で死んだ子なんでしょ? 契約を破棄しない限り無理でしょ」


投げやりに言ったシンスに、ガウナは「そっちじゃない」と首を振る。


「お前が会いたがってた人だよ」


落ちていた小刀を拾って、ガウナは躊躇いもなく自分の手のひらを切り裂いた。


ぼた、ぼた。


地面に、ガウナの血液が落ちる。落ちたそばから、魔法陣の輝きの中に消えていく。


……血は、魔術師にとって大切なものだ。“神”は魔法の恩恵を、魔術師と同じ血の流れるものにしか恵まず。そして、ごく稀に、魂として取り扱われるという。


その魂を象って、魔法陣の上でつくられるのは、紛れもない。金色の髪に、紅い目を持つ彼女だった。


「彼女の魂は僕に定着してるから、まだ不完全なんだけどね……さて」


半透明な薔薇の魔女に手を伸ばし、空を切るシンスに、ガウナは傲岸不遜に言い放った。



「僕につけ、シンス。そうすれば、ローズ(薔薇の魔女)に会わせてやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ