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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下実験室
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神様はね

風が吹き荒んでいる。


「うわぁあああああッ!? 兄貴、これ無理っ!! 無理だってぇえええ!?」


というか、風を切って走っているのである。ハルバの乗っているオオカミが。


人間には到底出せない速度で走るオオカミに、ハルバは正直涙目だった。これは自分だけじゃないはずだ。そう思って、隣の親友を見ると、


「ははは、頑張れハルバ。俺はもう慣れた」

「お前の場合は諦めたって言うんだよ!」


妙に穏やかな声を出すジルトは、普段のやる気のない目が三倍マシで死んでいる。草色の瞳が濁りきっていた。


「ハルバ、ジルト君を見習いなさい。ダグラス公爵家として、オオカミくらい乗りこなせなくてどうする」

「なにがどうなって公爵家としてって言葉が出てくるんだよ!」


頓珍漢なことを言ってくる兄に、


「あ、やっぱもう無理、ハルバ、後のことは頼む……」

「ジルトーー!!」


がくっと気を失ってしまった親友。それでもハルバの目は、ここから全員揃う未来を視ていた。


だからまあ、オオカミの乗り心地に散々叫ぶことができるわけである。


「兄貴、ジルトが落ちそうになってる」

「でも、冷静じゃないか」

「そりゃ」


ずるっ、とオオカミの背から落ちそうになるジルト。本当を言うと助けに行きたいが、ここは()()に花を持たせることにしよう。


「オオカミさんっ!!」


声が聞こえて、黒灰色の塊が、地面に投げ出されそうになったジルトをキャッチ。視えていたこととはいえ、彼女の順応の速さに驚愕してしまう。


「ま、間に合ったぁ……!」


気絶したジルトを両腕と、自身の乗っているオオカミとで受け止めたファニタは、安堵のため息を吐いた。


「こうなる未来が視えてたからな」






生ぬるい風が顔に当たる。黒灰色が目に入り、夢の続きかと思った。


「俺の名前は……違うのに……」

「ジルト?」


呟くと、今度こそ自分の名前を呼ばれる。気がついた。これは夢じゃない、現実だ。


「大丈夫? うなされてたけど」

「ファニタ」


体を起こすと、相変わらず暴力的なスピードで走るオオカミの上にいた。それは良い。問題は、ファニタに抱えられるように、腹に腕を回されていることだ。


ーーは、恥ずかしい。


そうだ、オオカミの速度についていけなくなって、気絶したんだった。隣にあんなに叫ぶハルバがいたのに。


「助かったよファニタ、ありがとう。それからすまん、こんなことさせちまって」

「い、いえ。私的には役得っていうか」


きゅっ、と、腕の力が込められる。


「あの、下ろしてくれると」

「もうちょっとだけ、もうちょっとだけだから」




皆と合流できたのは、日が昇る頃。


大統領府に飛ばされたターゴも、何が何だかわからないような顔で、オオカミに咥えられてやってきた。


「私の能力だよ。正確には、魔法使いが最初に持っていた力。動物を友達にできる能力だ」


けろっとした顔で言ったレオンは、オオカミの頭を撫でていた。共和国で“狼”と呼ばれているらしいニェルハは、遠くで複数の狼と一緒に丘を走り回り、ユバルがそれを眩しそうな目で見ていた。


「そして……これは、全てが終わった後に言おうか。もっとも、アドレナ女史は全てをわかっているんだろうけれどね」


片目を瞑り、ジルトの横にいるファニタに目配せ。ファニタは、神妙な顔をしていた。


「女史だなんて、恐れ多いです」

「謙遜することはない。君があの作戦を考えてくれなければ、私たちは全滅していたかもしれないんだよ」

「それなら、やはり……」


胸の前で、ファニタはぎゅっと手を握った。苦しそうな表情だ。 


「可哀想だと思うかい?」

「いえ……必要なことだと思います」


ファニタは、毅然と答えた。ジルトのことを青い瞳で見つめる。


「ねえジルト。全部終わったら、話、聞いてくれる?」

「ああ、わかった」


ジルトもまた、ファニタの瞳を見つめ返して、頷いた。

 





そんな光景とは裏腹に。


「完璧な俺に、完璧な千里眼。いやあ、過剰戦力とはこのことだなぁ!」


傲岸なことを言う赤髪の魔術師は、最愛の弟子に嫌われていなかったことで、有頂天になっているらしい。


大統領室。本来の主を差し置いて、大統領の席にどっかり座り、机に足を投げ出しているセブンスは、これ見よがしに、手のひらでコロコロと赤い玉を転がした。


そう、レデンはまだ、“神の右目”を手に入れていないのである。“神の左目”をもってしても、それが渡される未来はまだ視えない。


「自分たちが、試す側だと思っていたのか? ひゃははははっ!!」


性格の悪さ、ここに極まれり。先程の弟子との殊勝な会話はどこへやら。悪辣な笑みを浮かべながら、レデンとスェル大統領を見下ろすセブンス。


「俺、実力疑われてすんごい傷ついたんだよねー。だからちょっとくらい意地悪したって構わないだろ? うん、構わない」


ーーこれなら、弟子を無理矢理にでも連れてくるんだったな。


レデンは、そんなことを考えてしまう。調子に乗る速度が尋常ではない。何様俺様セブンス様は、自分に許しを乞うて、自分に許しを与えている。


「頭が痛い」


言いながら、額を抑えるスェル大統領。それにはまったくもって同感であるが、 


ーーだが、これは進歩だ。


神の右目は本物。自分の持っている左目も本物。セブンスがここで右目を出し渋るのは想定外だが、彼の意地悪をやりすごせば、今度こそ、神の右目は、


『……とつし……いのよ』 


ーーなんだ。


突然、懐かしい声が聞こえてきて、レデンは目を見開いた。


ーーこの、声は。


『神様はね、案外けちんぼなの』


遠く、王国の地に置いてきた記憶のはずだった。レデンは、その声に耳を澄ませーー


「やっぱり、俺とお前は似てるよ」


その声を遮るように、赤目の魔術師がぽつりと呟いた。


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