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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下実験室
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ガウナの知ったもの

それまでなす術もなかった人々がより集まり、力を合わせて、巨悪に立ち向かう。


なんと血潮の滾る、心震える展開だろう。


ーー相手が、僕じゃなければね。


四方八方から敵意を向けられ、ガウナは冷めた心地だった。だいたい、ガウナは最低限の悪事しかしていないし、うまく立ち回れてもいない。よって、なす術もないほどまで追い詰めてもいないのである。


だから、この状況が不満で仕方ない。


「なんだって、みんな僕をいじめるんだ。こういうの、なんて言うか知ってるかい? 弱いものいじめっていうんだよ」


トウェル王然り、その娘のリルウ然り、その親友の赤髪の魔術師然り、その他諸々。皆が皆、敵意を向けてくるのは、神様がガウナを嫌いだからに違いない。


と、思ってみたりするが、残念、神はあのような感じの少年で、思ったよりできることが少ないので、それも違う。大いなる何かのせいにするのは、無理筋である。


よって、ガウナは認めなければならない。これは誰のせいでもなく、自分の性格が悪すぎるせいなのだと。ひらひらと手を振る。


「あー、あー、わかったよ。僕が悪うございましたっ」


元はと言えば、自分が王宮に火を放って王都も焼いて、ついでにここに集まっている者の、大切な人とやらも殺してしまったし、ブランに至っては、大切な義父をボコボコにした挙句死体を川に流した。


「でも、別に言い訳する訳じゃないんだけど、僕だって可哀想だったんだよ」


ちらりと、警邏局長を見る。強面の顔に、脂汗が浮かんでいる。


ーーあはは、あの日とおんなじだ!


愉快な気持ちさえ襲ってきて、ガウナは、実際に声に出して笑った。


「あはははは!」


それは、防衛本能である。ガウナが、暗闇の中で過ごしてきた中で身につけたもの。本格的に“壊れて”しまう前に、小さな声でもいいから、自分の感情を乗せて出力すること。そうすることで、自分は、“壊れ”ないでいられるから。


「さあて、どうしようかな、行政局の犬はともかく、警邏局長はとばっちりですよね?」

「……」

「そんな顔、しないでくださいよ」


四年前のあの日、ガウナが地下から出た途端に斬りかかってきた人間と、同じ顔だ。化け物を見る顔だ。


それなら。


「どうして、ルージュ秘書官が、僕をここに連れてきたのかわかります? それは、ここが、僕の始まりの地だからですよ」

「始まりの、地」

「おっと。なにも、ここで戴冠式をしたから、という理由ではないですよ。ここは正真正銘、僕の始まりの地なんです。僕は、ここで産声を上げたんだ。ここで、人間になったんだ!」

「何を言っているか、わかりません」


巻き込んでも、よし。


「感傷的な説明でしたね。端的に言うと、四年前のあの大火、僕が犯人なんです」

「…………は?」

「といっても、さっき言ったように、僕にも僕なりの理由があったんですよ。僕は腹黒王様に地下に閉じ込められていたから、その復讐をした。それだけです、おっと」


銀のきらめき。


ガウナは、後ろに飛び退った。


「まだ、話してる途中じゃないですか〜」


さすがは警邏局長。抜剣さえ見えなかった。だが、間合いには入ってくれた。ガウナは、指を鳴らそうとして。


「良いんですか?」


ブランの声で、“魔女の生贄”の発動をやめる。


「警邏局長を殺しても?」

「巻き込んだのは君だろう。だから、僕は悪くない」

「でも、手を止めましたよね」


嫌なところを突いてくる。ブランは、ぐるりと、その場を見渡した。セント・アルバート王立学園の長に、ソマリエ裁判所の執行官、内務省の重鎮に、闇社会の首領。


「そう、ここにいるのは、貴方の力を持ってしても、処分しにくい人たちばかりです。今の貴方と違って、社会における地位も確立していて、不審死となれば、すぐに追及される」


魔術は使えないが、権力は使える。そういう厄介な人物が揃っているのだ……死んだほうが厄介な人物が。


ガウナは、溜め息を吐いた。本当に、深い深い溜め息を。


「そもそも、ギャングと僕が繋がってるって証拠をでっち上げられた時点で詰んでるからね。わかったわかった、君たちの“復讐”に付き合ってあげるよ。それで満足?」


おそらく、そういう(きわ)を狙っているのだろう。ガウナが納得できる、ギリギリの際を。


最初は、ガウナの不意をついて、禁域を暴いてしまう魂胆なのかとも思ったが……ここに集まった者達以外、なんの気配もない。


「それでは、行きましょうか」


エベックが、歩き出した。


 


丹念に土で隠されたそこをしばらく掘ると、地面に空いた穴が姿を現す。


「……っ」


夏の夜だから、だろうか。中にこもった空気が、湿り気のある空気と溶け合って、各々の鼻に届いた。もちろんガウナも、そのにおいを嗅いで、眉を顰める。あの頃は、血の匂いだけだったが、明確に腐臭がするようになった。


「……これも、貴方がしたことですか」

「当然」


答えると、警邏局長はガウナから目を逸らし、


「早く降りましょう」

と、言った。


ーーあれ。




用意のいいブランが、カンテラを持って、ガウナと横並びに歩く。


「そんなに監視しなくても逃げないのに」

「信用なりません」


にべもない。ガウナは、取り繕うことはやめて、くあ、とあくびをした。


「早朝、いや、夜中に駆り出されたから眠いんだけど」

「王城関係者ならば、あと四時間は稼働できるはずです」

「……」


ガウナの甘ったれた訴えは、ブランのブラック哲学によってねじ伏せられてしまった。


「う……」


後方を歩くリラが、鼻と口を押さえている。気持ちはわかる。


ーーこの臭気、粘膜にまでくっついてとれなさそうだからな。


しばらくは、死体の腐った臭いが染み付いてとれないだろう。ガウナの憂鬱は増すばかりだ。そして、眠気も増すばかり。


ーーだいたい、今更死体を見てどうしろというんだ?


罪悪感でも抱けというのだろうか。今更? 見ず知らずの白骨達に向かって?


「着きました」


エベックの声で、ガウナは顔を上げた。カンテラの灯に照らされたそれらは、


「…………あれ」


それらは、その人達は、


「なんで、僕は」


ぶるりと、ガウナは震えた。そんなガウナを、ブランがはじめて、優しい瞳で見た。


「それが、“良心”というものですよ」


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