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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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私は、貴方を

顔を触り、袖を見て、全身を見ようとする。


「あれ、私、誰に憑依してるの?」


呑気に呟けば、なぜだか死にそうな顔をした青年が、「フレッドさんですよー」と教えてくれる。


「フレッドさん? フレッドさん、フレッドさん……ああ、フレッドさんかぁ! あの人、着痩せするタイプだったんだ!」


流石は門番を任されていただけある。服の上から触ると、がっちりした体つきだとわかった。これは、相当鍛えているに違いない。

ふふっと笑うソフィアに、青年は、眉を顰める。


「殺された相手なのに、随分と好意的ですねぇ?」

「そういえばそうだっけ。だけど、フレッドさんも苦しくてやったことだからね。それに、私、勝利宣言しちゃったし」


なにせ、死ぬ直前にドヤ顔で、「選ばれたのが、私で!」などと叫んでしまったのである。寧ろ、自分を殺した罪に苛まれているであろうフレッドが可哀想だと思うのだ。こうして、胸に手を当てると、フレッドの考えていることが筒抜けだ。罪悪感、自己嫌悪、そして、ほんの少しの嫉妬心。くすりと、ソフィアは笑った。


あいも変わらず理解できないという顔で、青年はまたソフィアに問う。


「わからないな、殺されたってことは、選ばれなかったってことでしょ。選ばれなかったら恨むんじゃないんですか?」

「ちっちっち。お子様の考えよそれは」


ソフィアは、人差し指を左右に振って、


「私は選ばれたから殺されたの。それは、ジルト君には敵わないけど、それなりに大切だと思ってたから、セブンス様は私を殺させて魔術を得ようとしたわけでしょ? それは、“選ばれた”っていうのよ」

「じゃあ、俺が、親とか恋人とか友達にはめられて殺されたのも、選ばれたってこと?」


さらりと重い話をしてきた青年は、口調と同様に、どこか子供のような表情だった。ソフィアは、顎に手をあて、「うーん」と唸る。


「どうかしら。選ぶ先があったのなら、選ばれてないってことになるし」

「アイツらが選んできたのは、どの人生でも違うものだった。俺はいつも選ばれなかったよ」

「どの人生でも?」

「俺、何回も人生繰り返してるんだ」


初対面の相手に言うには、重すぎる告白である。だが、ソフィアは既に死んでいるし、幽霊みたいなものだ。何回も人生を繰り返しているということは、何回も死を体験しているということになるだろうし、同じ死人同士、話しやすいのかもしれない。


だからソフィアも、死人仲間(?)として、この謎の青年の言葉を真剣に考えた。


「あーでも、選ばれたっていうのは強がりだったかもしれない! フレッドさんには勝ったけどジルト君には勝ってないし! そもそも、殺されたから愛されてるって考えは不健全かも! 『王都通信』の記者なのに、倫理観を忘れるとは一生の不覚!」

「いや、アンタのとこ、倫理観あったの……?」

「ここだけの話なんだけどね」


この空間……見覚えがある、おそらく帝城だ……には青年と二人っきりだ。他の人の時間は止まっている。だから、声をひそめる必要はないのだが、


「はっきり言って、ない」

「ですよねぇ」


社員の自死すら貴族を追い詰める材料にし、殺人事件があったら真っ先に現場に飛んでいき、面白おかしく陰謀論を書き立てる。それが『王都通信社』なのである!


「だから、私としては、選ばれる選ばれないの判断は、“ネタとして面白い”方だと思うの」

「人選間違えたなぁ」


遠い目をされて、失礼な、とソフィアは頰を膨らませた。せっかく同じ死人同士、親身になって相談に乗ってあげたというのに。


「どっちにしろ、選ばれたって思う方が気持ちは楽になるじゃない?」

「人生一回こっきりの人は気が楽そうで良いな」


ソフィアの答えは、青年にはお気に召さなかったらしい。溜め息を吐き、「じゃあ」と瞳を眇めた。


「アンタが選ばれたのか、選ばれなかったのか、はっきりさせて来いよ」






そもそも、どうして自分は、ガウナによって召喚されたのだろう。


一歩一歩。歩を進めながら、ソフィアは思った。


ーー私に予知をさせるため? でも、私があの魔女のこと、すっごく嫌いなのわかってるだろうし。


『アッカディヤの魔術儀式』を身をもって体験してわかったのは、生前の自我がしっかり残るということ。だから、ガウナも、ガウナに対して可もなく不可もない反応をする犯罪者達しか召喚できなかったのだろうし。


ーーじゃあ、この線はなしか。



それなら、

それなら。



「私が、貴方のことを恨んでて、殺すと思っているから?」


時間の止まった帝城で。


ゆっくりと振り返った赤髪の男に、ソフィアは笑いかけた。


「そんなことあるわけないのに」

「ソフィア」


ついぞ聞いたことのない硬い声。これも、死者特有の洗礼なのだろうか。ソフィアが死んだから、死者に手向ける声を出しているのだろうか。


そうだったら寂しいな、とソフィアは思った。生きてた時みたいに、馬鹿にしたり、ちょっと優しさを見せたりしてくれればいいのに。


「ソフィア」


こんな時ばっかり、あの人は、両の瞳で、ソフィアを見つめた。


「頼む、俺を赦さないでくれ」


苦しそうに吐き出された言葉は、相変わらず自罰的だった。


「お前を、殺させた俺を、頼むから」

「セブンス様」


セブンスの前まで来て、震える両手を取る。


「私は、貴方を赦します」


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