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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その1
388/446

犯人

王都中央拘置所所長、ティエフ・ヴィクテム不審死。


その知らせは、待っていたかのように、瞬く間に王都を、いや、国中を駆けめぐった。


情報統制に押さえつけられていた新聞社は、これを機に、王都各地の拘置所で起こっている囚人達の不審死をもとりあげた。自然、不審死を遂げている人間が、地下組織『魔女の信徒』の信者の生き残りであることも。


生き残り。


世間的には、『魔女の信徒』は、火刑に処されたゴート・アゼラ伯爵の死を以て、死んだ組織とされている。実際には、教祖はシンス・ゲイナーという男で、この男も死んだのだが、それを信者は知らない。信者たちは、教祖がまだ生きていると信じて暮らしている。


そのズレが、厄介だ。


「世間的には、『魔女の信徒』よりも、彼らを殺した人間に目が行くでしょうね」


窓辺に寄りかかりながら、騒がしい王都を見下ろすダニエル・グラスは、ため息と共に吐き出した。


「『魔女の信徒』は、終わった組織です。アヴェイル判事による教祖の即刻死刑により、勢いを削がれました。我々のような残党がいるとはいえ、さほど脅威には思われていないでしょう。だとすると、どこに目が向くか。前述の通りです。世間は、理由を求める」


一人の少女を守らんと、組織に身を投じたダニエルは、窓から目を離して、ブランを見た。 


「もちろん、彼ら……私たち信者がしてきた、過激な活動への報復とも思われるでしょう。しかし、このタイミングでは」

「リルウ陛下を、理由にされると?」


ブランの言葉に、ダニエルは悔しそうに頷いた。


「アウグスト宰相が、彼女の元を離れたタイミングです。一人になったタイミングで、かつて彼女のことを祭り上げていた組織が殺された。これは、このように見ることができます」 


机に置かれているのは、政権批判を主とする新聞。そこに躍るのは、『見捨てられた女王』の文字。 


「ガウナ・アウグストという後見人をなくした女王を、亡き者にするという予告。これで、架空の殺人者が出来上がってしまった」

「ついでに、元宰相の株も上がるわけですか」


言いながら、ブランは、囚人殺し、および此度起こった所長殺しは、やはり、銀髪の彼が関わっているのだと推測する。彼は今、王都の一角で、魚を買ったり野菜を買ったりと忙しいので、別の人物だろう。とすると、彼を信奉する、それこそ、『魔女の信徒』が関わっているのだろうか。


そう考えると、『魔女の信徒』には、三つの派閥があることになる。


一つ目は、リルウを『薔薇の魔女』として崇拝する源流、二つ目は、現在摘発をされようとしているダニエル達王城派、三つ目が、ガウナの正体を知り、彼の手足として動く謎の存在。


……だが、信者が信者を殺すのは、なんとなく腑に落ちない。


そもそも、秘匿されてはいるが、王都の拘置所における信者殺しは、内部犯である。その内部犯に通じている者がいるとして、そう都合よく、刑務官に『魔女の信徒』がいるだろうか?  


いや、いない。誰一人として、今回疑われている拘置所の刑務官、そして所長に、『魔女の信徒』はいなかった。彼らはリストに上がっていない。


よって、こう考えざるを得なくなる……ガウナに利することをする犯人。それは、魔女云々ではなく、ガウナ個人に心酔する者なのだ、と。


そうすると、『魔女の信徒』から犯人を割り出すことは難しくなる。容疑者は二百人と少しには絞れない。


ダグラス本家の彼が、昼夜問わず予知を続けてくれているが、ガウナが怪しい人物に接触している様子はない。ただ普通に街での暮らしを楽しんでいるだけである。


ーーとすると、指示は手紙か?  


その手紙を奪えば、この事態を引き起こしている人物を、突き止めることができる? 


あの家から出される手紙を、片っ端から検閲して、住所を辿っていけば……。


地道な作業だが、それをするしかない。


ダニエルに別れを告げ、財務省を出ていこうとした、その時だった。 


「おや、いらっしゃい、ルージュ秘書官」


たまたま部屋に入ってきたのは、恰幅の良いおおらかそうな赤茶けた髪の男性。財務省大臣、カイリ・マルクスである。


近頃の閣議で大根演技をした彼は、机に広げられている新聞を見て苦笑い。


「根をつめるのも、程々に。倒れてしまいますよ」

「ええ、ありがとうございます。その資料は?」


どすん、と机に置かれた紙束。公的書類なのに紙質がよくないのは、急遽作られた書類だからだろう。


「人事異動によって、給金も変わりましたから。支給額がきちんと変更されているか、精査するのです」


ブランでさえ、目を回すような数字の羅列。なんだか、自分の都合で内務省を掻き回しているのが申し訳なく思って、ブランは頭を下げた。


「手間を増やしてしまい、すみません」

「いえいえ、私は数字仕事が好きなので、お気になさらないでください」


朗らかな声が上から降ってくる。顔を上げたブランの目は、彼の笑顔にたどり着く前にーー机に置かれた紙束。そこからはみ出ている紙に吸い寄せられた。


どこかで、見たことのある、文字だった。名前だった。


「……レードル」

「ああ、彼ですか?」


相変わらず穏やかなマルクス大臣の声を聞きながら、ブランはその紙を引き抜いた。


「あっ、何するんですか!」


焦ったようなダニエルの声と、ばさばさと床に落ちる品質の悪い紙。ブランの褐色の目は、みるみる見開かれていく。


そうだ、名前のみしか書かれていないが、確かに、彼の名前だ!


異動先。王都中央拘置所から、アレリア監獄へ。


『いえ。おそらく、内務省の書類上でしょう。お目にかかれて光栄です。ブラン・ルージュ秘書官』


「ルージュ秘書官?」


紙を拾い集めているダニエルは怪訝な顔をする。その彼の肩を揺さぶりたい衝動に駆られながら、ブランは叫んだ。


「犯人、見つけたかもしれません!」


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