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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
天秤と木槌(第三審)
323/446

検察堕とし

…長い!

この裁判には、不確定事項が多すぎる。


被告人席に立ちながら、ガウナは視線だけで、法廷を見回した。正面に座るトラス判事に、悠然と立つクライス(トウェル王入り)。再審を呑んだ陪審員に、抽選で選ばれたという傍聴人たち。その中には、草色の瞳を持つ少年もいた。


明確にわかるのは、行政局から遣わされた検察が敵であるということだけ。


だからまずは、検事を堕とす。


ーーこれは、アントニー・マルクスとセットだ。まず、内務省と財務省を旧政権で括る。財務省は全くの無実だが、旧政権というだけできな臭くなる。


事実、財務省は一度、ルクレール・ヘッジの一件で燃えている。それほどまでに、旧政権から続いている組織には偏見があるのだ。


ーー内務省の中でも、警邏局は僕の味方だけど、これも切り捨てる。


ガウナはシンスから、警邏局が、リブラ邸にたどり着くのが異様に速かったことを聞いていた。そこで思い当たったのが、自分の二枚舌の弊害だ。


自分が逮捕されたことによって、情報統制ができなくなったことは事実。警邏局上層部はどろどろに濁っているが、下部はそうでもない。行政局も同様。壊れた壁の向こう側と向こう側で、下部の若者たちが手をとる様子がありありと想像できる。組織の歴史という対立要素は、若者には通じなかったりする。


よって、警邏局、行政局の若者がガウナを仮想敵として定める可能性もある。うまくすれば内務省を掌握できるだろうが、残念ながら、ガウナにその自信はない。内務省には、未だにあの秘書官がいるからだ。そうだ、あの秘書官も消さねばなるまい。


それから、外務省を巻き込む。外務大臣であるレオンは、完全にリルウ側。できれば彼も堕としておきたい。


「これら三省が結託し、戦争に乗じて、都合の悪い人間を殺す計画が企てられたのです」


言いながら、本当にやりそうだな、と心の中で苦笑した。彼の方を見れば、なにひとつ、表情を変えていなかった。それが答えだ。


戦争という言葉を口にしたのは、あくまでも外務省を巻き込むためなのだが……これも、プランとしてあったのだろう。末恐ろしいことである。


だが、そのプランは実行されなかった。それはなぜか。鴉の一族があまりに優秀すぎたからだ。戦争の陰などに隠れなくても、不要な人間を殺すことができたからだ。


……都合の悪い死体の処理。


鴉がなぜ鴉と呼ばれるか。不吉の象徴、王家という太陽に仕える漆黒の鳥。説は如何様にもあるが、死肉を啄むイメージからそう呼ばれていたのだと、スピレード内務大臣が、以前、話してくれた。


鴉は動かなくなった人間を啄み、その人間の姿形を変えてしまう。ただの物にしてしまう。まさに、名前のない死体が出来上がるわけである。


エドガー家は、死体処理のスペシャリストであった……当時は陸軍参謀だったスピレードに滅ぼされるまでは。


戦争に乗じた、旧政権の陰謀。もちろんそれはでっちあげだが、勘の悪い検事も、やっとガウナの狙いに気付いたようだ。顔色が悪くなっている。


そう、ガウナは、反証なんてするつもりはない。今この場で、全員を堕とすつもりだ。クライスを糾弾すると見せかけての、全方面への攻撃である。


戦争という言葉を使うリスクはある。ガウナの言う旧政権というのは、主にトウェル王の任期を指す。そうしなければ、現内務・財務・外務を糾弾できないからだ。王城では、トウェル王の前の三省はまったく別物であるという認識が強い。

戦争前の罪をでっちあげても、言いがかり感が否めない。


だが、ここで一つ問題がある。トウェル王の任期は、終戦直前の十五年前ということだ。


それまでは、トウェル王の父親である、シド王が就任していた。戦争を始めたのはシド王である。父が存命する中で、当時王子だったトウェルが策謀を巡らせたとは考えにくい。

戦争を巻き込みつつ、三省を糾弾するのにはまずこれを解く必要がある。


「……当時、シド王が病に臥せっていたのは皆様もご存知の通りです。唯一王子として生き残っていたトウェル王は、病床のシド王に代わって政治をすることが多々ありました……」


シド王の死にはいくつかの疑問が浮かび上がっている。それなのに流されたのは、皆、先の見えない戦争を早く終わらせたかったからだ。この曖昧な部分が、ガウナには都合が良かった。


「戦争を始めたのはシド王ですが、彼がその時点で正気を保っていられたのかは定かではありません。もしかしたら、戦争を始めたのは」

「今更戦争責任の話ですか」


苛ついたような検事が、口を挟んでくる。


「検事、発言をするときは、許可を取るようにしてください。とはいえ、被告人の話が長いことも事実です。被告人は要点だけ話すように」


トラス判事に注意されてしまった。ガウナは少し考え、ちらりと傍聴席を見た。ガウナの撒いた餌に食いついているのは、二社。


ーーあれは、好戦派じゃないな。 


それだけ確認して、ガウナは元のクライス糾弾に話を戻すことにした。それにしても、“今更戦争責任の話ですか”とは。恐れ多くも内務省行政局に勤める者の言葉とは思えない。


「では、端的に話しましょう」


戦争と、トウェル王はなんとか結びつけられた。検事の憤りも相まって、信憑性も高まったことだろう。


「戦争は、内政の不安定さから、国民の目を背けさせるために計画されました。同時に、当時の政権にとって目障りな人物を、王家の鴉を使って殺す計画も進行していたのです。その計画の延長戦にあるのが、今、私が陥っている危機です」

「その計画を、証明する人物は?」

「ええ、存在します。ダガート・ノーチラス侯爵、彼が証言をしてくれると思います」


ガウナは、真っ直ぐに彼を見た。白髪の侯爵は、しばらく迷った後……クライスのことを見て、法廷に降りてきた。


「戦争に関連するかはわかりませんが、目障りな人物を殺す計画があったことは、事実と思われます……」


わかりやすいくらいだ。ノーチラス侯爵は、クライスのことを横目で見ていた。それに気付いているのだろう、クライスの顔をした彼も、ほんの少し、苦笑を浮かべている。


自分が身に覚えのない罪で悪者に仕立て上げられていくのを、彼は止められない。当然だ。ガウナを含め、開戦の真実は、王家の鴉であれども知る由のないことだ。ただ一人、魔術にて蘇った彼本人だけが、真実を知るのだが。


ーー彼は、そんなこと話せない。クライスが知っている以上のことを、話さなくてはいけないからだ。


セブンス・レイクには、感謝しないといけないかもしれない。


トウェル・ソレイユという化け物を、クライスの中に閉じ込めて制限をつけてくれたことに。大いに。

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