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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その1
383/446

彼の非常に幸せな生活

というわけで最終章です。彼だけが非常に楽しい

窓の向こうは、土砂降りだった。


「酷い目に遭った」


銀髪の青年は、玄関先で、帽子と靴下、それに長い髪を絞り、わたわたと家の中に入ってきた。ばたんとドアを閉めて、ふーと一息。


「まさか、雨になるとはね。おかげでびしゃびしゃだよ」


苦笑いして、腕の中で死守をしたであろう紙袋をシンクの上に置き、謎の桶を床に置き、ぶるっと震えた。


「夏だっていうのに寒いなんて、最近の気候はどうかしてるね」


次いで、着ていたジャケットとシャツを脱ぎ、帽子ともども、洋服掛けに掛ける。ぱちんと指を鳴らして、指先に炎を灯らせた。


彼が使っているのは、魔術である。絶妙な火加減で、着ていたものを乾かしていく。普通なら、雨に降られたら、夏だというのに暖炉を使って乾かさなければいけないところを、彼は少しの炎で衣服を乾かすことができる。


魔術師というものは、こういうところで便利なものだ。その炎の使い道を間違えなければ、別の職種だって編み出せるだろうに。


自身の体も炎魔術で乾かした彼は、すっかり乾いたシャツのボタンを留めながら、ぺたぺたと裸足の足でシンクに向かった。床にある桶は、どうやら魚が入っているようだ。少し氷が溶けているのを、またもや氷魔術で再度凍らせながら、彼は柔らかな笑みを浮かべた。


「ほら、今日は魚が手に入ったんだ! たまたま、養殖場の人が売りにきていてね! 今日の夕食は魚のフライ詰め合わせだよ!」


ふんすと鼻息荒く、それほどない力拳を作る。


「腕が鳴るね!」




どうやら、魚のことをいち早く知らせたかったらしい。「靴下!」と叫んだ彼は、玄関まで走って行き、靴と靴下を乾かしていた。


それから彼は、窓際にある、お気に入りの安楽椅子に座り、今朝買ってきていた新聞を読み始めた。


「なんだか丸くおさまったようで何よりだよ」


彼は、その中身を丁寧に読み上げてくれた。


「共和国と帝国、王国による三国協定の締結。共和国へのこれまでの経済制裁の補填の名目で、帝国との共同援助に持ち込んだか。うまいね、リルウ。謝ったら負けだけど、謝ることのメリットを取ったわけだ」


藍色の目を細める。


「もともと、裏協定はあの王様と皇帝によって結ばれたもので、次代の人間は何も知らないって名目だったからね。王国は、トウェル王の治世で火事になったし」


何が面白いのか、くくっと笑う。 


「あちらの皇帝は、国内の裁判と、国際裁判にかけられるらしいし。これで、リルウとラミュエル陛下は、無垢な世代になったわけだね。先代の悪事を批判すれば、ある程度の賞賛がついてくる。多少の無茶をしても、そのカードを切ればいいわけだ……さて、お次はっと」


ぺらりと新聞をめくり、青年は苦笑。


「何度要請されたって、僕が出て行くことはないのにね。どうして、人間世界の決まりごとに、『薔薇の魔女』たる僕が従わなければいけないんだろう。そうは思わないかい?」


なんて言ってるくせに、ちゃっかり新聞を買ってきて読み込んでいる。最近は、『山女の契約』シリーズを読んでは、「ぐぬぬ」だの、「ぬぬぬ」だのと唸っている。そんなに唸るぐらいなら、読まなければいいものを。


「それから、“禁域”の調査か。裏協定をきっかけとして、旧政権にメスが入ったようだね。これは僥倖。都合が良い……」


ぺらり。


「ああ、ブランくんは頑張っているみたいだね! 『魔女の信徒』の一斉摘発が近々行なわれるんだ……果たして、そううまくいくかな」




窓の向こうでは、しまい忘れた木箱やら、小さな子供の玩具やらが、風に飛ばされていた。


どうやら、一休みに来たらしい。またもやジャケットを羽織り、帽子を被った青年は、「夕方には帰ってくるからね」と言って、傘を差して外に出かけて行った。 


「……」


先ほどまで青年がいた、向かい側の安楽椅子。それに座って少年は、新聞を捲った。これを置いていったのは、おそらくわざとだ。


“探し人”の欄に指を置きながら、少年は、濁り切った瞳でつぶやいた。


「死ねばいいのに」


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