愛していたという証明
だからトウェル王と気が合ったのかもしれない。
証明を、しなければならない。
土砂降りの雨。時折轟音が落ちるその日はきっと、誰の悲鳴も聞こえない日だ。
『なあ、アンタには俺が、どう見える?』
一歩、また一歩と、進んでいく。
『アンタは俺も、神とやらへの供物にするつもりなのか?』
空が、光る。
振り下ろした手は、あの男の心臓を貫いた。
血は出ない。これはいわゆる、感電死……だったことにするからだ。
あの男が……彼が、最後まで手を動かさなかったのは、少年との力の差が歴然していることを悟っていたから。雷が落ちたその時、少年と同じ色の瞳には、喜色さえ見ることができた。
ああ、呪わしい、忌まわしい。こんな気狂いと、同じ血が流れていることが。いっそ目を抉り出して、体中の毛を引き抜いて、それでも足りない、それでも足りない。
雨が、少年の燃えるような髪を濡らしていく。頬を伝うのは、どこまでも、冷たい雨だった。
少年は歩き出して、人の目につかないところで、指を鳴らした。
次に少年が姿を現したのは、誰もいない墓地である。
『終わったよ、母さん』
吐き気のするほど優しい声で、少年は、墓標に向かって微笑んだ。
『やつを、殺してやった。母さんの望んだ通り、やつは、天国に行けるんだ……』
天国への行き方は簡単だ。殺されればいい。殺した誰かに、罪をなすりつければ、ソイツの罪は帳消しになって、天国に行けるらしい。もっとも、そのあと神に会った少年は知った。天国など、どこにもないのだと。
少年は、俯いた。
『母さん。俺は、母さんのことを愛してたよ。だからアイツを殺したんだ。母さんを殺したアイツに、復讐したんだよ』
復讐は、愛情の表現だ。
いつしか少年は、そう思うようになってしまった。死んだ人間に愛を伝えるにはどうすればいいかを、賢しすぎた頭で考えて、考えて、今日に至ったのだ。
『俺は、母さんのことを愛してた。愛してたんだよ、なのに、なんで……なんで!』
少年は、指を鳴らす。
降り頻る雨の中でも、消えない炎が、そこに宿った。
『なんで、アイツが死んでから……ッ』
リルウは、静かに語り出した。
サファード・レイク。かつて、宮廷魔術師だったセブンスの父親がどうやって死んだかを。
「戦前のことでしたので、資料も有耶無耶になってしまいました。ですが、疎まれものの私は、同じく疎まれものの話を聞くことがあったので、彼がどうして亡くなったのか、知っているのです。今にして思えば、それは、鬱憤ばらしだったのかもしれませんが」
くすりと笑う。
「私に話をしてくれた疎まれものは、もともとは、王宮を守護する老兵でした。彼はもともとは、シド王の側仕えでしたが、お父様が即位するとともに、閑職に追いやられました」
たぶん、その笑いは、思い出し笑いだったのだろう。リルウの頭を撫でながら、ジルトも微笑んだ。あの寂しがりやの女の子にも、断片的に、温かな思い出が存在するのだと。
「その男の話によれば、サファード様は、雷に打たれて亡くなってしまったとのことです」
「か、雷?」
こくりと、リルウが頷く。
「サファード様が亡くなった日は、雷鳴轟く雨の日でした。そんな日に、なぜか外に出ていた彼は、雷に体を貫かれて、死んでいた、とのことです」
それだけ聞くと、事故死に思えるが……先程、リルウの言ったことを踏まえると、そうではないのだろう。ジルトの視線を感じ取ったのか、リルウは、今度は、諦めたように微笑んだ。
「そうです、サファード様を殺したのは、おそらくセブンス様でしょう。サファード様は、全身が焼け焦げていましたといいます。それは、雷に打たれたというより」
「炎の魔術」
またもや、リルウは頷いた。
「確証はありません。ですが、彼の死因が、別の死因にすげ替えられたことを、あの老兵は話してくれました。“彼は家の中で油を頭から被り、自らに火をつけた”と。事故死なら事故死で片付ければいいものを、自殺にすげ替えられた。それをしたのは」
言葉を切り、リルウは、紅の瞳を伏せた。
「シド王です」
シド王。先ほども出てきたその名前は、リルウの祖父であり、トウェル王の父である人物の名前だ。
「彼は、あることを隠すために、サファード様の死を偽装したのです」
事故死ではなく自殺。雨の日、雷。
「外に出た理由……」
「ええ。サファード様は、雨の日に、子供を逃していたのです」
それが、約定だった。
宮廷魔術師としての責務を捨てて、身寄りのない子供たちを閉じ込めておく地下から、子供たちを逃がしたあの男。
家族は殺したのに、赤の他人は「かわいそうだから」という理由で助けて、楽になろうとしたあの男。
あの男を殺す代わりに、あの男の跡を継がせてほしいと、セブンスは、シド王に持ちかけた。
結果、取引はうまくいった。あの男は自殺扱い、自分はトウェルのお付きとして、宮廷魔術師に。
父が着ていた装束に身を包み。のちに、銀髪の青年が入ることになる、空っぽになった地下に向かって、セブンスは、唾を吐きかけた。
「ざまあみろ」
証明を、しなければならない。
愛していたという証明を! 復讐をしても、その証明はかなわなかった。
なぜなら
「彼の魔術は……限りなく、魔法に近い魔術です」
復讐をしたその日に、セブンスは、魔法を使えるようになってしまったからだ。




