少し可哀想な
もちろん、彼女の余裕は、ハルバ・ダグラスの予知のもとに成り立っている。
当然、ターゴが大統領府に飛ばされることは予知済みだ、いまごろは、街中にいるチェルシーとニェルハが、ターゴを助けに向かっていることだろう……これは副大統領には視えないが、セブンスには視えなければならない。なぜなら、セブンスは、ディーチェルの願いとは全く関係ない、『千里眼』を持っていなければならないからだ。
ーーだが、あの嬢ちゃんのことだ。油断はできねぇ。
セブンスは、上着のポケットに手を突っ込んだ。そこには、あの生意気な少年神の、体の一部が入っている。当然、聴くべきは、作戦の中心人物である、ファニタ・アドレナの心の中だが……
「なぁるほど」
突如、聴こえてきた声に、セブンスは口の端を釣り上げた。そういえば、もう一人、いた。
「お前らの作戦はわかった。いいぜ、それならとことん、追いかけっこしてやる」
風景が変わる。二人の魔術師は、同時に指を鳴らした。
といっても、セブンスの方が一回多い。ユバルと、ハルバ。人物の選定も的確といえる。王子の従者の次は、先に予知能力者を飛ばそうという魂胆だ。
だが、それはあまり意味がない。
なぜなら、ファニタ・アドレナは、セブンスが選ぶ場所を予測しているだけではない、その順番までも予測していたからだ。ハルバの予知は、パターン予測の裏付けにすぎない。彼は飛ばす順番を間違えた。
「読まれています」
不快そうに言う、レデン副大統領。
「あっそう。神の左目って、ダグラスみたいに決定権ないから、暗闇にはなんねえのな」
と、飛ばし損ねたハルバを見ながら言うセブンスは、それでも驚いたような顔を見せないが。
ーー競り勝った!
リルウは、心の中で歓喜した。予知に予測が勝っている!
人、場所ともに、あのセブンス・レイクの考えを見通しているのだ、このファニタという娘は!
ーー私の未熟な魔術でも、補完してくれる人がいれば
「この俺に勝てるはず? 甘いよ」
景色が変わる。
セブンスが指を鳴らした数は一回。
「お前のことは、トウェルの子供ぐらいにしか思ってなかったけどな、訂正するよ。お前はいっぱしの魔術師だ」
「……」
それなのに、ハルバ・ダグラスが消えた。指を鳴らした数は、聞こえた数は一回のはずなのに。
ーーそうか。
「私が来る前に……」
「転移魔術を発動しておいた。ちょうど、ハルバ・ダグラスが着地するところに。転移魔術は落とし穴。よく言ったもんだ。褒めてやるよ、リルウ・ソレイユ。お前、俺に“アドバンテージを取らせよう”って思わせたんだぜ? もっとも、それはお前だけの手柄じゃあねえけどな」
ーー敵わない。
「じゃ、場所を移そうか?」
一人、また一人と減っていく。
「あと、三人」
実に楽しそうな声のセブンスが、リルウと、ユバル王子と、そして、ジルトを見る。空の月は高いところまで上っていて、生ぬるい夏の夜風が肌を撫でていった。
「もう、良い子は寝る時間だ」
「少し前まで子供だったくせに、何を大人ぶってんだか」
ジルトに半眼で指摘されたセブンスは、髪をかき分けようとして、動きを止め、「ははーん」としたり顔。
「さてはお前、今のイケメンの俺より、前の純粋無垢そうで可愛い美少女の俺の方が好みだったのかぁ?」
「なんでそうなるんだよ」
「……セブンス殿?」
弟子を揶揄うことに精を出しそうになったセブンスを、不安そうな声でとどめる大統領。
「わかってるよ」
そんな大統領に、雑な態度を取り、セブンスは、ぱちんと指を鳴らした。
足元が、青く光った。
気付けばジルトは、地面に座っていた。髪をかきむしる。
「あんのアホ師匠、本当に弟子飛ばすか?」
立ち上がり、ジルトは、街を見下ろすことのできる場所まで歩いていった。
「あった」
この地点ならば見えるはずというランドマークを見つけて、クラスメートの少女の予測の正確さに舌を巻く。計画は順調だ。
「それにしても……」
転移魔術をかけられた時に、聞こえた声は、誰の声だったんだろう。
ーー“ふしあわせになりたい人間の声だよ。お前は聞かなくていい”。
「でも、聞こえた以上は」
ーー“声に応えるのは、ただ一人にのみだ”。
「ただ一人って?」
ーー“決まっているだろう”。
か細い灯りに照らされて、ガウナは渋々目を開いた。
「……誰だ?」
暗闇、ぼんやりとした視界。その中に映るのは、
「ああ、君か……そういえば、君が残っていたね」
その人物は、嬉しそうに頷いた。ガウナは、くあ、とあくびを一つ。
「あそこから移ってきたのか、ちょうどいい、それなら、二百人ちょっとは簡単だね……」
さて、かの魔術師様は、上手くやってくれるだろうか。いいや、上手くやってくれなければ困る。そうでなければ、教えた意味がない。
「私も、血生臭いのは好まないし」
なにより、王子なんて殺させたら、弟がこちらを軽蔑の目で見てくることだろう。
ごろん、と、レオンは草地に寝転んだ。公務からの、遺体奪取に動いたので、流石に疲れた。
あとは、彼女達が、上手くやってくれるはずだ。
「少し、可哀想な気もするけれど……」
その言葉が、誰に向けられているのかは、レオンと、彼だけしか知らない。




