愛してる
どんなに揺さぶっても、セブンスが目を開けることはなかった。
「師匠っ、師匠……っ」
ジルトはセブンスに縋りつこうとして、手を止める。
ーー師匠と一緒に逃げなきゃ。
涙を拭い、向こうにいるガウナを睨む。銀髪の公爵は、薔薇の魔女は……ローズは、ジルトのそんな感情が嬉しいとでもいうように、頬を染めた。
彼から目を逸らし、ジルトはリルウに訊く。
「リーちゃん、ここから逃げられる?」
「ええ、今の私なら……ッ?」
がくん、とリルウが両膝をついた。何事かと思えば、ラミュエルも、ラテラも同様に、床に膝をついている。
「“糸”が切れたみたい。また、神様が死んじゃった」
「みたいだね」
悔しそうに呟くラテラに、他人事のように言うガウナ。手の平に炎を浮かべ、トントン、と踵を鳴らして、青く光る魔法陣を足下に出現させる。
「だけど、この時間があれば十分だ。魔術は魔法の劣化だけど……セブンスが死んだ今、君たちにはこれくらいで足りるだろう?」
こつ、こつ、ガウナは、ジルト達へと歩みを進めた。
「地獄の果てでも、天国の果てでも、どこにでも行けるよ」
ぱちん、と指を鳴らせば、あたり一帯が燃え上がる。火の粉が、髪に飛んできた。炎の向こうで、ガウナが微笑む。
「そんなところにいると焼け死んじゃうよ。ね、ジルト君。こっちにおいでよ」
「嫌だ。お前のところに行くくらいなら、死んだ方がマシだ」
「じゃあ、君のおともだちを人質に取ろうか」
「無駄だ。アイツらは、チェルシーの結界に隠れてるから」
「自分の価値を理解しているわけだ。憎らしい、その価値観が合っているのも厭だ」
ガウナは肩をすくめ、「じゃあ、これを使おう」と呟いた。
「声を聞くな!」
ラテラのそばにいた副大統領が、不思議なことを口走る。
「聞いたら君は、戻れなくなる……っう」
「うるさいなあ。予知ができるからって、止められるわけないのに」
副大統領を燃やそうとした炎が、リルウの氷魔術で消火される。
ジルトは、言われた通り耳を塞いで……だが、
『それは許さないよ』
「あ……」
目に見えない力によって、強引に手を耳から引き離してしまう。目に映るのは、深い藍色。
あの日に見た、赤と銀。
薄い唇が、魔法の言葉を囁いた。
恋人にでもするように、両腕を大きく広げて。
「きて」
青年の声が女の声になり、ジルトの目は、彼女に釘付けになった。
そうだ、彼女は、あの夢に出てきた人だ。
「きて、アルバート」
炎が、一際大きく燃え上がる。
制止する声、体を振り払い、あまつさえ懐のナイフを使い、ジルトはふらふらと、愛しい人の元へと歩いて行った。
虚な目には、炎の輝きしかなく、
「ああ、ローズ」
アルバートは、愛しい彼女を抱きしめた。
「愛してる」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。番外編を挟んで、次から最終章。最終章ですが、おそらく長くなると思います。
ここまで続けられたのも、読者の皆様のおかげです。最後まで突っ走るので、これからもよろしくお願いします!




