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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その1
387/446

情報漏洩

所長室にて。ティエフ・ヴィクテムは、古巣に帰ってきた彼を大いに歓迎したが、彼の捜査協力の申し出には断固として首を横に振った。


「いや、君を巻き込むわけにはいかない。君には君の職務があるだろう、それを全うしなさい」


本音を言うと、ティエフは彼……ストリ刑務官の力を借りたかった。だが、将来有望な彼の手を、ここで煩わせるわけにはいかないことも理解していた。


アレリア監獄への異動を嘆願された時は、気を失うかと思った。レードル・ストリと、ギレル・エキスポーズは、この王都中央拘置所の虎の子だったからだ。いずれは、二人でここを引き継いでもらえれば、あとは安心して引退できる。他人で自尊心を満たすなどという真似はしたくないが、この二人ばかりは、ティエフにこう言わしめた。『私はあの二人を育てたんだ』と。


そうして、引退後に妻と娘に煙たがられながら、高い酒でも買って、彼らの華々しい活躍を見届けようと思っていた。刑務官という仕事は、新聞に載ることはない。あるとすれば、何か犯罪を犯した時だろう。だが、ティエフには確信があった。


新聞に載らない我々の仕事は、この二人によって、社会的大躍進を遂げるだろう、と。


そう思っていた矢先だったから、虎の子の片方がアレリア監獄に行ってしまい、ティエフは途方に暮れた。が、ひとところに才能を二つも置いておくのは罪だと思い、また、アレリア監獄でストリ刑務官がどのような活躍をしてくれるかも、楽しみにしつつあった。


だから、ティエフはーーヴィクテム所長は、レードル・ストリの()()()()()()()()


こんなところで、彼を足止めするわけにはいかない。彼には彼の……逃走した元公爵を見届ける責務があるはずだ。


「心苦しいが、私は君を部外者として扱わせてもらう。よって、ここで殺人事件が起きているのかも、起きていないのかも、答えられない」


ヴィクテム所長は、明確な線引きをした。


現在、内務省行政局では、“囚人殺し、およびその囚人達の共通点について”、密やかに注意喚起がされている。当然、アレリア監獄にも届いているのだろう。この言い方は、認めているようなものだが、ストリ刑務官を退かせるにはこれしかなかった。


ーー古巣を助けたいという気持ちだけでじゅうぶんだ。ありがとう。


心の中で礼を言いながらも、ふと、疑問に思う。


ーー注意喚起の内容としては、“どこの施設かは言えないが、『魔女の信徒』殺しが起こっている”という内容だったはず。


王都中央拘置所も、その他のところに倣って、殺された囚人遺体は外部へと移送せず、霊安室に入れているので、外に漏れる事はない。確かにストリ刑務官は、ここに『魔女の信徒』の信者が収監されていることを知っていたが、それにしたって、はじめから捜査協力とは。


ーーまるで、殺された事をわかっていたかのようじゃないか?


よくよく考えれば、注意喚起は、一つの施設とも、複数の施設とも言っていない。いや、特定の施設の特定の信者殺しは考えにくいから、複数施設で起こっているとは予想できるか。けれど、ここをピンポイントで当ててくるとは。


ーーいかん。


頭の中を過った嫌な考えを、ヴィクテム所長はしまいこんだ。レードル・ストリに限って、それはない。


ーー彼は、うちの施設で殺人事件が起こっているか、心配して来てくれただけだ。


捜査協力というのも、勢い余って言ってしまったことだろう。


だが、もしも……万が一、そのようなことがあったら?


あの、レードル・ストリが、あちら側に回ってしまっているのだとしたら?


ーー止めなければならない。


机の下で拳を握り、ヴィクテム所長は笑顔を作った。


「だが、せっかく帰ってきたんだ。どうだい、茶でも一杯……」

「所長は酒派でしょう?」

「仕事中に酒は飲まないよ」

「それは残念」 


何が残念なのかを訊こうとした、その時だった。


圧迫感、ごきりと骨が折れる音。幸運にも、不運にも。ヴィクテム所長は、生きていた。それはほとんど声になっていなかったが、ストリ刑務官には届いたようだ。


「な、わ……」

「死刑囚を括る縄です。残念です、所長。貴方が内部情報を喋ってくださる無能であったなら、副所長を選んだのですが」


“選んだ”。その意味は、よおく理解できた。


ーー“囚人殺し”を、世間に認知させる役目。それが、私の死というわけだ。


ヴィクテム所長は椅子に座ったまま、ストリ刑務官は立って背後から。なるほど、下からでもなく、同じ高さからでもなく、“上から”縄を括られる。まるで、死刑執行のように。


「……はこ……みつ、か」

「見つかりはしませんよ。ルートは確保してあります」

「ふくしょ、ち」

「ご安心ください。貴方が犠牲になったからには、彼に手出しはしませんから……あの方の前で殺されないと、意味がない」


それを聞いて、ヴィクテム所長は安心した。


そうか、ギレル・エキスポーズは、殺されないのか。


ーーそれなら、安心して死ねる。


ヴィクテム所長は、目を閉じた。

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