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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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悠久なる暗闇

たとえば、我が親愛なるトウェルの“死”の話をしよう。


彼は、自身の誕生日の夜、王宮で起こった火災で死んでしまった。事実はどうであれ、それが、一般市民の認識だ。確か火元は、王宮の調理場だと言われているが……残念、料理人は死んでしまっているので、真偽の確かめようがない。


とにかく、トウェルが死んだ時、人々は嘆き悲しみ、“どうして死んだのか”の検証を始めた。まだ焼け出されたばっかりだっていうのに、元気な連中だ。


まあ、一国の王が死んだのだ。社会的地位は最高位と言ってもいい。その頃にもあった貧民街の、ちっぽけな人間が同じ日に、別のことで死んでいたとしても、人々は目もくれようとしないだろう。


話を戻そう。


トウェルの死については、対立派閥……スピレードの仕業(これに関しては、スピレード一派も炎に焼かれたことによって否定された)、帝国の仕業、等々、好き勝手囁かれたが、そのどれもが否定され、最終的に、火災による事故死となった。


だが、上層部は気付いていたに違いない。これは罰だと。家族を皆殺しにして連れ帰った少年の、怨嗟が招いた炎だと。


気付いていたには気付いていたが、喉を焼かれたことをこれ幸いに、天国へと旅立っていった。


トウェルが事故死とされたのは、もう一つ。あまりにも、同伴者が多かったことにある。


王宮に招かれていた貴族、商人、その子ども。彼らを焼いた炎のその無差別さが、人々には、政治的策謀も何も感じさせなかったのである。



それを踏まえて。


たとえば、社会的地位があって、対立する者がいて、今現在、疑惑の真っ只中にいる人物を殺すには、どういう手が使えるだろうか。


社会的弱者を唆して殺させる? なかなか良い手だ。だが、それは悪手である。なぜなら、その社会的弱者が、こちらのことを喋らないとも限らないからだ。それならば、そいつを殺すか。ますます陰謀を疑われて終わりだ。


ならば、“無差別”というのを利用してはどうか。標的を殺すついでに、別の人物も殺させる。そうしたら有耶無耶になるが、はたしてその弱者は、首を縦に振るだろうか。いいや、振るまい。なぜなら、弱者が標的にするのは、“強い”奴だからだ。本当に無差別ならばともかく、自分を弱者と感じている人間に“標的”を指定することは難しい。



それならば、いっそ、国に擦りつけてはどうか。要は、トウェルと皇帝が、帝国の第一姫レーナの死を、共和国の仕業と見せかけたのと同様のことだ。他国の仕業というのは、人を納得させやすいし、そんじょそこらの奴じゃ踏み入れられない領域にある。


問題は、誰に殺させるか、だ。殺す役は決まっている、自分だ。誰に罪を擦りつければ良いのだろう。




大統領府の屋上で、空が夕暮れになりつつある頃。セブンスは、ぽんと手を打った。


いる。


口元が笑みの形になった。 


ーー加害者を殺すことができて、別の事件にすり替えることができる。ヤツにかけられてる疑いも利用できる。


何より、弟子を巻き込まなくて済む。

セブンスは、ふんふんと鼻歌を歌った。


「かんっぺき」






『アッカディヤの魔術儀式』は、憑依されている本人が使えない魔術を使えるようにする便利技である。


よって、地下を一瞬にして抜けてきた目の前のこの青年が、本来の体の持ち主でないことを、ユダリカは理解していた。


「やあやあ、君がユダリカ君? はじめまして、僕は偉大なるシーリフ王国の……」

「御託はいいんで、とっとと帝国に連れてってくださいよ」

「誰か一人、御託を聞いてくれないかなぁ」


トウェルの話を遮ったのは、呆れたからではなく、単純に怖かったからである。


人の死というのは、運命の円環によって決められているが、誰が誰を殺すかは決められていない。


ユダリカは自殺志願者である。とはいってもそれは、死ねないから死にたいのであって、毎度毎度、銀髪の青年に殺されに行くこの変わり者とは、本質的に違うのである。毎度毎度、婚約者と兄弟姉妹を丁寧に殺し、同じ人生を歩んでいるこの男とは。 


「どうして君は自分に期待するのか、理解に苦しむな」

「はあ? 俺は期待してないですよ。自分への期待を捨てて、あの人に幸せになってもらいたいだけです」

「幸せになったセブンスを見て、幸せになりたい自分だろう? 結局、自分じゃないか」

「じゃあアンタは、自分を捨てれるっていうんですか」

「捨てられるよ」


目まぐるしく変わる風景。発光する足元。指を鳴らしながら、トウェルはにこりと笑った。


「だからこそ、ガウナ君に殺されたんだから」


殺し殺される関係は、血縁関係よりも強固……とまではいかないが、同等の関係になる手段である。それを使ってこの男が何をしようとしているかといえば、ロクなことじゃない。


ユダリカは、暗闇に憧れている。自分がほんの少ししかとどまれない、あの悠久なる、全てを飲み込む真っ暗闇に。それは、恐怖への渇望だ。自分がついぞ体験したことのない、永く続く死への恐怖。だが、この男は、トウェル・ソレイユは。


「君も、恋人がいたんだっけ? その人を大切に思うなら、()()()()()()をすればいい。僕と同じように、僕を見限って、あの闇に身を投じればいい」


清々しいまでの自己否定、自己の放棄。


牧師が解く天国は嘘だ。それは人を絶望させることだけれど、この男にとっては違ったらしい。


……この男は、天国などないと知った上で、暗闇に身を投じる。


藍色の瞳を煌めかせ、あの無限の暗闇を、まるで桃源郷のように扱っているのだ。


「御助言どうも。でも俺は、それをする気はありませんよ。俺は俺のままで、幸せになるつもりです」

「強情め」


言葉とは裏腹に、男の言葉は柔らかい響きを持っていた。






生暖かい空気が、リーザの肌にまとわりついた。


できるだけ足音を殺して、リーザは、帝城の廊下を歩く。兵士は誰一人としていない。いるとしたら、城の外だ。平和ボケしていると、つくづく思う。


目指すは、父の、皇帝のいる部屋。もう寝入っている頃だろう。ばくばくと鳴る心臓を押さえながら、リーザは、寝室へと急いだ。


「……!」


寝室からは、薄明かりが漏れていた。リーザは、立ち止まってしまい、


「待っていたぞ」


振り返るには遅かった。


ぐらりと傾く視界。最後に映ったのは、この上なく冷徹な目をしていた父だった。


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