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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第三審)
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実行責任

あの時、シンスは虫の息のアントニーにこう言った。


『お前のやったことは、時間稼ぎに過ぎないんだよ。再審? そんなのはどうでもいい。できればって条件だっただけ』


その言葉を、認識阻害の結界を張りながら聞いていたチェルシーは、不思議に思った。


……時間稼ぎ? 再審がどうでもいい? いやいや、再審は、どうでも良くないはずだ。


クライスの中に入っているトウェル王は、こちらとしても、あちらとしても味方とは言い難いが、ガウナが『アッカディヤの魔術儀式』を使い、クライスから彼を引き離せば、クライスの一時的な解放に繋がるはず。

もちろん、ガウナの中に入ったトウェル王が、何をしでかすかわからないという爆弾付きではあるが。


ーー再審の次は、王立裁判所だ。


敵対しているリルウのお膝元で裁かれるとあっては、ガウナの命は無いも同然で、アヴェイル判事のいるソマリエ裁判所だからこそ、ぎりぎり命を繋げるはずなのに。クライスが敵になっている今、ソマリエ裁判所は要のはず……


ーーって、まさか。


手を繋いでいるラテラが、チェルシーの動揺を感じ取ったらしい。黄水晶の瞳と目が合った時、チェルシーは頷き、ラテラにゴーサインを出したのであった。




「できればっていうのは、王立裁判所よりもソマリエの方が甘いからだろうね。当初は王立裁判所で、正気に戻ったクライスに証言させるのを、ソマリエ裁判所に変更したわけだ」


ガウナがシンスに命じていたのは、アントニーを攫ってくることだけではない。セブンスが匿っているであろう“人間スイッチ”を探し出して、殺すことも含まれていたのである。


アントニーを攫ったのは、まさしく時間稼ぎ。チェルシーがアントニーを探している間に、自分はのんびりと、裁判の裏で、元門番を殺すつもりでいたのだ。


「ところが、ファニタがその狙いに気付いていたから、教祖様の計画は狂っちゃったってわけ」


正確には、ガウナの計画だろうが、実行犯はシンスである。


そもそも、ファニタが気付かなくとも、チェルシーが気付く可能性だってある。何の労苦もなくアントニーを攫うというのは、計画の詰めの甘さを感じられるが、そこは、計画を立てたガウナと、実行犯のシンスに微妙なズレが生じていたのだろう。


「敵も一枚岩じゃないってことだね」

「果たして、本当にそうかな?」


セブンスの隣にいる、見知らぬ男が気になることを言う。チェルシーは、眉を顰めた。


「何か知ってるの、貴方? ていうか、貴方誰?」

「誰だと思う? 当ててごらん」

「……」


その言い方。チェルシーは、自分の体を抱きしめた。大いに覚えがある。珊瑚色の髪をかき分けて、額に手を当てる。


「……ちょっと待って、よくわからなくなってきた。なんで、王様が別の人の体に入ってるの? クライスは?」

「彼は死んだよ」

「はぁ?」

「そう、クライス君は、彼に恨みを持つ者によって死んでしまった。そして、ガウナ君がそれを許可した」

「はぁあ!?」


次々と告げられる事実に、チェルシーの頭は沸騰寸前だった。


「は!? 公爵は、クライスを助けたくて教祖を動かしてたんじゃないの? なんで死ぬことを許してるの……って、そうか、それが魔術を得る条件ってわけか……でも、それじゃあ、なんで教祖はここの地図を持ってたの?」


見せかけの作戦なら、本物の地図なんていらないはず。


「……つまり、あの教祖は、偽の作戦を教えられてたってことだろ」


息を整えながら、アントニーが言う。


「一枚岩じゃないっていうか、敵を騙すにはまず味方からっていうか。そんな甘いもんじゃねえな、これは。チェルシーの存在を考慮に入れてない無意味な作戦を立て、教祖に実行責任を押し付ける。教祖はラテラに見張られてるから、クライスが死んだことを知る由もない」

「おや、アントニー君は優秀だねぇ」


感心したようなトウェル王。チェルシーは、舌打ちしたくなった。まさか、ファニタに読まれることまで、読んでいた? 


「アイツ、理由が欲しかったんだな」


アントニーの言葉が全てだ。ガウナは最初から、シンスを切り捨てるつもりで、穴だらけの作戦を立てたのである。


ただ殺すのではない。シンスが黙って殺されるに足る理由を、作った。


「……んなこと、わかってんだよ」


くあ、と欠伸をしたのは、ジルトの師匠であるセブンスだ。


「だから、誰かに殺される前に、あの教祖を助けに行こうってわけだよ。お前らを待ってたのは、そこのユダリカ君を奪取されないためと、あの魔女の狙いを話して、物分かりをよくさせるため。こうすりゃ、俺の計画を邪魔することはないだろ?」

「それは」

「殺させるのと、利用するの。後者の方がよっぽど良い。これは保護だよ保護。ほら、あのクソ魔女が警邏を寄越す前に、とっとと行くぞ」


どうしようか、と、チェルシーはアントニーを見た。アントニーは、迷うことなく、首を縦に振った。ここまで来るのに馬車を使った。今すぐ戻るには、時間がかかる。それなら、空間を一瞬で移動できるセブンスに頼るしかない。


「ラテラには、警邏を呼ぶって言ってある。あの公爵が寄越したとしても、私が寄越したと勘違いするだろうね」


まったくもって憎らしい。チェルシーが、苦々しい思いでいると。


「そんな顔をすることはないよ、ディーチェルの娘。セブンスだって、全てをわかっているわけじゃない」


そんなことを、トウェル王が言うのである。


「我が親友は、全体的に甘すぎるのさ。どうして、要らなくなった者を排除するのに、警邏を使うだなんて思うんだい? ああ、魔術は、“殺された者”の魂を使って増大できるからかな?」

「クライスを糧にしたとして、完全に、お前みたいな力が手に入るわけない。所詮は魔術なんだから。きちんと“育てないと”」

「そう、彼は、君がそう考えることを読んでいたんだよ」


おかしそうに、トウェル王は笑った。


「僕の周りはお人好しばっかりだ。警邏を待たずとも、あの教祖は死ぬ。なぜなら、彼は言い含められているからだ……」




この計画は、誰にも知られてはならない。少しのミスもあってはならない。

もし万が一、計画に支障が出た時は。




ーー死ねって言われてる。


シンス・ゲイナーは、指を鳴らした。

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