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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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そういう男

リーザもお父さん譲りのものがある設定

自分の父がそんなに馬鹿な人種でないことを、リーザは知っていた。


当然だ、救えないくらいの馬鹿であったなら、父は血で血を洗う帝位争いの末に皇帝になっていないし、トウェル王を寄生先に選んだりしない。

実質的な敗戦国の長を嘲弄しながら、その実操られているのは自分だということを認識して、下手な笑みを張り付けていやしないのだ。


そんな、“賢い”とも言える父を堕落させたのが、自己顕示欲である。

この自己顕示欲は、リーザが物心つく時には芽生えていたもので、十になるかならないかくらいの子供に向けるには、あまりにもおどろおどろしかった。

けれども、そのおどろおどろしい感情を、その子供が受け流したものだから、父の自己顕示欲は、ますます肥大化して、醜くひきつれていったのである。


父にもともとあった醜さを、さらに浮き彫りにしたのは、誰あろう、姉のレーナであるのだ。彼女は高潔に過ぎた。あふれる才覚を隠そうともせず、父の肩身を狭くしていった。


それが、姉と、トウェル王の違いだ。トウェル王にとって、姉の存在は、さぞかし目の上のたんこぶで、そして、都合が良かったに違いない。


かつての敵国にへらへらと出向くぼんくらを演じながら、確実に帝国から成果をむしり取っていくずる賢さの隠れ蓑として、あの男は、姉を選んだのである。ともすれば、自分の優秀さで父の自己顕示欲を刺激してしまいそうなところを、姉の優秀さで目を眩ませた。


そうして、その集大成として、姉の暗殺を企てた。父の自己顕示欲を満たすことで、自分は敵ではないと、錯覚させたのである。






果たしてそれで、自己顕示欲が満たされていたのかは、本人しかわからないことだが。


意識が戻った。けれど、目は開けずに、耳を澄ます。何も聞こえない。体に伝わってくる感触は、冷たく硬い床のそれ。

今自分は、床に転がされている。


「狸寝入りはやめることだ」


上から声が降ってきて、次いで、刃も降ってくる。リーザはそれを、間一髪のところで避けた。


手足を縛られているので、顔だけ上げる。気絶する前に見た、冷徹な父の目と、目があった。


「生かしておいてやったものを、お前も、私を下に見るのか」


五年間の間、父の自己顕示欲は、取り返しのつかないところまで来てしまった。姉だけに向いていた劣等感は、危惧する必要のない自分にまで向くようになっていた。これも、あの王様の成果といったところだろうか。


父は、傀儡であり爆弾であった。


後世でもっとも褒め称えられようとしているこの男は、後世でもっとも謗られる、愚かな行為に手を染めた。そこには、整合性など存在しない。


トウェル・ソレイユは、帝国の自浄作用を、父の自己顕示欲を暴走させることによって台無しにしていった。姉を殺させることによって、箍を外した。


……いま、どれだけ正しいことを言ったとしても、父の耳には、全て間違って聞こえるのである。


死んでもなお父にかかった呪いは解けない。




だからこそ、終わらせようと思ったのに。


父の中で育まれた劣等感は、リーザの殺意に、敏感に反応したらしい。


「どうして、すぐに殺さないのですか?」

「ラミュエルを貶めるためだ」


毅然とした口調。ああ、そんなことでしか、この人はそういうふうになれないのだ。


リーザが半ば、諦めていると、拳が飛んできた。


「その目をやめろ、お前も所詮は、アイツの……!」

「御言葉ですが父上」


昼間の光景を思い出す。彼がいるのなら、ラミュエルは大丈夫だ。もう、引き継ぎは済んでいる。


「私と、レーナ姉様には、半分しか血の繋がりがありません。さらに言えば、その半分の血は、貴方から受け継いだものです」


よって、父が“その目”と言っている目は、父から受け継がれたものなのである。


恐ろしいくらいに、リーザの心は冷えていた。そんなことまで、わからなくなるなんて。


「私がどうして貴方に迎合していたか、ご存知ですか?」

「アイツの、レーナの間諜だろう」


ありもしないことを。リーザは、深いため息を吐いた。


「いいえ、ハズレです。私は、レーナ姉様の心の一部だからです。貴方を親として敬愛し、信頼し、健全な関係を育みたいと考えていたレーナ姉様の。ああ、頼まれたわけではありませんわ。レーナ姉様が、私にそんな重荷を背負わせるわけありませんもの」


姉に託されたのは、ただ一つ、ラミュエルのことだけである。


「私が勝手にしたことです。ですが、それはレーナ姉様の御心に沿っていたと、信じていますわ」

「つまり、私の、俺の心に沿うつもりはなかったと!? いつもそうだ、俺の周りには、偽物しかいない。虚な人間しか寄って来ない!」

「それは貴方が、虚な人間だからです。自分に自信がないから、史上最高の王という肩書を欲し、何者かになろうとしている。自分を見ずに、いつまでもいつまでも、レーナ姉様を見ている。私は、そんな貴方が」


口の端を釣り上げて、淑女としてあるまじきことをする。


「大っ嫌いですわ!」

「……このッ!!」


振り上げられる剣。それでいい、この男を操ることは簡単だ。


矛盾ばかりのこの男は、ラミュエルを貶めるためにリーザを生かしておくと言いながら、自分の空っぽさを指摘されれば、すぐに翻意する。


そういう男なのだ、自分の父親は。


リーザは目を閉じた。せめて、苦しい思いをしないように、

だが、いつまで経っても、痛みは襲ってこなかった。代わりに見えたのは。


「れ……ラミュエル?」

「今、誰と見間違ったかは、聞かないでおくね」


幾分か幼いその口調は、遠い記憶にあるもので。


「久しぶりに話すと難しいね。だけど、その方が向き合えるって、ジルトが言うから。ね、リーザおねえさま。

いままで、見ててくれてありがとう」


軽々と父の剣を跳ね飛ばし、ラミュエルは、柔らかに笑ったのだった。


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