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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
地下実験室
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転移魔術

トウェル王「ひどい」

自分達は、セブンス達を追う立場にある。同時に、追われる立場でもあるのだと、ファニタが説明してくれる。


「突然現れたセブンス様を、あちらも信用するとは思えません。おそらく、セブンス様としても、信用に値する何かを副大統領達に渡すはず。たとえば、敵対する組織の人物とか」


ちらりと、ファニタは後ろを見た。


「中を歩いているのは、あちらが仕掛けてくるのを防ぐためです。あちらにディーチェル公爵のような」

「チェルシーでいいよ」

「チェルシーのような、認識阻害結界があれば話は別ですが、魔術を使っている姿を見られるのは、避けたいとみて良いでしょう。なにせ、共和国は、王国以上に魔術と程遠いのですから」

「だよな。認識阻害結界って、すげえと思う。俺、通行人に変顔してるけどなんにも気付かれねえもん」

「さっきからなんかやってるなと思ったら……」


ジルト達の少し後ろで、チェルシーとユバル、そして、従者のターゴの声がする。共和国組とリルウ、それにレオンは、見られたら面倒なことになるので、チェルシーと手を繋いで、道行く人に見えないようにしているのである。


「それでさ、私、気になってることがあるんだけど。ディーチェルがこの結界を作ったのは、姫と魔法使いを恐れていたからなんだ。だから、たとえ魔法使いの目といえども、ごまかせると思うんだけど……」

「どう思う? ハルバ」


ハルバは、ファニタの問いに頷く。 


「たしかに視えない。葬儀の時も、俺はディーチェル公爵のことに気付かなかったからな。今も視えるのは、陛下の“抜け穴”で転移した時だけだ。だけど、ダグラスはともかく、副大統領がそうかっていうと、怪しいんじゃないか?」


確かに。なんだか怪しい『神の左目』とやらは、同じ予知能力を持っていたとしても、特徴は違うのかもしれない。もしかしたら、チェルシーの結界をも見抜いているのかもしれない。


と、


「いや、それは無いと思うよ」


すぐに答えをくれたのは、レオンである。


「神といえども、ディーチェルが視えるのは、千里眼だけだ…………()()は、ディーチェルを捉えられない」

「どうしてそんなこと知ってんだ?」

「……とある忌まわしい人物が、教えてくれたからだよ」


ハルバの問いに、レオンが重い口調で答えた。それだけで、忌まわしい人物の正体は、痛いほどにわかった。


「攻撃を仕掛ける時は、認識阻害は有効なのですか?」


その身内であるリルウは、それをさらりと流してチェルシーに問うた。


「うん。魔術を使っているか、それに属するものを持っていると、結界は使えないけどね」


その言葉で、ジルトは「そうか」と呟いた。 


「だからあの時……」

「そう。ご先祖さまったら不器用だから、他の魔力が混じると結界が壊れちゃうんだよね。だから、あの公爵に攻撃する時に、姿を現さないといけなかったんだ」


他の魔力。つまりそれは、チェルシーがジルトに持たせていた“聖剣”である。


「それに、結界構築には踊りが必要だから……戦いの場でちんたら踊ってたら、それこそ的になっちゃうよね」


認識阻害結界も、そうそう便利なものではないというわけだ。


「つまり、認識阻害結界を使うことができる状況を確保すれば良いというわけですね」

「そんなことできるの?」

「ええ。私に考えがあります」


ファニタは、青い瞳を煌めかせた。






赤い瞳の魔術師は、そこらで拾った枝を使って、地面に絵を描いていた。


「こんなにのんびりしていて良いのでしょうか……」


スェル大統領が不安そうに言うのももっともだが、そこは心配ない。


「あの嬢ちゃんのことだからな。下手に仕掛けたら、火傷を負うのはあっちだって理解してる。だから、仕掛けてくるとしたら、俺たちが移動してきたときだ。できた」


ぱんぱんと手を払って、セブンスは、レデンとスェル大統領の方を振り向いた。


「どうよ? 俺の描いたバカ弟子!」

「えっ、これって人だったんですか!?」


素直な反応をしたスェル大統領は、ぎろりとセブンスに睨まれ、「ひっ」と悲鳴を上げた。お世辞にも絵心があるとは言えないが、かろうじて理解できるのは、その“バカ弟子”とやらの他に、もう一人、人間がいるということだ。


「さてと、そろそろ動くか」


セブンスは、ぱちんと指を鳴らし。






風景が変わると同時。


リルウがレデンに向かって放ってきた転移魔術を、魔法陣ごと踏み砕き、同時に、ユバルに向かって放った転移魔術を無効にされる。セブンスの読み通り、チェルシーはこの場にいない。そして、あのニェルハとかいう娘も。ラテラが残っているのは、戦力の温存だろうか。


おそらく、ファニタの作戦としてはこうだ。チェルシーの認識阻害の魔術は、転移してからすぐには使えない。ならば、転移をしなければいい。レデンを街に引きずり込めばいいのだ。


相手を転移させるという考えは、セブンスも同じだ。ユバルを大統領府にでも転移させてやろうと思ったのに、防がれた。


だが、これは予知できている。なぜなら、認識阻害結界を使えるチェルシーがいないからだ。それはあちらも同じだろう。ファニタがチェルシーを街中に残したのは、ハルバの予知を機能させるためでもあるのだ。


ーー敵にも毒、味方にも毒。難儀な特性だな。


そう思いながら、指を鳴らす。景色が変わる。セブンスは、密かに舌を巻いた。


あの泣き虫が、よくもまあ、こんなに魔術を使いこなせるようになったものだ。


ーーさすが、アイツの娘といったところか。


あいも変わらず、レデンを転移させようとしてくるリルウの魔術を踏み砕く。こちらの魔術を踏み砕く時、リルウは魔法陣を凍らせる。なるほど、こちらと違って、二種類の魔術を組み合わせることでキャンセルしているのか。


「じゃ、これはどうだ?」


興が乗った。セブンスは、高速で二回、指を鳴らす。一つはユバル、一つはターゴである。リルウはユバルを選択。


やはり。転移魔術に氷魔術を併せた、未完成な魔術では、一人が送られるのを無効にすることしかできないようだ。


「と、すると? ひーふーみー、あと、六回もすりゃ、俺は本命に辿り着けるってわけだ?」

「そのようですね」


ファニタが、緊張した表情をしながら、あっさりとそれを認めた。

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