真相
あの穴を抜けた先は、英雄式典の会場だった。
すり鉢場になっていて、周りに観客席が設けられているそこは、燃え落ちた王宮があったところだ。
すべてのはじまりの場所に、ハルバは立っていた。
四年という歳月が経っても、そこには夢半ばで死んだ人々の怨念が漂っているようで。ハルバは喉をついてくる吐き気を抑えながら、芝生を進んでいく。
「ここです」
シンスが立ち止まった場所。剥き出しの地面には、何かの模様が描いてある。複雑な模様だ。一種の文字にも見えるが、まったく読めない。
「魔法陣です。“神”とつながる場所だと考えてください」
そういうものなのか。なんだか不謹慎だがわくわくする。
「あとは、私が貴方の魔力を引き出し、リルウ陛下へと注ぎます。貴方の魔力を受け取ったリルウ陛下が、“神”と契約をし、あの火事で死んだ人々を蘇らせます」
「代償は俺の命で済むんですね?」
「はい。貴方ほどの力があれば」
高揚感が、ハルバを包んだ。やっと、人の役に立てる。お荷物の俺が、無駄に生き延びた俺が。
ーーそういえば、英雄式典の会場って初めて見たな。
今までは罪悪感で避けていたから、実はここに来るのは初めてだ。
四年前は、こんなに整備されてはいなかったのだろう。
焼け落ちて、まだ腐臭漂うこの地に即席の舞台を作り、リルウとガウナは、戴冠式とともに英雄式典を行ったという。
絶望に包まれた地で、希望を抱かせたのだ。
ハルバとて、現王家が疑われつつあることを知っている。だが、王都を建て直したその功績は、疑いはないのだ。
「学園長も、初めてここに来た時のことを話してくれたしな……」
思わず呟き、エベック・クレア学園長が、入学式でしてくれた話を思い出す。
四年前(つまり、話してくれた時だと約三年前か)の火災の時、まだ平教師だったエベックも被災したこと。燃えゆく学園で、絶望したこと。だが、四年前、十二人の生徒ともに英雄式典に出たことで、希望を抱いたこと。
どうやって助かったかは覚えていないらしいが、きっと神の導きがあったのだろう、と彼は語っていた。
それが、セント・アルバート学園が英雄式典に出席するに至った理由である。
エベックと十二人の生徒たちは、“生き延びた”希望を抱いたに違いない。きっと彼らにとって、英雄式典は希望そのものだったのだ。
ハルバが感慨に浸っていると、隣のリルウがため息をついたのが聞こえた。まずい、時間を取らせすぎたか。
“生き延びた”とはいっても、エベック学園長だって、きっとこう思ったに違いない。“もっと多くの生徒を助けることが、もっと多くの教師を助けることができれば”と。
近くで見れば、夜闇に青く光る魔法陣は、より幻想的だった。
これが、魔法。ハルバに希望を抱かせる魔法なのだ。
「この魔法陣の中に、女王陛下とハルバ君が入り、私が外から儀式を執り行います」
シンスの説明は簡潔だった。今か今かと儀式をするのを待ち望んでいるような。対してガウナは言葉少なく、静かにそれを見守っていた。
ーーそれじゃ、四年前の過ちを、取り返しに行こうかね。
ハルバが一歩足を踏み出そうとしたとき。
「え」
ぐいっと後ろの襟を引かれ、ハルバはその場で尻餅をついた。
「女王、陛下……?」
シンスも唖然とする中、リルウはどこか一点を見つめ、頬を薔薇色に染めていた。
「やっと来てくださったのね!!」
喜色満面。駆け出したリルウは、とある場所で立ち止まり、何かをぐいっと引っ張った。
「……え?」
間抜けな声が聞こえたと共に、どしん! とすごい音。
「いだっ!? 誰だ引っ張った奴は! て、リーちゃん?」
「はいっ! 貴方のリルウです!」
「あわわわわわわ」
突如現れたのは、ジルトとファニタ。そして、さっきの態度とまったく違う、誰だこいつと言いたくなるリルウは、立ち上がったジルトにぎゅうっと抱きついて離れようとしない。
「会いたかったですお兄様ー! 結婚してくださいー!」
「はいはい、二号ね二号」
「ぐぬぬ……」
こんな状況だが遠い目になった。あいつ爆発してくんねえかな。
しかし、リルウに抱きつかれているジルトの目は、そんなハルバを捉えていた。
「ていうか、ハルバぁ! お前よくも俺を騙してくれやがったな!?」
「はあ!? 家族蘇るんならいいじゃねーか! 黙って寝ておけ!!」
「二人とも、大声で会話してないで、もうちょっと近づけば?」
耳を押さえたガウナが提案するまでもなく、ジルトの方からずんずん近づいてくる。
その形相は凄まじいものだ。草色の瞳が無駄に光を灯している。
「まったくお前は人のことを何にもわかってないな! 俺がそんなことして喜ぶと思ってんのか!?」
「ああ思うさ! お前、家族に会いたいって言ってたろ!」
「ああ、そんなこと言ったな!」
「ならいいじゃねえか!」
「二人とも、近くに来てまで大声なんだね」
ガウナは珍しく渋面を作っている。シンスはリルウの蕩けきった表情と、ジルト達が入ってきた空間を見て唖然としていた。
そんなことも構わずに、ジルトはハルバの胸ぐらを掴み、ファニタが止めようとするのも制して、言い切った。
「いいか、よく聞けバカ! 俺の家族は、火事じゃなくて、人に殺されたから! お前がいくら犠牲になろうが、蘇らねえんだよ!」




