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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下実験室
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無音

短いですが、答え合わせ回です。『大勝利間違いなしの賭け』と合わせてお読みください。

流石にブランも、生理現象には配慮してくれるらしい。

二回目の馬車の停車。用を済ませて帰ってくると、御者と馬が交代していた。


ガウナは、残りの資料の厚みを見て、心の中で密かに溜息を吐いた。


ーーまだ道のりは長いな。


馬車が動き出す。無駄とは知りながらも、ちらりと窓の外を見た。無風。先ほどまで風に揺れていたカーテンは、今はぴたりと動かない。


ーー違う。


カーテンの向こう、動いているはずの景色が、動いていない。馬車が道を走る音が聞こえない。隣のブランを見る。紙束を持ったまま、沈黙している。紙束を取り上げる。何も言ってこないので、紙束を戻す。


ガウナは、うーんと唸った。


ーーこれって。


「もしかして、時が止まってる?」

「ふぅん、初見で気付くんだ」


声が聞こえた。指を鳴らす。舌も鳴らす。“魔女の生贄”は、発動しない。


「おいおい、ご挨拶だなぁ」


その人物は、車内の真ん中に立っていた。へらへらとした笑みを浮かべながら、ガウナのことを見下ろしてくる。


「いきなり殺そうとしてくるなんて、さすがは薔薇の魔女の生まれ変わり様だ」






無音。






ガウナは、不満げな顔をした。いきなり失礼なことを言ってきた男を、ジト目で見る。


「僕は優しいと思うよ。優しくないから選んだなんて、見当違いだ」


不思議と、目の前の男の言葉は、全て否定したくなるものだったのだ。男はガウナのことを、まるで人間味のない存在のように語った。


「クライスのことは、そう思っていない。僕は彼に会うのが怖い」


まだ、成し遂げていないから。


「あの人?」


とは、誰だろうか。少なくとも、ガウナより尊敬されている人物であることはわかる。それにしてもこの男、どうして『アッカディヤの魔術儀式』について知っているのだろうか。この時を止めるのは、魔法によるものか? 


「嫌われるのが嫌なら、最初から自分と無関係な人物を召喚すればいいじゃないか。僕がそうしたように」


ガウナからすれば、男の方が考え過ぎているように思えた。男の口ぶりからして、男は驚いたことに、何回も生を享けた存在らしい。そして、男はかなりの臆病者だった。家族に恋人に友人に。他人に完璧を求めていた。


「倫理観? つまり良心だね。僕だって持ってるものだ、いや、持たされたものだ。僕の良心はね、そうだね、あれは四年前に遡るね……聞けよ」


と、ジルトとの出会いを話そうとしたら、即刻否定された。倫理観と良心は違うものらしい。また、あの子に教えてもらわないと。


「ある人物?」


それは、意外な名前だった。ともすれば、セブンス・レイクがしたことを、フレッド・シュルツがしたことを、断罪することになるかのような。 


「そんなことしたら、僕はセブンスに殺されてしまうよ」


だから、ガウナはそんなことを言った。倫理観を持ってるセブンス様だったら、そんなこと、絶対に許さないだろう。この男はまるでデリカシーがない……


「……本当か?」


考えていることを言われて、ガウナは、目を見開いた。その情報は、まさに今、欲しいものだった。彼女の死に方は知っていた。だが、ガウナは、彼の死に方は知っていなかった。

問題は、どちらをどちらにするか、だ。


ここで、もう一つ、重要な問題が湧き上がる。


「ということは、君は何回もジルト君の生き死にを見てきたということになるね。僕の許可もなしに」


誰かに殺されるあの子なんて、耐えられない。やはり、実験をする必要がある……。


「侮るなよ。僕は手の感触だけで同定した」


何百回と繰り返されてきた世界の自分を殺しにいきたい。愚かな奴だと罵りに行きたい。


ーーでも。


ガウナは、ふと、自分の手のひらを見た。愚かな自分は、三十二回分。


ーーこの手で。


笑みが溢れる。


だが、気に入らないのが、さっきからこの男、他力本願が過ぎるところだ。


「さっきから、セブンスの幸せばっかり言ってるけど、君は幸せになりたいと思わないのかい?」


だから、ガウナはこう言い換えた。目の前の男は、思った通りの答えを言った。


「諦めてるだけじゃないか」


有用な情報を教えてくれたことは感謝する。だが、この男は、どこまでもつまらない人間だ……



…………。



「じゃあ、どうして彼に期待するんだい?」


撤回。


なかなか見る目のある男だ。ガウナは、知ろうともしなかった男の名前を尋ねた。


「消える前に教えろよ、君の名前は?」






馬車から降りたユダリカは、ゆっくりと、運河の岸を歩いていった。


「あ、フレッドさーん!」


くたびれた感じの同志を見つけて、元気よく手を振る。

「げ」と言った感じのフレッドは、仕方なく手を振りかえしてくれた。


ーーお人好しめ。


そんなんだから、人なんか殺させられるんだ。


ーーあれ、てことは、そういうことかぁ。


「どうしたんですか? また、元看守長と後悔話をしてるんですか?」

「なんでそれを」

「俺にはなんでもお見通しなんでーす」 


あんたがここに、この時間にいることも。どうやったら救われるのかも。


「俺も看守長と話そうかな。ね、いいでしょ?」

「俺はいいが、あっちは良いかわからんぞ」

「出たそういう言い方。それは、フレッドさんも良くないって思ってる言い方ですよ〜」


けらけらと笑うユダリカ。苦手だという顔をするフレッド。


「いいじゃないですか、置いてかれた者同士、傷を舐め合いましょうよ?」

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