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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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彼にとっての、最上の幸福

ジルトの手元にはすでに『神の左耳』がない。なので、セブンスが「余計なことを言うな」というように怒りの形相をしていても、何を考えているのかさっぱりわからない。


さっきの、作ったような冷酷な雰囲気は、師匠お得意の露悪だと決めつけていたジルトは、セブンスの言葉だけを追っていた。


淡々とレデンを追い詰める言葉を追っていけば、セブンスのしていたことは、博打だとわかった。


「師匠は、『神の左耳』をアーウィッシュ副大統領に見せてたんだろ? 自分がすでに、目と耳。二つの物を持ってる時点で、目が偽物だって言ってるようなもんじゃないか?」

「それに気付けばな?」

「でも、それに気付けば、師匠が嘘をついてるだけじゃなくて、『千里眼』が偽物ってことは一発でわかる」

「……」

「二つの物を持てないっていうのは、アーウィッシュ副大統領も、たぶん、師匠も同じだろ。だったら、師匠は『左耳』を隠すべきだった。そうすれば、『右目』の信憑性も上がったのに」


あるいは、神から左耳を切り取らなければ良かったのだ。そうすれば、副大統領がルールを思い出したとしても、まだ副大統領を騙しおおせたのに。


「それなのに、師匠はわざわざ、まるでヒントでも与えるみたいに、二つを携えて副大統領の元に現れた。博打って言ったけど、どっちかっていうと、気付いてもらうための博打っぽい?」


頭の中で、これまでのセブンスの言動を整理しながら、言葉を紡いだ。そうして、その言葉が当たっていることを、セブンスのたっぷりと歪んだ顔で理解した。


「……なんでも好意的に見るの、お前の悪い癖だぞ」


バツが悪そうに言うセブンスの言葉には、先程までの冷たさがなかった。がしがしと、赤髪を掻く。


「もしも俺に、善性があるんなら。お前の言ってることはだいたい当たりかもしれないな。だがそれは、罪滅ぼしに過ぎない。あと、俺が『(あのガキ)の左耳』を切り取ったのは……いや、まあいいか、その話は。とにかく、俺がレデンに気付いてもらいたかったとして、結果としては、レデンは気付かなかった。議会では元王子と大統領が手を取り合い、今こうしてる間にも、副大統領の座を追われようとしている。()()()()()()()()()()()

「そう、このタイミングで種明かしをしたんだ、師匠は」

「……」

「戦争っていう、取り返しのつかないことを、副大統領が起こす前に。副大統領が、本当に不幸になる前に」

「……最後の最後に、嵌めてやろうと思ってたんだよ。帝国滅ぼして、王国に復讐できるってところで。敵地のど真ん中にトバしてやろうと」

「でも、師匠はそれをしなかった。()()()()()()()()()()()


さっきの言葉をそっくり返すと、セブンスは、「あー」だの「うー」だの、言葉を出力しようと努力していたが、やがて、


「しょうがない、可愛い弟子の言い分を通してやるか」


恩着せがましく言って、盛大に肩を落とした。さっきまでかき乱されていた髪の隙間から、恨みがましい目線が送られてくる。


「お前、最悪。せっかくの俺の計画が台無しだよ」

「それはどうも!」


胸を張って言えば、「褒めてない」と言われるが、ジルトからしたら、これは「褒められている」のだと認識できた。自分を不幸な方に追い込みがちなセブンスが、「台無し」と評したなら、それは「成功」なのである。


ふふんと得意げに笑うジルトに、しかし。



ーーなんだ?



セブンスは、彼にしては珍しく、曖昧な笑みを浮かべた。


「なぁ、ジルト」

「なんだ?」

「俺はさ、不幸にならなきゃいけないんだ。でも、俺はあさましい人間だから、救いの道はごろごろ転がってる。それを見ると、ついつい、そっちに行きたくなっちまう。特にお前が勝手に切り開いてくれる、救いの道は」

「別に切り開いてはないけど、来ればいいじゃん」

「……ああ、だが、そうすると、お前が不幸になるんだよ」

「なっても良い。少なくとも俺は、今、すごく幸せだから、ちょっとした不幸にも耐えられる気がするよ」


ーーあさましいのは、俺の方もだよ。


心で思うことは丸聞こえ。けれどジルトは、それでよかった。


ーーアーウィッシュ副大統領が、あんなにも死にそうな顔してるのに、師匠とのんびり話して。 


この時間が、永遠に続けば良いと思ってる。それは師匠も同じなんじゃないかと、勝手に思っている。


だからちょっとだけ、自分にも不幸が訪れればいいなんて、ジルトは思って、首を横に振る。いいや、違う。師匠にもたらされた不幸なら、万々歳なのだ。


ーーそれで、アンタが俺のそばにいてくれるなら。


勝手に命を投げ捨てようとしないでいてくれるなら。


「やっぱ、お前、とんでもなく俺のこと好きだよな」

「そうかもしれない」

「恥ずかしくなるな、否定しろよ……ああ、もうそんな時間か」


ぽつりと呟いたセブンスは、少しだけ俯き。


「俺の鍵が、お前じゃなきゃ良かったのに」

「それって、どういう意、」




瞬間、煌めいたのは、氷の粒だった。


「ご挨拶じゃないか」


久しぶりに聞く声。だが、ジルトにはわかっていた。少しわざとらしい抑揚の付け方。三日月型に歪められた目。

あの公爵は、少なくともそんな笑い方をしない。


セブンスが舌打ちし、「やっぱ殺せねえか」と呟いた。そんなセブンスに、闖入者たる青年は、大仰に肩をすくめた。


「かつての友を認め、間を置かずして殺しにくるとは。なんて嘆かわしい、なんて嫌な男になったんだ」

「嫌な男になったのはお互い様っつーか、そんなの、お互いわかってたことだろ?」

「それはそうかもね」


彼がとん、と地面を踏めば、氷でかたどられた刃が空中に出現し、セブンスを襲う。


それを、見覚えのあるナイフで弾き飛ばしながら、セブンスは何かを呟いたが、刃が氷を突き、そして切り裂く音で覆われてしまう。

だが、


「違いない、やはり、神というのは、人間と同じ形をしていても、人間とは違うものなんだよ」


セブンスの言葉をきっちり聞いていたトウェル王は、面白おかしそうに笑うのだった。

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