増援
内務省に戻ったブランは、急いで信用できる部下を呼びつけた。
後に聞けば、その興奮っぷりたるや、近頃どころか、滅多にない事態で、その部下は大いに驚いていたらしい。
が、眼鏡を押し上げて、行政局の若手は冷静に応じた。
「内務省再編に伴う、行政局の人事。特に、拘置所を重点的に、ですね」
「そう! レードル・ストリと関係があるかどうかが知りたいんだ!」
言いながら、ブランは急いで外套を羽織る。
「どこに行かれるのですか?」
「中央拘置所へ!」
「殺されますよ」
ぴしゃりと放たれた言葉に、ブランは固まる。
「相手は、貴方の推測によれば、囚人殺しを指示している犯人で、古巣の所長を殺させた疑いがあるんです。貴方が訪ねてきたと、内部犯に報告されれば、次の犠牲者は貴方です」
「だが、こうしてわかっているのに、行かないでいられるか」
こうしている間にも、囚人殺しは行なわれているかもしれない。殺されるとしても、牽制になれば……
「し、失礼しまーす」
そのときだ。ノックの音とともに、書類を持った別の行政局員が入ってきたのは。ぴりついた雰囲気を感じている彼は、そそくさと書類を机の上に置く。
「中央拘置所からの報告、置いときまーす。どうやら信用できる外部の力を借りるみたいで、それではっ」
反射的に、ブランは、彼の首根っこを掴んでいた。
「ななな、なんですか、僕、なにかしました?」
「今の言葉、もう一回」
「ちゅ、中央拘置所からの報告っす! 今回の囚人殺し及び所長殺しについて、元職員の力を借りるらしいです!」
「でかした!」
ブランと、彼を諭した局員は、すぐに書類に飛びついた。報告を持ってきた局員は、目を白黒させてそれを見ていた。
「あ、あのー?」
「古巣に帰っていたのか、ということは、君の言う通り、私は焦っていたようだな」
「しかし、大胆ですね……時期と合わせると、これではまるで、彼自らが殺したような……」
「何の話ですか?」
首を傾げる局員をよそに、ブランは思考を巡らせる。
今すぐ彼を中央拘置所にやって、それは受け入れられないと、「待った」をかけたい。だが、それをしたら逃げられる可能性が高いし、最悪、何も知らない拘置所職員を人質に取られる可能性がある。
ーーいや。
もう、人質を取られているも同然だ。彼は易々と、自分の起こした事件によって、中央拘置所へと潜り込んだ。事件の捜査という名目で。
ーーあそこにはまだ、『魔女の信徒』が一人いる。
死刑未執行の男が一人。おそらく、わざと残しておいたのだろう。
ーー捜査を手伝うために。
だとしたら、その男を殺そうとする素振りを見せたところを逮捕したらどうだ?
ーー最悪、殺してからでもいい。
証拠さえ手に入れば、あとは逮捕に踏み切れる。
「あの、僕要ります?」
「要る。大いに要る」
帰りたそうな局員と、比較的冷静な、眼鏡の行政局員二人の肩を抱いて、ブランは凶悪な笑みで言った。
「君たちには、増援として、王都中央拘置所に行ってもらう」
ガウナ・アウグストから、レードル・ストリへ。
『君の正体を、ブラン君が把握していないとはいえ、あちらには予知能力者がいる。君は、残りの男に自ら手を下そうとしているのだろうけれど、それはよした方が良い。別の刑務官に手を下させなさい。そうすれば、君に捜査の手は及ばないだろうから。
それから、君に頼みたいことがある……』
レードル・ストリから、ガウナ・アウグストへ。
『承知しました。あの男は、私が直接手を下さねばと思いましたが、リスクを考慮し、別の刑務官に手を下させます。
ご命令の件、少々お時間をいただけますか。必ずや、成し遂げてみせますので』
外は、最近の天気では平均より上ともいえる曇り空。
「太陽が見たいものだね」
呟いて、ガウナは筆をおいた。真夏の暑さではなく、妙にしっとりとした、けれど体に纏わりつかない暖かさだ。
すう、すう。そんな天気だから、規則正しい寝息が聞こえた。笑みが溢れる。
お気に入りの安楽椅子から降りて、ガウナは、自分の“良心”の頭を撫でた。ほのかに温かいのは、彼が子供だからだろうか。
守るべきものを前にして、ガウナは、藍色の瞳を細めた。
「邪魔者は全て消して、君の笑顔が見られるように頑張るからね」




