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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第三審)
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彼に無いもの

こつりと。


靴音がした。見上げると、ダレスと名乗った男が、警備員に囲まれながら、ジルトのそばまで来ていた。


「何をしてるんです?」


ガウナが立ち上がり、ダレスの方を向く。ダレスは、手錠をされている両手を挙げた。


「何もしない。ナイフも取り上げられたしな。だから、彼と少し、話をさせてくれ」

「……いいでしょう。この距離を保ったまま、話をしてください」

「君は、彼の保護者か何かなのか? まあ、いい。ジルト君と言ったね、さきほどは、腕を踏んでしまってすまなかった」 


深々と、ダレスが頭を下げた。顔を上げた彼の顔は、見た目には、晴れやかだった。


「私の復讐は、虚しいものだった。けれど、君の言葉に救われた気がしたよ。ありがとう」

「そんな、俺は」


あの時手を離してしまったことを後悔して、殺すのを、殺されるのを止められないで、みっともなく喚いていただけなのに。予想外の言葉に、どう答えていいかわからなくなってしまう。


「願わくば」


何もかも抜け落ちたような表情で、微笑む。


「君が、私と同じ思いをしないように」

「……」


ダレスは、ジルトが手を離してしまった意味を、正確に理解していた。


遠ざかる背中。それを見ながら、ガウナが不機嫌そうに言う。


「ジルト君は、そうならないに決まってるのにね?」

「なんでそんなこと言えるんですか」

「僕がそうさせないから」


ぽん、と、肩に手を置かれる。「それに」、


「僕の“良心”は、常に正しい」


あんまりにも、あんまりだった。藍色の瞳は、この場にそぐわない、慈愛と、狂おしいほどの期待に満ちていた。


「……」

「大丈夫、君が間違っているときは、僕がどんなことをしてでも正してあげる」

「反吐が出そうです」

「それも正しいことだ」


置かれた手が、どうしようもなく不快だった。


「アウグスト公爵、貴方もですよ。ジルト君から離れてください」

「はいはい」


だから、ブランがそうやって注意してくれて、安心してしまう。


「大丈夫か?」


ノーチラス侯爵を手当てしていた、ハルバとファニタが駆け寄ってくる。ジルトは頷いた。ハルバの頭のことも聞くが、「俺って石頭だからさ」と軽く流されてしまった。


「なにか、変なこと言われた?」


ファニタが心配そうに聞いてくる。ジルトは少し迷った後頷いて、ブランの元に向かうガウナの背中を睨んだ。


言い方からして、自分の正体がバレたことはわかった。それと同時に、這い上がってきた、気持ちの悪い感情。


「アイツ、人のことを何だと思っているんだ」






「もちろん、“良心”に決まっているだろう」


へらへらと笑う男は、もっともそぐわない言葉を口に出した。


「人間というものは、自分にないものを嫌悪し、反対に、愛好する生物だ。ガウナ君の場合は、後者だね」


かつての親友は、ゆっくりと、テーブルの周りを歩き出した。まるで、謎解きをする探偵みたいに。


「自分が手に入れられないものほど、輝いて見えるものだ。ガウナ君は、理想を拗らせてしまったんだね」

「お前みたいに?」

「おや、厳しい。それが親友に向ける言葉かい?」

「親友だった奴に向ける言葉だよ。最後の最後で、所有権を明け渡しやがって」

「あれは奇跡だよ。クライス君の、意思が起こした奇跡だ」


のうのうと言ってのける。セブンスは、舌打ちをした。


「それに、少しは緩めてやらないと、彼の方が先に死んでしまうだろう?」


何が面白いのか、笑いながら部屋の扉を開ける。そこには何も無い。だが、彼がこんこんと空間を叩くと。


何も無いはずの部屋に、一人の男が現れる。彼こそが、セント・アルバートにて、撹乱をしてくれた門番、ユダリカ・ヒューエルである。


「あっ、セブンス様、ちーっす。俺、まだ死ねないっすよ」


そして、彼こそが、セブンスの元親友を呼び出すための、魔力の源。人間スイッチ。


「僕には挨拶してくれないのかな?」

「腹黒王様には挨拶しません〜。ていうか、あの従者じゃなくなったってことは、あの従者死んだんすか? いいなぁ〜」


心底羨ましそうに、ユダリカは言う。そう、こいつは、何を隠そう、自殺志願者なのである。


家族と友人と恋人に裏切られた末に、セブンスに傾倒してしまった哀れな男。ソフィアのように復讐をしたいわけでも、フレッドのように恩を返したいわけでもない、ただの自殺志願者だ。


だから、遠慮なく使っている。


「お前、生命力強いな」

「なぁんか、そうみたいっすね。小さい頃から鍛えられてたからかな」


嬉しそうに言うヒューエル。褒められたと思っているらしい。


「自殺しようと思っても死ねない俺と違って、従者君は優秀だったわけだ。良いなぁ」

「お前ももうすぐ死ねるよ」

「本当ですか!? やったぁ!!」


頑張った甲斐があった、とはしゃぐユダリカ。皮肉なことに、これに耐え抜けば殺してもらえるということの一心で、生命力を維持していたらしい。


「ああ。だが、お前には、もうひと頑張りしてもらう必要がある」

「もうひと頑張りぃ?」

「そうだ。お前にはーー」


その、ときだ。


「見つけたぁっ!!」

「うわぁあああッ!?」


突如として、結界が割れ、一人の少女と、青年が入ってくる。


「セブンス・レイク! ジルトのお師匠様!」


びしっとセブンスを指さしてくる少女の髪は珊瑚色。ぜーぜーと息を整える青年の髪は、赤茶けた癖っ毛だった。


「もうこんな馬鹿なことはやめた方がいいよ! あの公爵、王様を呼び出す絡繰に気付いてるから!!」

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