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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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聖剣対聖剣

「……馬鹿が」


呟いたのは、ガウナの、力押しでの戦闘手法と、炎魔法を使ってしまった自分への呆れ。


炎魔法なんて使いたくなかった。母さんよりも、父さんの方が大事だったという事実を認めてしまうから。この魔法は、父さんを殺した日に手に入れた。


ーー『薔薇の魔女』にゃかなわねぇが、俺のもそれなりに強いからな。


渦巻く大海。ガウナの作り出した炎はまさにそのようなもので、セブンスを飲み込まんとしていた。セブンスはそれに自身の炎を乗せ、そして、風の魔術を乗せてお返ししてやる。


いわゆる、カウンターというやつだ。


ーー炎一辺倒の魔女にはできない芸当だろ?


ところで……『薔薇の魔女』に、炎は効くかという疑問だが、結論としては効く。それは、魔術師である父を炎の魔術で殺した時、そして、()()()()()()()で把握済みである。


魔法や魔術は、人を殺すためのものだ。当然、加減を間違えれば、自分さえも殺してしまうだろう。


ーーだから、この炎で魔女は殺せる。


理論でいけば、だが。 






自身に迫ってくる炎の洪水の正体に、ガウナは気付き、こういう戦いもあるのかと学んだ。


脂汗さえ吹き飛ぶ高熱の炎が眼前に迫ってくる。ガウナには風魔術がない。と、すると。


ーーこれはまだ、使いたくなかったけど。


新しく手に入れた魔術。ガウナはぱちんと指を鳴らして、迫り来る炎を凍らせた。それでも、凍り切らせられなかった分、床に大量の水がぶちまけられる。


だが、ガウナは確信した。凍らせた分は、セブンスの炎。凍らせられなかったのは、自分の炎の分であると! 


ーーセブンスが、僕のありったけの炎を風魔術で消さなかったのは、消せなかったからだ。


だから、ガウナの炎を利用した。


拳を握り、湧き上がってくる感慨を強引に押さえつける。


ーーあのセブンス・レイクに、僕の炎は通じるんだ! 


ガウナがそう思うと同時、セブンスが盛大に顔を歪めた。そういえば、彼は『左耳』を持っているんだった。


「だったら、もっともっと、火力を高めれば!!」


ガウナは願う。かつて彼女が願ったように、世界の全てを焼き尽くす炎を。不幸になったっていい。もとより幸福なんて望んじゃいない。赤髪の魔術師に、ガウナの炎が迫り、


「驚いた……ッ」


瞬間、炎が断ち切られ、ガウナは初めてたたらを踏んだ。

セブンスの前に現れ、神速の剣裁きを見せるのは、先程大剣を燃やしてやったはずのラミュエルだ。ガウナの炎を全て捌き切ったラミュエルは、すとんと、ジルトと腕を組んだままのリルウの横に着地する。


ここでようやく、ガウナはラミュエルの剣の正体を理解した。リルウの氷魔術だ。魔術で氷の剣を作り、そこにラミュエルの氷魔法を付加している。だから、ガウナの炎魔法を断ち切ることができたのだ。


だが、魔法は人体に影響する。その証拠に、ラミュエルが剣を持っている手は凍傷に近く、皮膚の色が失われていた。


ーーつまり、アレも使えるのは少しの間。


「セブンス様、ここは、離脱しましょう!」


ラミュエルもそれをわかっているのだろう。ガウナから目を離さず、後ろのセブンスに向かって叫ぶ。だが、セブンスは。


「いいや、ここで奴を仕留める」


ゆるりと、首を横に振った。


「バカ師匠! どう見てもこっちが不利だろうが!」


叫ぶ愛弟子にも、セブンスは首を縦に振らない。まるで何かに取り憑かれたかのように、ガウナのことをじっと見つめている。


ーーなんだ?


ガウナの胸はざわついた。複数と敵対していてもこちらが有利。あとは時間の問題だ。それなのに、それなのに。


「なあ、ガウナ・アウグスト」


一歩一歩、セブンスはガウナに近づいてくる。床の焦げ跡を踏みながら、ラミュエルの頭を撫で、すらりと、それを抜いた。


ーーこれか!


どっ、とガウナの心臓が一際強く脈打った。


そうだ、それこそが、セブンスの隠していた物なのだ。見た目は、以前ジルトが持っていたナイフそのもの。だが、そこから感じ取れるのは、ガウナの持つ聖剣に匹敵する悍ましい魔力。


つまり、彼の持つものもまた、聖剣である。


チェルシーの時のような、紛い物ではない。紛うことなき聖剣だ。

それは確かに、ガウナの命を脅かすだろう。心臓が、()()()()()()()()()()()()()に怯えている。


ーーだからこそ、僕は用意してきたんだ。


トウェル・ソレイユという、悪辣の権化の力を借りなくとも、氷の魔術を操る方法を。


クライスの死によって、会得したのだ。


「師匠、ダメだ」

「お前の考えてることはわかるよ。だーいじょうぶ、これは聖剣だ。氷だって貫ける」


なるほど、こちらの手の内はバレているわけだ。


ーー確かに、聖剣だったら、僕の心臓も貫けるだろう。


そんなことを、他人事のように考える。人は本物の死の前に晒されると、現実逃避をしたくなるものなのか。


だが、


ーーそれは、あっちも同じはずだ。


セブンスは、氷魔術を持っていない。ガウナのように、心臓を守る術など持っていないはず。


とすると、完全に聖剣頼りのセブンスの方が不利。


とんっ、と軽い音がした。






音とは裏腹に、全体重、全魔力を乗せた攻撃が、上から降ってくる。さすがは、幼いガウナを殺そうとした人間だ。

これまでのどんな人間よりも、殺意の格が違う。


聖剣同士がぶつかり合い、火花を散らす。セブンスの攻撃は、まさに魔術師だ。変幻自在、ラミュエルのように一旦退くことはせず、聖剣同士を噛み合わせたまま、ガウナの横っ腹に蹴りを入れようとしてきた。


重い一撃と、ふと力を緩めるのを組み合わせて、セブンスはガウナを翻弄していく。


同じ聖剣を持っていても、地力が違う。 


先程のラミュエルと、おそらく同じ気持ちを、ガウナは味わっていた。手を伸ばしても届かない。圧倒的実力の前には、膝を折るしかないのである。


ーーでも、貴方には私がいるわ。


所詮、名有り(ネームド)名無し(ネームレス)は敵わない。































深々と。


ガウナの背中には、聖剣が突き刺さっていた。刃を細く伝うのは、紛れもない彼の血で。出血と興奮に歪む視界で、彼は、見た。


草色の瞳から、綺麗な涙が溢れるのを。少年が揺すっているのは、ガウナと同じく、聖剣が胸に刺さった赤髪の彼である。ガウナよりも深々と剣が突き刺さり、赤い髪、赤い瞳に負けないくらいの血を流す彼からは、生命力というものが抜け落ちている。


夢半ばで斃れた男の亡骸のはずだった。


ーーだけど、なぜだろう。


全部、彼の手の内だったような。

そんな気がするのは。


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