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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第三審)
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一波乱

ああ、死ぬのにも過程がいる。煩わしい。


指を鳴らしたのは、“抜け穴”を使うと思わせるため。どうせ甘ちゃんどものことだ、シンスが目を覚ましたら、いの一番に逃げるために“抜け穴”を使うと思っているだろう。そこを突く。


逃げるのと死ぬのでは、前者の方が時間がかかる。だから指を鳴らす。

“抜け穴”を出現させる、“抜け穴”を使う。この二段階があると錯覚をさせる。ラテラ・ルシウスは手練れだ。だが、人間である。人間である以上は、油断をする。


ーー捕まったら最後、俺が逃げ切ることはできない、だっけか?


ガウナに言われていたことを思い出す。現にラテラは、シンスを気絶させるため、腹に一発蹴りを入れようとしている……だが、一過程遅いのだ。これが、あのイカれた元内務大臣のもとにいたらわからなかったが、今のぬるま湯にいる彼女では、シンスの狙いはわからない。


まあ、つまり、そうだ。


その時間で、シンスは死ぬ。ラテラが飛び退く。そう、正解だ。シンスがガウナから授かった“手段”が、牙を剥く前に、逃げるのが正解。


これで、変死体の出来上がりというわけだ。くそったれ。



  



幸運なことに、不幸なことに。ラテラは人の死に慣れていた。


目の前で、『魔女の信徒』の教祖が凄絶な死に方をしたのを見ながら、「ヒュラム参謀の時と同じだ」と呟く。たしか、“魔女の生贄”といったか。目を剥き、喉をかきむしる。見えない何かに首を絞められているような、悪趣味な死に方だ。 


教祖の足元に広がる、青く光る魔法陣。その光がだんだんと輝きを失っていく。


この部屋に窓がなくてよかったと、ラテラは思った。窓があったら、チェルシーが呼んだ警邏に気づかれてしまうだろうから。


ラテラは、そっと、息絶えた教祖に近づいた。死に方に比べて、割合に綺麗な死相だ。遺体が誰かわかりやすい。


「……」


放っておけば警邏が来る。ラテラが遺体と一緒にいたら、主人のチェルシーに迷惑がかかる。


ラテラは数瞬の後、教祖の遺体を担いで、部屋を飛び出した……。






血の飛び散った部屋。これはアントニーの血だ。


セブンスの転移魔術により、先程の場所へと戻ったチェルシーは、部屋に誰もいないのを見て、歯噛みした。


「おや、少し遅かったかな?」


とか言っているトウェル王をこの場で八つ裂きにしたい。それはセブンスも同じようで、射殺さんばかりに、彼を睨め付けていた。


「どういうつもりだ、とか、言ってる方がバカだな。最後の最後にチャンスを与えた俺がバカだった」

「チャンス、ね。やはり僕の親友は君だけだよセブンス。こんなに嫌われることをしているのに、まだ見限らないでいてくれたとは」

「この野郎が」

「まあそれはそれとして」


二人の不毛な喧嘩に、アントニーが割って入る。


「気になるのは、ラテラの行き先だな。まだここに来てない警邏と一緒に行ったとは考えにくい。警邏が来る前に、王様が言ってたことが起こって、とりあえずここを逃げ出したってところかな」

「警邏がどうして、まだここに来てないかが気になるけど……匿名とはいえ、通報したのは随分前だよ?」

「おい、そこの」


と、アントニーが、笑いながら佇んでいるトウェル王をちらりと見る。既に亡くなっていて、性格が悪いとはいえ、腐っても王様を「そこの」扱いするとは、肝が据わっている。


チェルシーなんて、あの荒屋での恐怖をありありと思い出せるというのに。


アントニーは、腕組みをして、


「なんか知ってんだろ、おい。行政局に比べて比較的仕事に真面目な警邏が、匿名の通報を疎かにしなきゃいけなくなった理由を」

「まさに、その行政局さ!」


雑に扱われたトウェル王は、相変わらず嬉しそうだった。


「あのカイリ殿のぼんくら息子が、こうまでできるとは思わなかった。やはり、恨むべきはあの腹黒参謀だ」

「ごたごた抜かすんじゃねえ。お前が存在できるのは五分だけだと自覚しろ。はい、あと一分。いーち、にーい」

「君は本当にカイリ殿の息子なのか……?」

「おらぁ! あと五十秒しかねぇぞ。ね、ジルトの師匠。これを逃したら、もう一生顕現出来ないようにしてやりますよね? さっきのチャンスって、そういう意味ですよね?」


揉み手をしながら言うアントニーの顔は、悪どかった。セブンスは、少しだけ視線を逸らして、「ああ」と言った。どうやら、違う意味だったらしい。


「……これ以上時間稼ぎをするなら、もう憑依させねえ」

「……味方が欲しかったくせに。まあ良いだろう。アントニー君の成長に免じて、知ってることを話そう。ここに警邏が来なかったのはね、“それどころではなくなった”からさ」 






ブラン・ルージュ束ねる新興勢力は、内務省警邏局と行政局の、未来ある若者達でできている。


そんな、夢と希望あふれる彼らが最初の敵にしたのが、自分というわけだ。いやはや、見事な嫌われっぷり。


「貴方は、もうすぐいなくなるはずでは?」

「ええ、いなくなりますよ。ですから、“やり方”を教えている最中です」


ブランの瞳は、どこまでも穏やかだった。護送車に揺られながら、二人は、取り止めもない会話をした。


「“禁域”調査はできそうですか?」

「ええ、おかげさまで。ですが、その前に一波乱ありそうですね」

「一波乱?」


ブランが、感情の読めない瞳でガウナを見る。


「ええ、ここまで刺激すれば、連中も、乗ってこざるを得ないでしょう」


馬車が止まると同時、扉が開けられた。顔を覗かせたのは、警邏局局長と。


「お久しぶりです、宰相殿」


ガウナを見事に裏切った、行政局長官。その後ろには、やはり、両局の制服を着た男たち。警邏局長が口を開く。


「ルージュ秘書官、これはあまりに、横暴が過ぎるのではないですか? 裁判中に被告を連れ出すなど」

「裁判は終わっていましたから。それに、これは、アウグスト公爵が提案したことです」


さらっと言われた言葉に、ガウナは声を出すべきかどうか迷った。この男、何を考えている?


そうしている間にも、ますます育ての親に似てきた彼は、見たことのある笑顔で微笑んで。


「一連の事件はすべて。とある組織を殲滅するための、芝居に過ぎないのです」

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