かいそう
その日、僕は赤と銀を見た。
小さな友達ができたことが嬉しくて、僕は階段を走って上がっていた。途中まで上がって、気付く。
あ、まずい。また、お母さんにお行儀悪いって怒られちゃうかも。
それに、この靴は走りにくい。あんまり走ると、怪我しちゃうかもしれない。
だから、僕はスピードを落として、ゆっくり階段を上がって、扉の前に立った。
扉の中は、なんだか騒がしい。大人の人でも、行儀が悪い人っているんだな。
お母さんがいつもお行儀良くしなさいって言う意味がわかった気がする。あんなに高い声で叫んで、喉が痛くならないのかな。
まあいいや、早く、お母さんとお父さんに伝えなきゃ。
そんなことを思いながら、僕は扉に手をかけた。
あの火災で死んだ人々を蘇らせることができる。しかも、自分の命ひとつで。
その言葉は、ハルバにとって願っても無いものだった。
初めて会ったとき、銀髪の公爵の言葉は、たしかにハルバに希望を与えたのだ。
だがそのとき、彼はため息をついて言った。
『ただ、彼は反対するだろうね』
『彼?』
『ジルト君だよ。彼は家族に、生き返らせてまでは会いたくないと言うだろう。だけど、本当は、彼が一番家族に会いたいと思っているんじゃないかな』
そうだ。ジルトは、英雄式典に出ようとしない。それは、喪った家族のことを思い出してしまうからなんだろう。きっと、彼は強がっているのだ。
ガウナの言葉に、ハルバは深く頷いた。
一度蘇らせてしまえば、ジルトの強がりだって解けるに違いない。喪われた四年の穴を埋めるように、家族に甘える、いや、なんだか回りくどいことを言いながらも甘えるような気がする。
素直じゃない友人のことを思うと、ハルバはこれからが楽しみになった。こんな自分に付き合ってくれた恩返しが、やっとできる。
『だから君に頼みがあるんだ。儀式をする間、ジルト君を遠ざける手伝いをしてほしい』
ガウナはジルトと面識があるらしい。
なんでも、英雄式典の日にリルウ陛下を助けたとかなんとか。その流れでかわからないが、ジルトがガウナのことを疑っているような気がするという。
一も二もなく、ハルバはそのことを了承した。
そうだ、これはジルトにとって良い事だ。騙すようで気が咎めるが、家族が蘇ればチャラになるだろう。
だから、ハルバは今日、ジルトを街に誘った。あの日に祖父といた丘に登ったのは、個人的な理由であるが。
夕日で燃えている王都を見せ、家族に会いたいかと問うた。
ガウナの言葉通り、ジルトは家族に会いたいと言い、生き返ったらどうするかという問いには、どうもしないと答えた。
だが、ハルバの賞賛を受けたジルトは、何か言いたげにしていた。
たぶん、ガウナの言う通りだったのだろう。本当は、家族を蘇らせてでも会いたいのに、ハルバに強がっていたのだ。
だから、ハルバはジルトを裏切った。
ジルトを人目につかないところまで誘導し、跡を尾けていたクライスによって気を失わせた。
クライスには、ジルトに危害を加えないように言っておいた。今頃、学園の保健室でぐっすり寝ているだろう。
ーー待ってろよ、今、家族に会わせてやるからな。
ジルトがどんな反応をするか楽しみだ。その反応を見れないのは悲しいところだが。
ハルバは苦笑して、先導する黒髪の男の後を着いていき。
やがて、古めかしい扉が現れた。
目が覚めた時、ジルトは一番最初に呟いた。
「あの野郎、なにヒロイン面してんだ?」
せっかく『アッカディヤの魔術儀式』について何も教えないでおいたのに、まさか自分から生贄になりに行くとは。しかも、ジルトを騙して。
まだクライスに殴られた腹が痛い。あのスカした執事、あとでおんなじところを殴ってやる。
ーーいやでもクライスさんめっちゃ強いからな。無理かもしれないな。
それなら、銀髪の公爵をぶん殴ってやる。全てはあいつのせいだ。
大方、アゼラ伯爵は隠れ蓑にされたんだろう。
ジルトがファニタを助けようとハルバから目を離し、伯爵を煽っていたその間、あの公爵は悠々とハルバに接触していたというわけである。
クライスがあの時やけに護衛にノリノリだったのは、ジルトがハルバと接触しないように見張る役目があったからだ。
そこまで考えて、ジルトはやはりあの公爵は殴らねばならないと決意した。
ここは学園の保健室。ジルトが眠っている間、ずっと隣にいて見守っていたファニタが教えてくれた。
クライスが、門番のフレッドに眠っているジルトを引き渡し、そのフレッドがジルトを一応保健室に運び。なぜか保護者扱いされているファニタが呼ばれたというわけだ。
ジルトはしばらく公爵とハルバへの悪態を吐いていたが、やがてため息を一つ。
「一番は俺が言わなかったのが悪い」
巻き込むかもとか思わないで言えばよかった。そうすれば、ハルバの馬鹿な考えを止めることができたのに。
「気が済んだなら、教えてくれる?」
ジルトの悪態でだいたい把握したのだろうが、なぜかファニタはやる気に満ちていた。ジルトは呆れた視線を送る。
「お前、関わる気満々なの?」
「勿論! 溜め込むって悪いことよ! だから、ぱーっと話しちゃいなさい!!」
経験者の言うことは違う。あの伯爵との一件から、彼女は強さに磨きをかけている。ジルトは苦笑し、挑戦的な笑みを浮かべた。
「そうだな、まずはファニタ、
『アッカディヤの魔術儀式』の結論について、シロートにもわかるように説明してくれ」




