彫像の庭
広い庭に、彫像が、そこかしこに立っている。いや違う、これは人だ。人が、凍らせられて、そのままの姿で立っているのだ。
「陛下……」
非難の目で見ると、ぶんぶんぶんっ、と目の前の人物は首を横に振った。
「あんなのと一緒にしないで。一時的に凍らせているだけだから、ほらっ!」
ぱちん! その音と共に、彫像達は、生身の人間に戻ったのであった。
ブランと二人きりだった馬車に、行政局長官と、警邏局長が増えた。ブランが、“とある組織の殲滅”とやらをちらつかせ、馬車に引き込んだためである。
「君たちは、どうしてここに?」
「わかりませんか」
なんだか無愛想な警邏局長。内務省ごと、こき下ろしたことを怒っているのだろうか?
「貴方が外患誘致などを企てたがために、若造達が結束する機会を与えてしまった。私たちは、それを止めに来たのです」
隣に座る長官に目を遣ると、頷いて、
「部下達を誑かし、我々の領分を侵そうとするそちらの秘書官殿にも、一言言っておこうと思いまして」
長官は一時期ガウナの犬だったが、腐っても政府高官。一筋縄ではいかず、警邏局長は、犯罪者を相手にするだけあって、妙な貫禄がある。
「誑かすなんて、人聞きが悪い。私は、未来ある若者達の志の美しさに感動し、少し助言を与えただけですよ」
そんな二人の非難がましい視線を、ブランはさらりと流した。
「それに、先ほどもお話した通り、今回のアウグスト公爵の逮捕は口実です。私はただの秘書官ですよ、それも、近く辞任する予定のね。逮捕の権限はありません」
ーーよく言うよ。
警邏局と行政局の制服を着た人間を背後に並べておきながら。リラとランスの時とは話が違う。
「それに、公爵はご自分で私たちに着いてきてくださいました。計画のことをご存知だったのでしょう」
「それは……本当ですか?」
行政局長官が、ガウナの方を見てくる。ガウナは、「ふっ」と意味深長に笑い。
ーーもっと粘れば良かった……!
心の中で後悔していた。ソフィア殺害事件の裁判を終わらせられるという、甘い罠に引っ掛かった末路である。
ーーもっとジルト君に、
咳払いの音が聞こえた。ブランが向かい側から、半眼でこちらを見ていた。
「ああ、わかっていたさ。あの組織には、私も目をつけていたからね」
「さすがのご慧眼です。『魔女の信徒』を壊滅させる計画に、気付いていらっしゃったとは」
わざとらしい褒め方が鼻につく。背後にあの太眉がちらついた。予想はしていたが、『魔女の信徒』?
「『魔女の信徒』というと、教祖が処刑された組織ですな。まだ残党がいたということですか?」
これに反応したのは、できたのは、警邏局長。長官の方は、ガウナこそが魔女の生まれ変わりだと知っているので、驚きを声に出さない。ブランが、そんな二人の反応を見ている。
「ええ。ですが、それは表向きの話です。『魔女の信徒』の教祖は、実はまだ生きているのです」
いや、もう死んでいるはずだ。シンス・ゲイナーは、ガウナが授けておいた自死用の魔術で死んだ。交わした契約が切れていることからして、それは間違いない。
ーールージュ秘書官は、それを知らないのか?
「残念ながら、彼は王都の外に脱出したらしく、彼を捕まえるのには骨が折れそうです」
ーーいや、これは知っている方だな。
余計な策を企てるなとでも言うように、ブランはガウナに目を向けた。
「ですが、これを機と捉えましょう。彼が王都を離れている間に、王都から、『魔女の信徒』を一掃するのです」
「それを、我々に話した理由は?」
警邏局長が訊くと、よくぞ訊いてくれたとばかりにブランが頷く。
「お二方は、『魔女の信徒』の信者ですか?」
これには、二人とも首を振る。
「それが答えです。信用できるのは、あなた方しかいません。ですから、お呼びしたのです……まずは、王城関係者から手をつけようと思いまして」
「まさか」
驚いたような警邏局長と、苦い顔をする行政局長官。
「我々の組織にも、信者がいるというのですか……!」
ラテラが潜伏先として選んだのは、ディーチェル邸だった。
ディーチェル邸は、火事の前では貴族の屋敷が軒を連ねていたが、火事の後には貧民街となってしまった場所にある。
そんな貧民街にあるだけあって、防犯のため、堅固なつくりになっている。
はすだが。
「よく来ましたね、ラテラ・ルシウス」
せっせと侵入者達(元彫像)を縛るレオン(外務大臣)を背景に、女神もかくやの笑みを浮かべるリルウ(女王陛下)。
堅固なつくりになっているはずが、複数人の侵入を許してしまった。ラテラは、危うく教祖の遺体を落としそうになった。
「あの柵を飛び越えて、有刺鉄線を掻い潜ってきたというのですか」
「そこの男達はね。私には、これがありますから」
ぱちん。リルウが指を鳴らすと、虹色の枠が、何もない空間に現れた。“抜け穴”だ。
「入り口でこれを使い、中に入ったというわけです」
「……」
やはり、魔術は人智を超えた技である。人を凍らせて、解凍(?)したことといい、この女王様も、間違いなく化け物の一人。
「貴方がここに来ることは予想していました」
ラテラは身構えた。予想外の出来事。だが、その予想外を読んでいた人物がいる。次の彼女の言葉は予想がつく。
「その教祖の遺体、私にくださらない?」
「お断りします」
ラテラは、地面を蹴った。




