ちかみち
エベックは、十二人の生徒を引き連れて、果てのない暗闇を彷徨っていた。
この地下道を見つけたのは幸いだった。なぜこんなものがあるのかはわからないが、作ってくれた人に感謝しなければいけないと深く思った。
だけれど一言言いたい。複雑に作りすぎだ。おかげで方向感覚が麻痺して、せっかく火の手から逃れたと言うのに、今度は餓死の危機にある。
かれこれ、三日ぐらい彷徨っている気がする。実際はもっと長かったりするのか。閉ざされた地下空間では、時間感覚がわからない。
頭がくらくらする。それでも、この場ではエベックは唯一の大人。しかも、栄えあるセント・アルバート学園の教師。弱音を吐いてる場合ではない。そうして自分を奮い立たせようとしていた時、一人の生徒がエベックの服の袖を引っ張る。
『先生、あれ……』
『どうしました?』
よかった。まだ言葉は乱れない。エベックは安堵し、生徒が指さす方を見た。
『……あ』
針先のような、ほんの小さな光が、エベックの目を灼いた。何も言えなくなったエベックに、生徒たちは歓喜の声を上げる。
『先生、あれ! あれっ!! あれって!!』
『落ち着けよ!! 地上だっ、地上だよ!?』
『あんたも落ち着きなさいって……』
口々にはしゃぐ生徒が、今度はエベックの手を引いて、走り始める。どこにそんな元気が残っていたのやら。エベックは苦笑した。
ああ、神はいたのだと。
光だけを見ていたその時は、たしかにそう思ったのだ。
「問題は、なんであの公爵が結論を知っていたかだ」
薄暗い中を迷うことなく突き進みながら、ジルトが言う。
とるものもとりあえず、ランタンを持ちながら、ジルトとファニタは学園の地下を進んでいた。
「死んだ人が生き返るのは、契約の破棄が成功した時……そう言ったな?」
「そうよ。魔法は“神”との契約の一種。四年前の大火が、何者かによる『アッカディヤの魔術儀式』の結果だとしたなら、その失敗した契約を破棄し、新たな契約を成立させれば、炎で焼かれた人たちは蘇る。また失敗したら……」
「四年前の再現ってわけだ」
ジルトはため息を吐く。なんでそんな大博打を。
「公爵は失敗した場合を考えてないのか? 失敗してるってことは、歴代の薔薇の魔女の生まれ変わりはみーんなニセモノだったんだろ?」
「ええ。ただ、今回のリルウ陛下は、当たりの可能性が高いわ。薔薇の魔女が死ぬ間際に言った言葉を考えればね」
『覚えておきなさい。はるか未来、私は必ず蘇る。貴方たち王家に、きっと復讐を果たしに来ます。それまでは、さようなら』
「あれ、わりと真実だったのかよ……」
リルウと見た劇を思い出し、ジルトは渋い顔になる。王家への復讐、それは、自分の生まれ変わりを王家に輩出する呪いとされている。
呪われた血を輩出した王家、ひいては王国は自滅、ないしは他国に攻め込まれて滅亡。難儀な話だ。
「アウグスト公爵の狙いを考えるのはいいけど、ちゃんと儀式に間に合うの?」
ファニタの問いに、ジルトは「ああ」と頷く。ランタンが、複雑怪奇な土の道を浮かび上がらせていた。
「ここは、俺の師匠が学園在籍時に勝手に作った道でな、よく話に出てくる場所の一つだ」
「貴方のお師匠様、ずいぶん破天荒な人なのね」
「まあな。当時、学園から王宮まで行くのが面倒くさいと思った俺の師匠が、勝手に作った場所だ。だから、至る所に魔法の仕掛けがしてあるって言ってた」
「ま、魔法?」
ーーまあ、驚くよな。俺も初めて聞いた時驚いたし。
当時のことを思い出しながら、ジルトは話を続ける。
「そうだ。俺の師匠は魔術師でな、まあ魔法とか教えてくれなかったけど、武勇伝だけは話してくれるタチの悪さでな。えーと、ここらへんだったかな」
ジルトはトントン、と左手の壁を拳で叩いた。すると、それまでにはなかった、虹色の縁が不思議さを思わせる穴が、壁にぽっかりと空いた。
「おお、すげえ……初めて見た」
「これって、魔術師がよく使用してたって言う“抜け穴”?」
「そういうのかわからないけど、これで近道できるって言ってたな」
そう言いながら、ジルトは穴に左手を伸ばす。しばらく穴の中でぶんぶん手を動かして。
「うん、大丈夫だ。念のため利き手じゃない方でやってみたけど、何かに喰われたりとか、手が無くなった感覚とかはない」
「なんでそんな冷静なのよ」
ファニタも呆れたような視線を送れるあたり、冷静だと思うのだが。
ジルトは一旦左手をこちらに戻そうとし。
「……え?」
穴の先の左手が、何かに引っ張られた。
そのままジルトの体はバランスを崩し、それを止めようとしたファニタも引っ張り込まれ。
結局二人とも、穴の中へと引きずり込まれてしまったのである。




