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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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帝国

ガウナ君はそうやって文化を破壊する

一目見ただけではわからなかった。


レデンの持つ紙は、確かに古い。連名のサインも、遠い記憶で見たトウェル王と、皇帝の筆跡に似ている。だが、それだけでは本物と断定し難い。


「父上、あれは本物ですか?」


よって、当事者に聞いてみることにする。後ろに立つ父が、首を横に振った。


「わからない、もっと近くで見ないことには」

「太陽と獅子の合わせ紋。セブンス様は、偽物を作る時、本物にある透かしを入れませんでした。というより、入れられなかったのです。あれは、王国の失われた技術ですから」


レデンが、ラミュエルと父に向かって、協定書らしき紙の表面を見せ、そしてそれを斜めにし、照明の光に当てる。


おぼつかない凹凸が、はっきりとした形を伴い、陽光を浴びる獅子を形作った。


ーー本物。


ごくりと、ラミュエルは唾を飲んだ。姉の無念を晴らすための協定書が、今、そこにある。


力ずくでは奪えない。相手は予知能力者だ。 

ジルトは何と言っていたか。


『副大統領の持っている協定書は諦めてください』


そう言っていた。


ーー諦めなければいけないのか。


手を伸ばせば、手に入るそれを。ぐ、と唇を噛み、ラミュエルは、協定書を睨みつけた。


父が裏協定のことを話せば、父は罰せられる。だが、協定書という、目に見える証拠は確保しておきたかった。


それは、ラミュエルが父を未だ信用できない、というのもあるが、なによりも、“現行の王家を巻き込まない”ようにするのが、協定書であるからだ。


すなわち、リルウ政権は、トウェルの政権とは全く違うと証明をすること。正確には、リルウ政権は協定の恩恵は受けてはいるが、協定内容そのものとはまったく無関係であると証明すること。 


「協定書の日付は?」


問えば、レデンが日付を読み上げる。十一年前の日付。当然ながら、リルウが生まれていなかった頃の日付だ。


ーーリルウ陛下だったら、泥を被ろうとするだろうが……それは避けたい。


自分よりもずいぶん年下の少女に、トウェル・ソレイユという邪悪な男の業を背負わせたくはない。


「アーウィッシュ副大統領。それをこちらに渡してはくれませんか」

「ジルト君に、この協定書は諦めてくれと言われたのでは?」


会話もすでに予知されている。


ーーこんな状態からどうやって、私たちに有利になるのだろうか。


全てを見通す彼には、どんな策を弄しても、敵いはしないのではないか……。


そんなふうに、弱気になった瞬間。


「案ずるな、ラミュエル。ダグラスの魔術は絶対なのだから」


重々しい声が、耳元で響く。


「時に、副大統領殿。貴殿はなぜ、共和国を破滅へと導こうとするのか」

「時間稼ぎですか、貴方ともあろう方が」


レデンの瞳には、少しの落胆が滲んでいた。だが、父は。


「そうではない、赤い瞳の魔術師に騙された者同士、語らおうと言っているんだ」


ひどく優しい笑みを浮かべて、そう言った。


  




ジルトの問いに、リルウは片手で答えを示した。


ーー五回、か。


「ラテラほど軽いならともかく、成人男性を転移させるとなると、これの半分になります。すなわち、二回半ですね」

「半?」

「そうです。体の半分だけ、あちら側へ飛ばすことになるのでしょうか。やってみなければわかりませんが」


なかなか厳しい絵面になりそうだ。

それを想像して、ジルトは頬を引き攣らせた。


とはいえ、転移するものが重量によるならば、セブンスが示したことは容易にできるだろう。技術が伴えば、だが。


ーーそこは、本番に賭けるしかないな。


実は、ジルトが予め聞いていた予知とは少し展開が異なっている。それは、セブンスが『神の左耳』によって、とある情報を教えてくれたからだ。 


ーー師匠が手伝ってくれるなら、ちょうどいい。


ファニタから聞かされた作戦も、実行しやすくなるだろう。

チャンスは一度。練習なんかすれば、レデンに勘づかれるだろうから、


「じゃあさ、リーちゃん」


ちょいちょいとリルウを手招きし、ぎゅっと抱きしめる。


「お、お兄様っ!?」


密着した体の間で、“それ”を受け渡しながら、ジルトは、 


「作戦通り、レデン副大統領を議会に飛ばしてくれ。師匠は俺たちでなんとかするから」


と、呟いた。






大方、あちらの作戦はわかっている。


『作戦通り、レデン副大統領を議会に飛ばしてくれ。師匠は俺たちでなんとかするから』


今、共和国大統領府の議会には、ユバルらが立てこもっている。剣を向けられてはいるが、彼らの強さは折り紙つきだ。うかつには手を出せない膠着状態。


そこに、リルウの力を使って、ラミュエルを釣ろうと本物の協定書を持っているレデンを転移させる。場所はおそらく、ユバル達の目の前ではなく、集まった議員たちの中。そうすれば、あの混乱状態だ。ユバル達を注視している議員は、レデンが突然現れたことにも驚かないし、ユバルが、レデンが現れたことを指摘すれば、協定書は日の目を見ることになる。


ーーだが、そううまくはいかせない。


そのために、大統領府には、彼が残っているのだから。


万が一……それは予知では確実に実現しないことになっているが、ダグラスの前では確実な予知など存在しない……レデンが転移させられた時に、スェル大統領が、議員の気を引く役をすることになっている。


その気を引く名目は、すなわち、帝国との決裂。間違ってはいない、ラミュエルを味方につける段階は、とうに過ぎた。


となれば、それも開戦の狼煙に使うまでだ。協定書を破り捨てられたことにして、帝国と王国を一気に相手取る。


こちらには、『未来視』と、そして、『千里眼』がついている。王国ならばともかく、魔法や魔術と縁遠い帝国に勝つだけの力はある……。


の、だが。


「赤い瞳の、魔術師……」


翡翠の目をした皇帝の、その言葉が気になってしようがない。それはまるで、


「帝国もまた、彼の実験場だった」


それはまるで、帝国も、人ならざるものに関与していたと、言っているようで。


「神に目をやった、お人好しの話だ」

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