表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第三審)
331/446

好きと嫌い

およそ四百人。


それは、ガウナの餌になり得る人間達の数である。


シンス・ゲイナーという盾をひっそりと失ったかわいそうな信者たちを、『魔女の信徒』という檻に閉じ込めて、一気に“殺された”魂として消費しようというのが、あちらの狙いだろう。


計画自体は、『ユーフィット醫院』の事件の頃から動いていたように思われる。

水面下での軍事施設の計画は、リルウの父、トウェル王の禁域建設計画にそっくりだ。レイデス院長が院を畳まなければ、新生『魔女の信徒』が、シンスになりかわったガウナの傀儡を頭に誕生していたはず。


だが実際は、そのときにはシンス・ゲイナーと、四百人の人間は死なず。シンスは今死に至り、残りの信者も、魔力の餌として使われようとしている、という状況。


そう、自分たちは、ガウナの魔力食いを阻止しようと、ここにいる。


「これ、ちょっと楽しいかも!」


セレス姫の魔力を目覚めさせ、目を輝かせてラテラを付け狙うリルウを横目で見ながら、レオンは少しだけ困ったように笑った。


ーーたぶん、そのはず?






氷柱が、地面から生えてくる。 


生え方は一定。生成スピードも一定で、伸びる方向も一定。


おそらく、氷の魔術には、最近目覚め始めたのだろう。


ーーそれに、クセもわかりやすい。


好ましく思うほどだ。ガウナの手の者達を氷の彫像にした技は、初見では対応できない。が、そのやり方は、恐ろしく単調。


人一人を氷漬けにするには、時間がかかる。だから、地面から近い足を固定すべく狙ってくる。ラテラは、リルウのそのクセを使って、自身に有利な場を築き上げていた。


ディーチェル邸は、主人の意向で、庭がこざっぱりとしている。小回りを得意とせるラテラの飛び回れるような建造物は少ない。


ーーだから、作る!


リルウが指を鳴らせば解除される氷柱は、未だに解除されていない。ラテラが、解除する隙を与えていないからだ。


ーーここから逃げることはできない。


それほどには、女王陛下は甘くない。だから、攻めなければならない。


リルウとレオンの退路を氷の柱で塞ぐ。ラテラ自身は、ランダムに作らせた氷の柱に身を隠し、着実に近づいていく。


「あわわわわわっ」


リルウの攻撃も雑になってきた。


「陛下。一度、氷柱を解除されては」


リルウの隣に立つレオンが、そうアドバイスし、リルウが頷く。それはさせない。


ーーごめんなさい。


ラテラは、わざと氷柱と氷柱の隙間に姿を現した。抱えている教祖の遺体を……宙に放り投げる!


「なッ……」


リルウが驚愕の表情になり、教祖の遺体に釘付けになる。その隙を縫って、一気に距離を詰める。小刀を、リルウの喉元に突きつけた。


「降伏、してくださいますか」

「……完敗だわ、ね、外務大臣」

「そうですねぇ」


レオンが、やけにゆったりと返事をする。はっきり言って、レオンは優男だ。荒事を得意とするわけじゃないのに、どうして彼が選ばれたのだろう。


ーー護衛にするなら、軍部とか……。


そこまで考えたところで。


ラテラは、教祖の遺体が落ちたところまで飛び退った。唸り声、呼吸音……人間とはまったく違う生き物の気配が、リルウとレオンのいる氷柱の向こうで、した。


「まさか」


ラテラは、レオンを見た。シリウス先生から聞いたことがある。ダグラスが魔法使いと呼ばれた理由。どんなに凶暴な動物とも、対話をできたという……。


ラテラの判断は早かった。


「それを動かしたら、この男の遺体の皮を剥がします」

「ほう」


遺体の顔に刃を滑らせる。これは賭けだ。リルウとレオンは、“教祖”としての遺体を欲している。だから、それを“教祖とわからない”ようにするという脅しは通用するはず。問題は、()()のスピードに勝てるかどうか。


レオンが指を鳴らす。ラテラは、教祖の遺体に刃を振りかざしーーリルウが、目を見開く。



「す、ストップ! ストップ!!」



氷柱が一気に消え、獣の気配が消える。何事かとリルウを見たら、リルウは走り出していた。身構えるラテラの脇をすり抜け、リルウは彼に抱きついた。


「え……」


ラテラは困惑した。困惑するしかなかった。


一触即発という空気を堂々と引き裂いたリルウに。リルウにそうさせた存在に。


「どうして……」

「……色々あったんだけど、一つずつ解決していこうって話になったんだ」


リルウに頬擦りされながら、ジルトは苦笑していた。






リルウははしゃいでいた。


「お兄様っ、お兄様っ、久しぶりのお兄様だわっ! くんくん、ああ、良い匂い」


それはもう、はしゃいでいた。思えば、長い間彼と会っていなかった。お兄様成分が足りていなかった!


「久しぶり、リーちゃん」

「お久しぶりですお兄様ッ!」


はしっと背中を掴み、全身でジルトを堪能したリルウは、「はっ」と我に帰った。


「ど、どういうおつもりですか。まさか私たちを止めようと!?」

「そのまさかだよ」


ジルトが、にっこりと笑って言う。


「リーちゃん、企んでる計画全部、中止にして。お兄ちゃんからのお願いだ」

「お断りしますわ」


リルウもにっこり笑った。ガウナの餌になる前に、教祖の遺体を使い、『魔女の信徒』の自決を図る……そうしないと、リルウはガウナに勝てない。すでにリルウは、ガウナを殺すために、共和国の内政にまで手を出している。


ここまでしておいて、手を引くことなんて、できない。


「相手は薔薇の魔女です。人道は、捨てなければなりません。たとえお兄様が否定しようともーー」

「リーちゃん」

「なんですか?」

「好きだ」

「ふえっ!?」


顔が一気に熱くなるのを感じた。


「俺はリーちゃんのことが好きだから、リーちゃんには、師匠みたいに……アイツみたいに、不幸な道を歩んでほしくない」


握った手のひらからは、熱が伝わってくる。リルウの熱だけではない、これは、お兄様の熱だ。こくりと頷く。


「ありがとう」


それはそれは、優しく笑い、強く抱きしめられる。これまでの策謀を手放して良いものかと、思わないでもないけれど。多幸感に包まれながら、リルウは思った。


ーー私がいちばん欲しいものは、これだから。






そんな様子を見ながら、レオンは指を鳴らそうとした。


リルウ陛下はまだ十歳。精神的にも幼く、翻意なんてあり得ることだ。


ーー大丈夫。公爵を殺す手立ては、まだ失われていない。


ここは、()()を使って一旦離脱。リルウと袂を分かつとなれば、軍部に掛け合って、戦争を起こすことも……


「じゃあ、俺は兄貴のことを嫌いになろっかな〜」

「わ、私もやめようかな!?」


最愛の弟の言葉を聞いて、レオンもまた、くるりと手のひらを返したのであった。


敗因ブラコン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ