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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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開戦

呪いの目を持て余しながら、赤髪の魔術師は、東へ東へと進みました。どうして東かと申しますと、西の海には、魔術師が唆して眠りについてしまった神様がいるからです。


魔術師も人の子です。神様を殺してしまったことへのおそれと、魔法使いに神様を殺させてしまったことへの罪悪感があったのです。


その罪悪感から逃れる旅は、また新たに不幸な人を作る旅でした。

だから魔術師は、不幸になっても良い人に、目をあげようと思いました。それならば、人に不幸を押し付けたという罪悪感が、少しだけ減るからです。


最初に目をあげようとしたのは、とある国の王様でした。その王様は傲慢で、自分のことしか考えていない男でした。しかし、誰よりも妻を大切にする、良き夫であったのです。


魔術師は、王様に言いました。『王妃を殺しなさい、そうすればあなたは全てを手に入れられます』。

王様は、最初は首を横に降りました。『それはできない。なぜならば、妻を殺すことは、全てを捨てることと同じだからだ』。


魔術師は、王様の言葉を聞いて、目をあげるのは別の人にしようと思いました。しかし、王妃は違いました。


なんと、王妃は、王様に自分を殺すように言ったのです。王様はそれを拒みました。そして、王妃に『なぜそんなことを言うのか』と問いました。


王妃は何も答えず、とうとう、衛兵との不貞をおかしました。怒った王様は、衛兵の首もろとも、妻の首を刎ねました。


はたして、王様は、魔法の力を手に入れました。しかし、その魔法の力を使うことはなく、王様は年老いて死んでいきました。


王様の手には、王妃が生前大事にしていた、ネックレスが握られていたとのことです。


王様の死を見届けた魔術師は、また、東へ東へと歩み続けました。

 



魔術師は、王妃様がどうして自分を殺すように言ったのか、本当の理由を知っていました。


王妃様は、王様からの愛を信じられなかったのです。だからこそ、自分を殺させようと、衛兵との不貞をおかした振りをしたのでした。


王様が王妃様を殺したのも、王妃様が王様に殺されたかったのも、愛していたからなのです。


頭ではわかっていましたが、魔術師はそれを本当に理解することはできませんでした。


 


太陽が登って、魔術師の頭上を通り、背後へと沈んでいくのを、幾度となく繰り返した頃です。


『誰でもいいから、この目をもらってくれないだろうか』


そんな考えは消えて、魔術師はついに、神様の目を地面に捨ててしまいました。赤い目はころころと、ちょうどあった坂を、勢いをつけて転がっていきました。


やがて、呪いの目が魔術師の視界から見えなくなった頃。

目が転がっていったはずの坂を登ってくる人間がひとり。


その人間は、魔術師の目とは正反対の蒼色で、魔術師の目とは正反対に、生き生きとしていました。


魔法もなく、魔術もなくなった時代。人々が静かに落ちぶれていく中で、誰が一番強いのか、魔術師はそのとき、理解したのです。


魔法にも、魔術にも触れていない、ただ日々を生きるだけの人間。なにも持たない人間こそが、傲慢な王様よりも、動物と話すことの出来る魔法使いよりも幸せなのだと。


手渡された赤い目を見ながら、魔法使いは思いました。


『そうだ、すべてをこの人に話してみよう』。











自分が母から聞いていたのは、話の後半からだ。


そこに至るまでの話は知らなかったので、レデンはじっと、皇帝の話に聞き入ってしまった。

なによりも、それを話す時の皇帝の柔らかな口調が、「他愛もない話」と切って捨てることを躊躇わせた。


「共和国の、私の先祖に会うまでに、セブンス様の先祖は、帝国に寄っていた。そういうことですか」


しかし、解せないことがある。その話の通りなら、目の存在を、帝国は知らないはずだ。それなのに、全てを知っている神のように、レデンの知っていることも話すのだ、この皇帝は。


そこから導き出されるのは。


「魔術師だけではない、貴方の先祖も、この帝国に来ていたのだ」

「……」


レデンの中で、わだかまっていた疑問が弾けた気がした。 


アーウィッシュの一族はもともと共和国出身だった。だが、なんらかの理由があって、王国に来た。なんらかの理由は、あの人の言葉を思い出せばわかる。


『魔術師は後悔だらけの人だった。誰かを不幸にしてしまうと嘆いたその人のためにも、私たちは、幸福にならなければならないのよ』


魔術師と同じだと思っていた。結局青年は幸せになれず、西へ西へと戻り、王国に、目を返しに行ったのだと。


だが、青年が、レデンの先祖が、目を持って西へと歩いていった理由は、本当は。


「……先祖は先祖だ」


自分に言い聞かせるようにして、レデンは虚妄を打ち切った。


「ラミュエル殿下、選択を」


翡翠の瞳が綺麗な姫君は、協定書を食い入るようにじっと見ていた。まるで、もう会えない人との別れのように。


「…………断ります」

「……そうですか」


レデンは、自身の持っている協定書を、真っ二つに破こうとしてーー『神の左目』の通り、邪魔者が来たことに、舌打ちする。


ぱちんっ!

指を鳴らす音が二つ。


リルウとセブンスの魔術がぶつかり合い、収束していく。両者の実力は互角。レデンの体は大統領府へと送られず、そこにあるまま。


ーーこれで、一回。


残り一回半だ。実質は、あと一回。


レデンの『左目』は、勝利を確信していた。


ぱちんっ!


「……っ」


リルウの表情が揺らぐ。何も起こらない。ぱちん、ぱちんと、虚しい音が二回響く。だが、魔力が足りない!


「ふふ」


レデンは笑いながら、協定書を破いていく。


「ふふ、あはははは」


ーー勝った、勝った!


「開戦だ、開戦だッッ!!」


両国の君主を見て、レデンは嗤う。


「さあ、魔術師に惑わされた国同士、不幸になろうではありませんか!!」


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