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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
赤い目の神様
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眠れる獅子

まるで王者のようだ。


大統領席にどっかりと座りながら、それまでどこかに行っていた魔術師様は、スェルと、レデン副大統領を見据えた。


「トウェルの娘が、もう少しで回復する。だからそれまでに、土台を作る」


空は夕焼けに染まり、大統領室までも赤色に染めている。おあつらえ向きの光景だ。


「“右目”をお前らにやるかは、その土台作りにかかってる。せいぜい、俺の信に足る行動をしてくれよ」


ーーこの人は、右目とやらを私たちにくれるつもりがあるのだろうか。


「もちろんくれるつもりはあるぜ。だが、無能に賭ける奇特な趣味、俺にゃ無ぇんでね」


スェルが思ったことに、即、返してくる。セブンスは、“神の左耳”を、これ見よがしに見せつけてきた。それは、レデン副大統領曰く、対象者が思っていることを聴くことができる代物だ。それは、千切れた子供の耳である。単独に存在するのではなく……。


そこまで想像して、スェルは、吐き気をこらえた。神は人間ではないとはいえ、子供から、目を抉り、耳を切り取る非道さが、どうにも受け付けない。いや受け付けないのではない、思い出してしまうのである。


大樹の名の下に、同じことをした自分を……。


「いーい顔になってんじゃねえか、大統領。安心しな、土台っていっても、そんな血を流すようなことじゃねえから。お前らがこれからやるのは、お得意の政治だ……っと、副大統領の方はわかってるみたいだな?」

「親王国派に傾いた議会を、反王国派に染め直せば良いのでしょう」

「せーかい」


なるほど、趣旨は理解した。


スェルは、腕をこまねいた。だが、それには障害がある。


なにせ、共和国は議会制民主主義。王の鶴の一声で決まってしまうのではなく、国民が選んだ議員の下院と、もともと貴族だった議員の上院が議案を採決するのである。加えて、今回の王国か帝国かの重要事項は、両院合同の本会議で審議され、決まったこと。


よって、“もう少し”とやらの時間で、早々ひっくり返せるものではないのである。


「だが、リルウが魔女を嵌めようとした痕跡は使えるだろ?」 


思ったことに対して、そのまま返されるので、話はスムーズに進行する。スェルは頷いた。


「はい。ユバル殿下の発言で、議会も国民も、王国に不信感を持ち始めています。しかしそれも、十一年前の、帝国の第一姫・レーナ様の一件には及びません」


遠くの敵国より、近くの間諜、ということだ。それに、ユバル王子は、間諜になるだけの理由も存在するので、一概に悪と決めつけられないのも、議会の感情であろう。


王政から民主主義へ。その過程を辿っていたからこそ、共和国は、感情ではなく利益を優先するようになった。たとえ共和国を操る餌だとしても、資金提供という利益を与えてくれる王国は、帝国よりも良く見られているのである。


……民衆から選ばれた下院には、特に。


「じゃ、帝国と和解すればいい。そうすりゃ王国に敵意が向きやすくなるだろ」

「簡単に言ってくれますね」


十一年前に生まれた亀裂は、王国派に傾くことによって、どんどん大きくなっているというのに。


「でも、感情は抜きにして、帝国との関係を修復することは間違いじゃない。それは、上院下院も、国民も思ってることだろ?」

「それは……」


実際、それは幾度も、各院で協議されてきた。合同の委員会も発足されたが、発足されるたびに立ち消えになった。なぜなら、皆わかっていたからだ。それは、王国と、帝国が仕組んだ罠である、と。


「そう、実際には、帝国への悪感情には、俺たち王国が関わっている。だけど王国が、トウェルがやったことは憶測に過ぎないから、わかりやすい帝国に敵意が向いてるわけだ」


自分の親友がやった悪事を、淡々と語るセブンス。


「実際そうだよ。トウェルは、皇帝と組んで、お前らを共通の敵にした。違うな、皇帝を騙くらかして、自分の娘を殺させたんだ」

「騙くらかして」

「皇帝は臆病で、自分を脅かす奴を許さなかった。それが、自分の娘でもな」

「どうしてですか、国が発展するには、自分を脅かすほどの有能な人物が必要でしょうに」


それはワンマン政治である。後継者を育てておかなくては、国は衰退するばかりだ。


セブンスは、納得できないスェルにちらりと目を向けたあと、


「お前は?」

「共和国はおおらかにすぎます」


レデン副大統領は、特段疑問を持っていないかのような返事をした。


「だからこそ、私のような流れ者も、中央に加え入れていただけたのでしょう。大樹の為ならばどんなことでもするというのが共和国の理念ですが」

「皇帝の場合は違ったってだけの話。奴はトウェルにちょっと似てたかもしれないな。もっとも、トウェルの方がずる賢かったんだけど。だから、一旦大樹のことは忘れて考えろよ大統領。お前が後世で評価されたい自己顕示欲ばりばりの野郎だったとして、いちばん邪魔になるのは?」

「それは、話の流れからして、優秀な後継者、でしょうか?」


いまいち納得できずに答える大統領。それに、セブンスは、ジト目になり。


「だから、国の利益は関係ないんだって。自分を脅かすほどの存在を消して、自分の治世をいちばんマシにするってのが、あの皇帝が植え付けられた考え方だ」


“植え付けられた”。“ずる賢かった”。“騙くらかして”。


到底、親友だった者に向けられる言葉ではない。


「だーが」


指を立てて、セブンスは、にやりと笑った。


「ここで、大誤算が起きた。獅子を殺してしまったことによって、もっと凶悪な、眠れる獅子を起こしちまったんだ。帝国は」

「ラミュエル=レグナム・リオーネ」


レデン副大統領が口にした名前は、たしか、帝国の第三姫。全戦全勝、戦姫の名前である。


しかしてそれは、セブンスの考えの通りだったらしい。


この世の終わりのような赤を身に浴びて、魔術師は笑った。


「そうだ。アイツを使えば、議会は一気に寝返るぞ」


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